【読書感想文】東大入試至高の国語「第二問」(竹内康浩著)

本書は、かつて東大現代文に出題されていた「200字作文」の問題を精選し、筆者が解説を加えたものです。ただ、現在では「200字作文」の問題は、出題されていません。受験参考書というよりは、東大の問題を手がかりに、東大が受験生に何を求めているのかを、徹底した精読と背景となる思想を加えながら、論理展開していきます。受験生が読んでもよいとは思いますが、むしろ大人になってから教養書として読むのに、十分な読み応えがあり、読み終えたときには、爽快感を感じました。

金子みすゞの詩や、映画「男はつらいよ」の寅さんの台詞など、実際に出題された問題を手がかりに、東大が受験生に求めているのは、一貫して「死」への考察だと論を進めていきます。金子みすゞの問題の赤本の解答や、某大学教授の解答は、字面の表面だけを浅く読んでいて、優等生的な解答とも思えるが、実は、読めていないと滅多切りにしています。なるほどと痛快で面白かったです。

人間が生きて存在するためには、何かしらの他者の犠牲の上にしか成り立たざるを得ないものであり、人間が生きている限り、意識するしないにかかわらず、人間は「存在の罪」を背負っている。そして、自らもやがて死を受け入れるが、自分が生きてきた負債は後世にも引き継がれ、死者は現存し、生者にも影響を与える存在でもある、というのが、筆者の主張でもあり、東大入試に通底するテーマと思われます。


本書を手にとった方には、各設問の、パズルを解くかのような鮮やかな筆者の読み解きに身を委ねて、読まれることをお勧めします。


実際に受験生の頃、この200字作文の問題には、何を書いたら正解なのか、皆目見当もつかず、試験場では、時間との厳しい勝負のなかで、とにかく字数だけ埋めた記憶がありますが、背景となる思想を少しでも理解しておけば、もう少しまともな答案を書けたかもしれません。


ただ、これから大人としての生が始まり、ワクワクする若者に、筆者の主張でもある死への考察を深めさせることを、入学の評価基準とするならば、青年期の心理的成長に、どのような影響をもたらすのかという点は、少し気になりました。


現在の東大現代文の頻出テーマは、私も知らないので、即戦力としては役に立たないかもしれませんが、読解を通して知を鍛えるのには、手頃な本だと思いますし、死生学に興味のある方も、入門書として読んで損はないと思いました。

(おしまい)

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