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映画感想文:ベルサイユのばら〜薔薇の花束をまとめるリボンとしてのオスカル・フランソワ
今日はベルサイユのばらを見に行ってきましたが、すべてが圧倒的に美しかったです。
絵柄が綺麗っていうだけでなく、あの世界に生きている人々の、その人生が鮮やかに映し出されてて、それが美しかったですね。
そして、オスカルたちやアントワネット、それぞれの生が真っ向からぶつかる革命が始まったクライマックスでは、嗚咽を抑えるのに苦労するほど号泣してました。
あの大長編を二時間の枠に収めるためにはエピソードの取捨選択は必要ですし、同時にその取捨選択には軸が必要になります。
その軸として、オスカル・フランソワとマリー・アントワネットという、「生身の女性であることを生まれながらに否定されたもの」同士の友情というテーマを持ってくるのは慧眼でした。
嫁いだ時にはフランス全てから愛されていたのに、真に愛した者たちは自分自身の過ちから失われ、最後は旧体制の象徴として断頭台に送られたマリー・アントワネット。
「女のくせに」「どうせ貴族」と白眼視されながらも、自分自身を真に知ったものたちからは等しく愛され、革命の象徴となる戦いでフランス市民の側で戦死し伝説となったオスカル。
こうしてみると、共に青春をベルサイユ宮殿で送ったふたりの薔薇の貴婦人は好一対なのがわかります。
そして、アントワネットだけでなく、この作品に登場する人々には、それぞれひとつの物語の主人公になれる存在感がありました。
ジャルジェ将軍に目を向ければ、ベルサイユのばらを「ジャルジェ将軍とオスカルの父子鷹」として再構築することもできるでしょう。親子最後の晩餐での「父上は私を卑怯者にはお育てにならなかった」という言葉は、将軍にとっては無上の誇りだったでしょう。だってこれは、「私が卑怯者にならなかったのは、卑怯者でなかった父上がいたからこそです」と言ったのと同じですからね。硬骨の武人として、こんなに嬉しい言葉はないでしょう。たとえ明日から、王党派と革命派という不俱戴天の敵同士になるとわかっていても。
また、革命派のアジテーターとして登場したベルナールもそうです。原作で見せた怪盗「黒い騎士」、「革命当初はフランス全土に10人といなかっただろう」と歴史家に評された王政廃止を目指す共和主義者のひとりとしての姿は、充分に主人公となれるポテンシャルがあります。
他にも、オスカルを真に正しく愛したジェローデル大尉、アントワネットからもオスカルからも等しく愛され、最後は革命への復讐者となった報いとして命を落としたフェルゼン、暗愚という言葉から程遠いはずだったのに民衆の怨嗟と侮蔑の対象となったルイ16世、他にも大勢います。
そして、こういった人物たちの物語に欠かせないのが、庭園や野原で無数に咲き誇る薔薇の花束をまとめるリボン、軍神マルスの子にしてアンシャンレジームよりも更に古い騎士道精神の体現者、そして「自由、平等、友愛」の理想に殉じた、オスカル・フランソワ・ド・ジャルジェなんでしょうね。
また、細かい点で言いますと、ミュージカル調といいますか、MV風の演出も多いなかで、剣戟シーンや市街戦シーンでの動きの細かさは圧巻でした。特に後者は、戦闘中の逃亡を予防するために横一列の隊形を維持させ、敵の銃弾の飛び交う中で弾丸の再装填を強いられる戦列歩兵を主力とする国王軍が、士気の高さから逃亡の恐れがないことから散開して遮蔽を確保して弾丸の再装填ができる革命軍に敗れていくのは当然の成り行きだったのが視覚的によくわかります。
この革命軍を指揮して一躍革命の守護者となったはずなのに、その革命の精神を断ち切ってしまった(そして革命軍を支えた士気の高さを失い、末期では徴兵拒否などに悩まされることになった)人物が、ナポレオン・ボナパルトその人です。今回オスカルと、それらしい人物と一瞬だけすれ違ったシーンがありましたが、それだけで「いまのナポレオンだ」とわかってゾクっと来ましたね。
そのナポレオンが主人公となり、そしてあのバスチーユを生き延びたアランたちのその後が語られるのが、以前にも言及したエロイカです。
もうこうなったら、購入するのをこれ以上先送りにはできんでしょう。
というわけで、帰りにスマホで手配しちゃいました。
また、今回の道中のお供にしたのは、年始に読み切った中公新書の「物語 フランス革命」でした。これはベルばらの世界観に対する補助線として、またベルばらを切っ掛けにフランス革命史に対する理解を深めたいと思った人にも大いにお勧めできます。
なお、てんぐの感想記事はこちらです。
また、ベルばらと同じ時代を舞台にした冒険活劇が、ラファエル・サバチニの「スカラムーシュ」です。
また、Amazon Primeでは映画版も見放題配信されています。
そんなわけで、ちょっと脱線もしてしまいましたが、今回のベルばらも大変に素晴らしかったです。
漠然とベルばらを、あるいはフランス革命を知ってる。そんな人にも、是非劇場まで足を運んでご覧いただきたい。そんな映画でした。
追記:これも正式公開されるんですねえ
脱線ついでにもうひとつ。
今日はTOHOシネマズ上野へ見に行ったんですが、時間を潰しがてらパンフレットコーナーを冷やかしてたら、この映画のパンフに目が留まりました。
これ、2022年のイベント上映で見たんですが、かなり面白かったです。
それと、Netflixで配信中のナタ転生や青蛇興起を見ておくと、世界観が掴みやすいかもです。
今のところ上映館リストにシネマシティ立川の名前がないのが残念ですし、こちらで上映してくれるとチケット代が浮くんだがなあ。
もちろん、新宿ピカデリーまで見に行っても全く構わないんですが。