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『青音色』創刊号を読む 1 〜蒔田作品〜

私自身次号から参加させていただくことになった『青音色』は、パッパルデッレ名義で登録したnote初期にフォロワーとなった海人さん、渡邉さん、そして、海人さんが強く推されことから私も繋がりを得て、その後著作を集めている吉穂みらいさんの3人が始めた同人誌である。

今回、文学フリマには行けなかったのだけれども、Passage にて購入することができた。B6サイズで、三方断裁、表紙の紙質も滑らかで、しっかりしている。表紙デザインもすばらしく、「青音色」というイメージを余すところなく伝えてくれる。唯一、コメントするならば、僕は、著者3名が並んだ文字列の中央を渡邉有さんの「邉」にとって、タイトル青音色の中央に揃えた方がよかったのかもしれない、というところだ。おそらく、青音色というタイトル中央揃えをすると、あるいはルビ扱いで中央に揃えると、この位置になるし、よしんば「邉」を窓枠中央、音の中央を通過する線に合わせていても、バランスが悪くなったので、こちらにしたのかもしれない。いずれにしても、昭和レトロ感のあるデザインがすばらしい。

木曽福島にあるレトロ喫茶「田口氷菓店」の看板を思い起こさせる。

https://sakuranbou.com/0264-Taguchi.html様より引用

「特集」は「〜癖は心の窓〜」で、テーマ設定にもひとひねりあって面白い。

蒔田涼 「なくて七癖」

「異形化現象」という超自然的設定を物語にうまくなじませた良作である。ゴーゴリ+青春小説で、甘酸っぱさと笑いがいい塩梅に配合されている。蒔田ファンとしては、ノワール要素が比較的少ないことに驚きを隠せない。

江藤里香と「僕」が、この小説の時間を進めていく、重要な二本の軸である。

一方の軸である「僕」は、ある条件に至ると、「鎧を身にまとった侍」に変化してしまうという症状を発症する。それを業界では「異形化現象」と呼んでいる。けれど、これは思春期をすぎると、自然に治るとされ、発症する人としない人がいる、とされる。

「僕」は中学でのいじめを契機にして、「異形化」を発症する。そのため、高校は研究協力を条件に、奨学金を得て、私立高校へと進学する。そこでは、比較的平穏な暮らしが手に入るのだが、それでも一度だけ、「異形化」が起こってしまう。

「異形化」は敵意にさらされたときに、発症するのだという。自分に対する敵意だけではなく、第三者に向けられた敵意においても同じ。

そして、江藤里香と出会う。

江藤里香は、多くの男子に嫌われていた。根拠は定かではないが、悪評にさらされていた。「僕」も、江藤への敵意に触れてしまうと、「異形化」が起こる可能性が高まるので、江藤とは関わりあいをもたないようにしていた。

けれど、日本史Aの授業の発表をクリアするために、厳しい教師に唯一褒められた江藤を頼ることにする。そして、なんとか及第点をもらえる見通しがたち、その御礼も含めて江藤と話す中で、彼女もまた「異形化」の発症者だということがわかる。

いくつかのステップを経て、距離が縮まる。

そして、江藤がこうした状況になった、真の理由を聞く。

果たして・・・というストーリーだ。

見どころは2つ。

①「僕」と江藤里香の関係のゆくえ

これは恋愛小説として読み進めていく場合、気になるところである。私はプチハッピーエンドで、かつ、この二人の物語の序章、のように読め、興味深かった。

②「異形化現象」の発現プロセス

これは、理解できない他者を理解しようとする、ことに長けた蒔田作品の一番の見どころで、①のクライマックスの前に、そっと置かれている。「異形化現象」とはどんな心理的プロセスを経て発現していくのか、という推論を、江藤里香から私たちは聞くことになる。

感想

よかった。

敢えて言えば、学園という共同体に瀰漫する空気感も、描こうとした痕跡があったけれども、字数の関係から、そこは落としたという点が見えるところがある。

中高一貫校の高等部に流れる「無気力冷笑症候群」のありかがあることで、ラストのあれっという状況も理解できると思われた。この空気感のなぜ?については、おそらくは今回は外すという苦渋の決断をしたのかもしれないし、書かれていることを読み飛ばしたのかもしれない。

心に残ったところ

ムクノキのシーン。

情景描写を極力省く傾向のある蒔田作品の中で、特徴的に描かれているシーン。

目の前の木を眺めた。多分、ムクノキだ。山里育ちなので、木の種類には詳しい。郷里のムクノキに比べると、このムクノキは優雅だった。手入れが行き届いているのだろう。このムクノキのようになりたいと思った。穏やかに、優雅に生きたい。

正直「僕」の設定の中に、「優雅さ」への志向はあまり感じられなかったが、きっとこれは「僕」の内面の根源的なところを示すシーンなんだろうと思った。

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