廃れた土地で見つけたオアシス。3
振り返ると胸が高鳴った。
いつの日か見覚えのあるシルエット。
そして、思い出の匂いをしている男の人だった。
「あれ、出身。どこなの??」
『あ、出身は愛知です!』
「そうなんだ、俺さ、なんか君のこと身に覚えがあるんだよね」
、、、。まさか。
覚えててくれているんですか。
というか、こんな奇跡、あってもいいんですか。
鼓動が速くなる。
でもどう話を切り出せばいいのか分からなくて。
『そうなんですか?なんか嬉しいです!
あ、先輩の飲み物、空になってますね、何飲みます?』
やってしまった。話を逸らしてしまった。
願っていた再会が目の前で起きているのに。
その後、この会ではずっとこの男の先輩と話していた。
彼は「たいと」という名前で、たいと先輩と呼ぶことにした。
たいと先輩は2個上。
サッカーを小さい頃からやっていて、高校は地方の寮の学校で部活に励んでいたそう。
彼の出身は東京。
だが、彼は東京が嫌いらしい。
だからなんで東京にみんな憧れを持つんだろう、と高校の頃から疑問に思っていたそう。
「なんで東京の大学に進学したかったの?」
『やっぱり出会える人が東京の方が幅広いからですかね。地方に留まっていたら、知ることができなかったこともたくさんあると思って!』
「たしかにそうかも。でも知れるのはいいことだけじゃないからね、、、。笑」
先輩は何かを含んだように苦笑いをした。
私と先輩はどこか価値観が似ていた。
だから、話しやすかったし、すぐ仲良くもなれた。
連絡先を交換して、また2人でご飯に行こうと誘ってくれた。
結局、あの日の出来事についてはお互いに触れなかった。
そしてたいと先輩は、私の良き話し相手となり、お互いになんでも話せる相手になった。
これからの進路や人間関係、大学のことやサークルのこと。
それでもあの日のことは、夏を越え、秋になってもお互い話さなかった。
先輩。いつか絶対に伝えます。
その時まで待っていてください。
そう誓って、今日も東京で生きている。
私は失ったオアシスをまた取り戻した。