第47回 第4逸話『カリュプソ』 その5
そしてお目当ての「ドルゴッシュ食肉店」に着いた。
当時「上ドーセット通りA 55」ってところに精肉店があった(てか肉屋って朝8時からやってんの?)。しかし店主の名前はドルゴッシュではない。この小説に出て来るストリートや店や建物のほとんどは、名前もそのままで実際そこにあったもの。ところが作者ジョイスは、わざわざこの肉屋の店名を変えた。
ドルゴッシュという名前はジョイスのトリエステ(戦争から避難)時代の知人のユダヤ人モーゼス・ドルゴッシュから取られた。
ジョイスの狙いは、経済的な理由から、”敬虔なユダヤ人も豚肉を売らざるを得ない” 当時の社会情勢を嘆いて(もしくは信仰への嫌味?)、わざわざ彼の名を持ってきた。
ガラスケースの肉たちを眺める。
食肉の品定めをしてると、ブルームの隣に隣家の若い女中の姿を確認する。主人のお使いみたい。
「ソーセージ二切れくださいな」
ブルームの独白。
”荒れた手…洗濯ソーダ(洗剤)のせいだな”
”彼の視線は女中のもりあがった尻の上で止まった”
…あちゃ〜、ブルームさぁん、初登場から早々にしてキモいですねぇ。
”隣の主人は確かウッズと言ったっけ? 女房は確か歳食ってるし、あいつめ…。
俺の女中に手を出すな(ウッズとかいう人に、自分が忠告されたのを想像して)”
ブルームは横に置いてあった新聞紙の切れ端を見た。
そこには”モーゼズ(救世主モーセから取られたんだな)・モンテフィオーレ”の文字。それは当時名の知れたユダヤ人活動家の名前だった。何やらガリラヤ湖の畔に(ユダヤ人のための)模範牧場を作るとか云々。
”やはりユダヤ人なんだな”、と思うブルーム。
つまり店主のドルゴッシュを、「そんな内容が載っている新聞を購読しているらしいから、彼もユダヤ人だな」と推測したみたい。
続いて例の牧場の記事を思い出し、牧場主が牛のお尻を鞭でパンパンパンと想像し、そしたら隣の女中のお尻をパンパンパンと想像する。
朝っぱらから何考えとんねん(モデルのハンター氏は怒らなかったのでしょうか?)。
「毎度あり」。女中は店を後にする。
「そちらの方は、何がいいですか?」
ブルームはというと、背中を向けた女中のお尻に夢中。
”後を追いかけようかな。目の肥やしに(マジかよぉ。てかあんたん家の隣だろ)”
ブルームは急いで商品を指差す。店主は指された肉を、新聞紙に包める。
”おい急げ。ぐずぐずしてたら女を見失うじゃないか”
店主はのんびり豚の肝臓肉をくるくる。
”あっ、女は角を曲がった! バカテメェ、このノロマ!”
ブルームはさっさと諦め、続いて妄想。
”あの角の向こうに非番の巡査がいたりして…。
お巡りさん、アタシ道に迷ったの、ウフン。
「それは困りましたね」なぜか巡査はニタニタ…。
二人は路地裏の方へ…。
いきなり巡査の腕が、彼女の胸に!
彼女を抱きしめる。逞しい腕が弱々しい女の体を”
注!全てブルームのエロ妄想です。
「ダンナ、3ペンスでございます」お金を置いたブルームは思う。
”いや今日はいい、またにしよう”
店を立ち去るブルーム。
何がいいのか?
ブルームは、店主が本当にユダヤ人なのか確かめたかったらしい。
「いやぁ、実は私もそうなんですよ」なんて。
でも今度でいいやと思った。
で、女中も見失った。ショボン。
…続く。