その本が、その人にとって特別な1冊になる。
少し前に、サディことコルクの佐渡島さんが「本を買って読むという体験って実はもっとリッチにできる」というようなことを言っていた。
リッチな体験ってどういうことだろう。そう考えていて思い出したのが、息子の出産祝いだ。
わたしには、もう8年くらい毎月集まって一緒に1ヶ月の振り返りをしている4人の友人がいる。結婚式の二次会を幹事もしてもらった夫婦共通の友人だ。
その友人たちから「出産祝い何がほしい?」と聞かれたときにわたしたち夫婦は「みんながおすすめの絵本を1冊づつプレゼントしてほしい」とリクエストをした。
大好きな友人たちは、いったいどんな絵本を選んでくれるんだろう。絵本が届くのはとても楽しみだった。
届いてからはみんなが「なぜその本を選んだのか?」という話を聞いた。
選んでくれた1冊には、それぞれの友人とその1冊の思い出があったり思い入れがあって、そこそこ長い付き合いの友人たちから聞く初めてのエピソードばかりだった。
あれから4年、息子は4歳になった。自分で本を選んだり、なんとなく読んだりもできる。我が家にはたぶん200冊くらい絵本があって、息子は本が大好きだ。
そんな息子と絵本を読むとき、息子がふと「これは◎◎からもらった本だよねー」と言ったり(息子は生後2週間の頃から友人たちとずっと会っているから、自分の友達くらいに思っている)、わたしもその絵本を読む時には友人が教えてくれた友人が小さい頃のその絵本との思い出が頭によぎったり、その絵本をもらった当時の気持ちを思い出す。
友人の大切な1冊が、今ではわたしにとっての、そして息子にとっての大切な1冊になっている。
どれもとても大切で思い入れのある1冊で、その1冊をとおしてわたしは何回も幸せな気持ちになれる。
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リッチな体験とは、その本を通して生まれる体験の深さと広がりではないだろうか。
そして、その体験によって、体験のキッカケとなった「本」は思い入れのある特別な1冊になるし、その本を読むことで、体験を再現できる装置になる。
そうなったとき、本は情報ではなくて、買って読み終わっても手元に置いておきたいモノに変わるのではないかとわたしは思う。
わたしが企画編集を担当し、書籍化した「本当の頑張らない育児」という漫画は、この記事・この本を通してコミュニケーションが生まれることを願って編集をしてきた。(それについてはこちらのnoteに)
連載中は本当にたくさんのコメントをもらったのだけど、その多くはこの作品自体の感想というよりも、読んで自身の子育てや夫婦関係について振り返り、自分の思いや考えを言葉にしたものだった。
本という形になってからは、夫婦で読んでお互いの気持ちを伝えあったり、家事や育児のやり方を変えるような話し合いをしたという報告が増えた。
連載中から合わせて行った7回のイベントでは、はじめて会う人と自分の子育ての話をしてみて、気付きを得たという声も多かった。
連載中の読者アンケートでは5000人の方が回答してくださり、出版イベント費用を集めるクラウドファンディングでは232人の方がパトロンになってくれ、私自身もSNSやメールやイベントで多くの読者の方とやりとりすることができた。
連載がおわってもう半年がたつけれど、今でも読者から感想や感謝の声が届く。連載を読んで、書籍を買って、そしてこの本をたくさんの人に読んでほしいと応援してくれるひとたちがいる。
それはきっと、ただ「読む」だけでなく、読んだ先にその人の心が動いたり、行動をしたり、その人にとってなにか大切な体験があったからなのかもしれない。