ひとの話を聞いたら、世界とつながった
港まちに住む人の台所で、そこんちの定番料理を教わりながら一緒に食べて、会話を記録するプロジェクトの経過報告です。
〜ひとの話を聞いて何になる!?〜というサブタイトルで始まりました。これまでに5人のキッチンへ伺いましたが、いくつかをご紹介。
7月最初に訪問した市橋さんは、37歳で離婚後に看護師の免許をとり、ケアマネさんを経験したあと退職、両親を見送った。古民家暮らしに憧れて、終の住処を探して岐阜の方まで足を伸ばした。でも古民家にひとりで一泊した時、闇と静かすぎる夜がこわかった。安心して暮らせる新築マンションの12階に居を構えた。
バルコニーからは街を一望できて、彼女はそこで生ゴミをリサイクルしている。一緒に、たっぷり野菜のサラダうどんをつくった。野菜クズもバケツに入った土が分解してくれるから、うしろめたさを感じない。壁にかかった写真から、市橋さんがピースボートに乗って世界を旅した話を聞いた。
市橋:すっごい不思議に思ったのは、イスラエル。旧エルサレムの狭さに驚いて…。こんな狭いところで世界三大宗教が、自分のモノだ!って争ってるんだけど。ここの町内会同士で争ってるくらい狭い。
本原:この辺の町内会の揉めごと級。
児玉:ぐらいぐらい(笑)本当にキュってなってる。
調べたら、旧エルサレムと港まちの大きさは、ほぼ同じだった。そこで人が暮らしてる。体感でおんなじくらいと思った市橋さん、すごい。
8月、港まちの喫茶NUCO(ニューシーオー)で働きながら、この春からは港まち作り協議会のスタッフにもなったブラジル人のビニちゃんちを訪ねた。ガールフレンドのりかこちゃんが作ったお豆たっぷりチキンのトマト煮はブラジル料理ではなく、彼女のお母さんの定番料理。*めんつゆが入って甘い味が、なんだかとってもほっとした。
日本生まれのビニちゃんは5歳の時、半年間ブラジルで過ごすことになって、日本の幼稚園で壮行会をしてもらった。
ビニ:じゃ今日は出し物があります!って、サンバのメロディが鳴り出して、なんやろって思ったら、母がサンバ の衣装で出てきて...。 ブラジル人お母さんたちを引き連れてサンバ踊るみたいな。子どもながらにびっくりしちゃって。「あっ、これが恥ずかしいっていうんだ」って照れちゃったんですよね。
本原:他の子たちもすごいびっくりしたんじゃない?
ビニ:はい。中学に上がった時に保育園で一緒だった子たちと再会したら、そのこと覚えててくれたんですよね。「うわぁ〜、懐かしい! けど思い出したくない!」みたいな。
本原:いいね〜。日本の大人がそんな楽しそうに踊る姿なんて見ないじゃん。
ビニ:“セルフ送る会” みたいな感じでした。でもそういうキャラなんですよね、僕の母って。
陽気なお母さんがつくるおうちご飯はすべてブラジル料理で、日本料理は、インスタントお味噌汁だけだったそう。
イギリスに留学してた頃、幼稚園の頃から、家では自分とぜんぜんちがう言語で親と話し、ぜんぜん違うごはんを食べてる子と恋に落ち、結婚する若い人が増えたら日本も変わるんだろうなと思った。
全国の在日ブラジル人は201,865人。在住者数が最も多いのは静岡県で、2位は愛知県の人口1万人あたり78.72人。古橋くんが「誰もがそうですが、ビニちゃんもりかこちゃんも、自分たちの人生を生きながら、社会の縮図的な課題を知らずと背負って生きているんですよね。」と言った。
いきなりご飯をたべさせてもらえるのは、コーディネーターの古橋くんと児玉さんのおかげです。
毎月、展示を追加しています。
持ち帰りができる、会話の断片「a piece of chat」(A5サイズ)も用意しました。Webサイトで閲覧できるように準備しています。
豆たっぷりのチキンのトマト煮
港まちづくり協議会で作ってるハーブガーデン。もっさもっさに育ったミントを摘んでいって、ビニちゃんにモヒートを作ってもらった。*記事トップの写真参照。
【写真:村上将城】