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第48回 第4逸話『カリュプソ』 その6
肉屋を後にするブルーム。横にあった新聞紙を一枚抜き取る。
また通りを歩きながらの独白。
歩きながら新聞を見る。
ある湖のほとりに、ユダヤ人労働者のための模範牧場を作る計画。その出資者を求める、とある。牧場の名はアジェンダス・ネタイム…。
ふむふむ…。
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”あの店主はあんな新聞読んでどうするのかな? 〜…会社に投資。〜土地に、オレンジ林にメロン畑、シトロエンを植えて〜でもオリーブの方が安価…。
〜なかなかいいアイディアだね。ま俺はいいけど”
読み終えた新聞をポケットに押し込む。
”〜そういやオリーブがまだ戸棚にあったな。モリーがあれ嫌いで云々”
”~シトロエンといえば、あいつどうしてるかな。前楽しかったな、モリーと行ったホームパーティ。
〜(前方の歩行者を見て)あいつ見覚えがあるな。挨拶しようか〜いや面倒だ。
”雲が次第に太陽を覆い始めた”は第1話(30ページ)で、スティーブンが見た空と同時刻の同じ空を示している。作者のさりげない小ネタ。
&『怪傑ターコー』なる語が出てくる。これは、なんかアイルランドでクリスマスに催されるお芝居の題らしいんだけど、これも第一話で、スティーブンがぼんやり言及していた。
他にも、スティーブンとブルーム共に喪服姿で登場する(約16時間の話なので以降変わらないが)。
スティーブン初登場の1話とブルーム初登場の4話は、色々対応している。
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(太陽を隠す雲を見てブルームはこの世の終わりを感じたのか?)
”いやそうは行かないね。
不毛の土地、砂漠の荒野、死の湖。〜灰色の金属の町〜降り注ぐものを彼らは硫黄と名づけた。ソドムとゴモラ(『旧約聖書』に出てくる都市。神の怒りで硫黄を降らされ滅亡)。すべて死に絶えた名。もう大変な年齢だよ。最初の人類を作った人たちだもん。〜(不意にあるおばちゃんの姿が目に入り)最古の人類が歩いてる(いやいやそりゃないだろ)。あちこち彷徨い、至る所に子孫を増やし、生まれて、死んでゆく…。今ではもう産めない。老婆のアレ。陥没した地球の陰門(ただの歩行者に酷い言いよう)”
陰門とは、女性だけが持つ門、すなわちオ〇〇コ。
ジョイスが書いた原文では”cunt”と記されている。
『ユリシーズ』がアメリカの雑誌で連載され始めた頃、掲載前の原稿を読んだエズラ・パウンド(ジェイムズ・ジョイスの友人にして編集者、詩人)は、この「4文字」に仰天した。
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この4文字は、「fuck」と並んで当時英語圏では印刷不可能な文字だった。
現在『オクスフォード英語辞典』で”cunt”という語をひくと、『ユリシーズ』のこの箇所が20世紀初めてに印刷されたものとして記されている、らしい。
いつの間にかエクルズ通りまで戻って来た。
"冷たい油が血管を流れる。老齢が俺の体を外套が包む。まあ今のところまだ大丈夫(健康状態)。今朝は口の中も頭もすっきりしない。ベッドの左側から降りたからかなあ(アイルランドの変な迷信)。腕立て伏せまた始めるか〜ところで80番地はまだ売れてない〜なんでかな〜評価額はたったの28ポンドなのに〜壁にベタベタ貼った広告〜(うちから)バターの香り〜ベッドの上のモリー〜これだこれ。
彼女は小走りに、俺を迎えに来る。金髪を風になびかせた少女が。”は、愛娘ミリーのこと。この後届いているミリーからの手紙の事と思われる。
ようやく自宅に到着。
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ブルームの独白は、スティーブンの独白に比べ、随分低度。これが普通の庶民。
…続く。
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