ヘンなの
実家の朝食は、いつも決まってご飯と味噌汁、ヨーグルトの3品だった。
母が値引き商品として見つけてきた、あるいは父が突然パン屋さんで買ってきた食パンが、ご飯に代わって出てくる週末も時々あった。
そんな中、「何かに代わって」ではなく、プラスαとして登場するメニューがあった。
我々子どもの人気を集めた、朝食のスペシャルゲスト「ハムエッグ」だ。
我が家のコックである母の機嫌が良い時なのか、それとも卵の賞味期限が切れていたのか、出てくるタイミングは謎だった。
パリッと焼いたハムの上に目玉焼きが乗っかっているアレ。
黄身の表面は、白身の膜で覆われていて一見固焼きかと錯覚するが、割いてやるとトロッと溢れる理想の半熟具合になっている。
そして、この仕上げに無くてはならないのが「ケチャップ」だった。
我が家は、醤油でも、ソースでもなかった。
むしろ、あの派閥を決める問いに「ケチャップ」という選択肢が無いことが信じられなかった。
それくらい当たり前に組み合わせるものだと思っていたから。
学校で「ケチャップ派」を擁護してくれる人たちはいなくて、「ケチャップは聞いたことがない」と言われて地味にショックを受けたことを思い出した。
我々の当たり前が、世間一般的にはヘンなのかもしれない。そして、こういうことは生きていると普通にある、と知ったのはこの時からだ。
食べ物関連で、もう一つ。
実家の隣で暮らす父方の祖父母は、わたしが生まれるよりもずっと昔から商いをやっていた。
そのために仕事関係のお客さんがたくさん出入りする。
物心ついた時からそうだったから何も思わなかったけれど、今思えばそう多くはない環境だったのかもしれない。
出入りするお客さんの分母が多い分、その親族に子供が産まれた、という機会も多く、その度に祖母は赤飯を持って我が家を訪れた。
翌日の朝食に、お裾分けされた赤飯が並ぶ。
「それから、これね」
と、母が当たり前に置いていくのが、砂糖だった。
弟とわたしは、それをなんの躊躇いもなく赤飯にかけていく。
父はゲテモノを食べる人を見るような顔でわたしたちを見ながら、塩をかけて食べていた。
お父さんは甘党じゃないからな、とその時は勝手に納得した。
ある日、日テレ系列のテレビ番組「秘密のケンミンSHOW」を観ていた時だった。
まだ、司会がみのもんたさんと久本雅美さんだった頃。
番組では県民の秘密を持ち寄って紹介するのだが、ちょうどその回に「赤飯に砂糖をかけて食べる地域」として我々の馴染み深い場所が出てきたことには驚いた。
他の県民として出演しているタレントさんが、「そんな地域があるんだ」と不思議がっているのを、わたしは不思議だと思った。
どうやら、父が甘党だから、という問題ではなさそうだ。
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