②【雪山】ニューヨーク最高峰、マーシー山への挑戦、そして…
早朝5時。
自然と目が覚めた。
まだ辺りは暗い。
昨夜早く床に就いた。
1・2度、夜中に目が覚めたが、
体が疲れていたせいでよく眠れた。
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まだ暗いし、
何と言っても寒いのでシェラフから出たくない。
しばらくシェラフの中でモゾモゾしていた。
起き上がりお湯を沸かしてインスタントコーヒーを飲んだ。
体が温まる感覚があった。
本当は温かい食べ物が食べたかったけれど、
簡単なサンドイッチを作って食べた。
そして靴擦れの状態を確認した。
昨夜張ったバンドエイドにも
血がベットリとついていた。
皮はベロっと剥けて酷い状態…
最悪だ。
新しいバンドエイドを何枚か重ねて張り
ソッと靴下を履いた。
こんな足の状態で登頂できるのか、
一抹の不安を覚えた。
氷点下15度のせいで
ハイキングシューズはカチカチに固まっていた。
そこに無理やり足を入れ込むと、靴擦れの傷が痛んだ。
徐々にあたりが明るくなってきた。
そろそろ出ないと
時間的に登頂が難しくなってくる。
それに動かないと
寒くて体が固まったままだ。
私は全てのギアをバックパックに詰め込み、
お世話になったキャンプサイトを後にした。
歩いて10分程で大きな川を見つけた。
朝日に照らされた水面はキラキラと光っていた。
飲み水がなかったので、
川の水をくみ上げフィルターで漉した。
水に触れた手が一瞬で冷たくなった。
川に落ちないように渡り、
マーシー山を目指してどんどん進んでいった。
しばらくすると
”マーシー山まであと2.1マイル”
といサインを見つけた。
私の心は躍った。
あと2.1マイル歩けばマーシー山に到着する!
私は自分を奮い立たせた。
だがある地点から前へ進むのが困難になった。
雪が深いのだ。
軽く膝位まで埋まる。
スノーシューズは持ってきていない…
それでも登頂したかった私は、
雪に埋もれながらも前へ進んだ。
時間を確認した。
このまま登頂を目指した場合、
今夜のキャンプサイトにたどり着けない可能性が出てきた。
そうなると翌日の予約したバスの時間に
影響する場合がある。
私は決断しなければならなかった。
登頂するべきか、
ここで諦めて今夜のキャンプサイトを目指すべきか…
バスの時間。
体(足)のコンディション。
積雪の深さ。
そして日没…
様々な気持ちの葛藤があった。
目の前にマーシー山があるのだ。
頑張ったらもしかしたら登頂できるかもしれないじゃないか。
だがそれ以上のリスクを
考えなければならなかった。
リスク回避が最優先だった。
私は泣く泣く登頂を諦めることにした。
初めての敗北となった。
不思議なことに諦めて下山していると、
急に靴擦れを起こした両足が痛み出した。
私は足を引きずりながら、
登山口から一番近いキャンプサイト、
Deer Brook(ディア・ブルーク)を目指した。
山を下ると足元の雪がどんどん減っていった。
雪に埋もれて身動きが難しかった数時間前とは大違いだ。
私は靴に装着していた軽アイゼンを外した。
私は黙々と歩いた。
登頂できなかった悔しさで一杯だった。
「もしこれが夏山だったら余裕で登頂できたのに…」
などと、かっこ悪い言い訳をしていた。
キャンプサイトに着いてからも
登頂できなかったことを思い出すと、
急に悔しさがこみ上げてきた。
その悔しさをスキットルに入れてきたウィスキーで
体内に流し込んだ。
翌日、バスの時間に間に合うように下山し、
来た時と同じく7時間かけてシティーへ戻った。
こうして私のマーシー山への挑戦は終わった。
過去に制作したマーシー山についてのアニメーションはこちら↓
今もこうやってあの時を振り返ってみても、
もしあの時
”酷い靴擦れをおこしていなければだ”だとか
”雪があんなに深くなければ”だとか
”スノーシューズを持って行っていれば”だとか
”もっと時間があれば”だとか、
たらればばかり考えてしまうわけだが、
それらを少しでも予想さえできていれば、
登頂できた可能性はあったわけなのだ。
つまり雪山のアディロンダックは初挑戦のくせに、
それに向けて十分な準備ができていなかった
私に問題があったわけである。
雪山は普段の登山とは全く違う。
トレイルのサインは見えないし、
登山者も少ないのでトレイルが雪で埋まっている。
気温だって低いのだから疲労しやすい。
冬山のハイキングシューズは、
アイゼンを装着する前提で作られているので、
普通のハイキングシューズより硬い。
長時間歩いたら靴擦れを起こす可能性も考えれたのなら(その時の私は靴擦れの予想が全くできていなかった)、
靴擦れ防止テープを張るべきだったのだ。
雪山の登山には慣れていると
思い込んでいた私だが、
標高が違うのだから難易度も高くなるのは普通だ。
また、マーシー山は普段登っていた山よりも
更に北(ほぼカナダ)に位置しているため、
雪は深いにきまっている。
その後も懲りずに雪山へ
ハイキングやバックパッキングに行っている。
事前準備には更に慎重になった。
今はニューヨークを離れて
カリフォルニアで暮らしているので、
マーシー山へ戻るチャンスは無くなったが、
あの時の挑戦と敗北は、
冒険家としての私を成長させてくれるものだった。
私は今年もまた雪山を登るだろう。
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