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ブランドは『参加するもの』になっていく
今や日本でも広がりつつあるD2Cブランドだが、その要諦は中間マージンがないことでも原価率が安いことでもなく、自分たちの思想に基づいた体験を顧客に提供できる点である。
ブランドとの出会いから検討、購入、そしてサポートまでの体験を一気通貫でデザインし、商品というメディアを通して世界観を伝える。
モノも情報も溢れかえる中で、選ばれるために彼我の違いを生むには『商品の質』ではなく『商品を通した体験の質』を高める必要がある。
そしてその体験の質は商品やサービスによってのみ形作られるものではなく、どこで出会い、検討段階でどんなアプローチを受け、買った後にどんなフォローをしてくれたのか、そうした一連の行動すべてが顧客にとっての『ブランド体験』だ。
そしてそのブランド体験の根底にあるのが世界観と思想であり、その文脈から外れた施策はどんなに他社で成功しているものでも自分たちにフィットするとは限らない。
だからこそ、強固な世界観こそがブランドにとって最大の資産であり、キラーコンテンツなのだ。
『ブランドは参加するものになる』というとファンと共に作り上げていくようなイメージを持つかもしれないが、私はどちらかというとブランドが作りあげた国に顧客を招待する、と表現する方が近いと思っている。
能動的ではなく受動的に参加する、と言い換えてもいいかもしれない。
例えば私たちがディズニーランドに行くとき、ディズニーというブランドに貢献しようとか、一緒に作り上げようとは思わないだろう。しかし私たちはディズニーランドの世界を体験することを通してたしかにディズニーというブランドに『参加』している。
参加した結果としてパーク内でモノを買ったり、食事をしたり、年間パスポートを買ったりすることもあるだろうけれど、それはあくまで参加したことの結果に過ぎない。
逆に言えば、ブランドが作り上げる世界に参加してもらえれば、お金を払ってもらえるポイントは無数に広がる。
最近、Gwyneth Paltrowが立ち上げたライフスタイルブランド『goop』にハマっていろんな記事を読んでいるのだけど、これはまさに今後のブランドが目指すべきお手本だと思う。
goopは『ウェルネス』という一本の軸を貫きながら、ファッションからインテリア、コスメ、本にいたるまで様々なアイテムをキュレーションして販売しつつ、自分たちのオリジナルプロダクトも作っている。
さらにメディアとして最新のスキンケア情報やおでかけスポットを紹介したり、ヨガイベントやトークショーも開催している。
もはや彼女たちを表現する新しい概念が必要なのではないかと思う。
同じくフィットネスブランドとして注目を集めているPelotonは、自分たちのことを『a media-technology-retail-logistics company』と表現している。(下記参照)
Pelotonはフィットネス用バイクを販売するブランドだが、オンラインでインスラクターや他のユーザーとつながり、一緒にエクササイズをするという体験を提供している。
デバイスからソフトウェア、店舗まですべてを自前で作って提供し、熱狂的なファンコミュニティを形成していることから、Appleと比較して語られることも多い。
ここでポイントなのは、単にエアロバイクを売るためにそれらの体験を売っているのではなく、体験してもらうためにエアロバイクを売っている、という順番であることだ。
下記のブログで細かく解説されているのだけど、Pelotonが目指しているのはこれまで宗教が担ってきた『心の拠り所』としてのコミュニティの再構築なのだという。
Pelotonのユーザーは単にフィットネスがやりたくて他のものと比較して選んだのではなく、Pelotonの世界観に共鳴し、そこに参加するためにエアロバイクを買い、月々のお金を払ってエクササイズをしている。
エアロバイクだけではなく、ウェアをはじめとする運動に必要な小物が売れるのも、彼らが機能ではなく世界観で顧客を惹きつけていることの表れだろう。
これからのブランドは、自分たちの軸を持ってあらゆるものを自分たちの思想に則って作ったりキュレーションしたり発信したりするようになる。
そして私たちはどの世界に参加するかさえ選べば、そのコンテキストにあったものと簡単に出会えるようになる。
逆に言えば、コンセプトも世界観もなく単によさそうなものを集めただけの場所や、売れるからという理由で作られたものは人々を熱狂させることができず、競争が加熱し疲弊していく。
『小売再生』を書いたダグ・スティーブンスが『すべての企業は体験企業になる』と最近ブログに書いていたけれど、自分たちの世界の中でどんな体験をしてもらうかを考えることの重要性がこれからますます上がっていくのだろうと思う。
ものづくりも発信も店舗設計も、すべては自分たちの世界に『参加してもらう』ことにつながっていく。
誰と、どんな世界を作っていきたいのか。
ブランドを作るということは、その問いに常に向き合い続けることなのではないだろうか。
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「能力的にできる」ことと「実際にできる」ことの間に差が生まれるのは、人のキャパシティは有限であることを忘れてしまうからなのだろうなと思う。
— 最所 あさみ(asami saisho) (@qzqrnl) March 17, 2019
自分にできることだったとしてもコミットするだけのキャパシティがないと思ったら断るのもひとつの誠意やなと。
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