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スカイ・ダスト ~日本沈没から10年後の世界~ 第七話

 格納庫へ入った鳩原とラスタチカを待っていたのは、

「コホォー」

 ガスマスクを被った男(?)だった。

「コホォー」

 ガスマスク男はガスマスク越しに「コホォー、コホォー」と息を吐く。フードを深く被っており、手にはチェーンソー。その姿はさながらサイコキラーのようだ。

「うわあああああああああっっ!!!? さ、殺人鬼!?」

 鳩原はラスタチカの小さな背中に隠れる。

「殺人鬼じゃない。ウチのあにぃだ」
「あにぃ? 兄貴ってこと?」
「いやぁ、すまぬすまぬ。驚かせてしまったか。しかし許してくれ。これが拙者の制服なのだ」

 ガスマスク男から聞こえたのは思いのほか、柔らかい声だった。

「拙者はウィーバー。第9班のメカニックでござる」
「メカニック? ああ、なるほど。じゃあそれは作業着ですか」
「そんなとこでござる。えーっと、おぬしのことはなんと呼べば……」
「ポッポだ」

 鳩原が質問に答えるより先にラスタチカが答えた。

「ポッポ殿でござるな。承知した」
「よ、よろしくお願いします」
「そうかしこまらなくて良いでござるよ。見たところ、歳は同じぐらいでござろう」
(俺にはアンタの姿は見えてないんだよ! 年齢なんてわかるか!)

 鳩原はため息を一つ挟み、

「じゃあラフにいかせてもらうよ。なんか成り行きで出撃しないといけないみたいだけど、使えるビルドはあるか?」
「何機かあるでござるが、どれも癖が強い。初見で乗れる機体はないでござるな」
「トキの機体は? アレなら一度乗ってるし、やりやすいんだけど」
「ガシェットエースはまだ届いてござらん。そうだ! 拙者のビルドを使うと良いでござる。ガシェットエースと同じで軽装機だし、癖も無い」
「わかった。それで頼む」

 格納庫内を移動し、ウィーバーのビルドを拝見する。

「これでござる」

 性能的には癖は無いんだろう。だが、見た目は癖だらけだった。

「……こ……れに乗るのか……」

 機体全体に美少女アニメキャラの絵が描かれている。

「痛車……ならぬ、痛機……やっぱお前の兄貴も」
「ご推測通りだポッポ。兄ぃはアニオタ&Vオタだ」
「うむうむ。やはり可愛いでござるなぁ……スバル殿」

 スバル殿。というのは今ウィーバーがハマっているVチューバーである。

「日本文化がまだ愛されていて嬉しいよ俺は……」

 前向きに考え、ポッポはビルドに乗る。

「ラスタチカ。お前は乗らないのか?」
「ウチはオペレーター室から指示を出す」
「後ろで直接オペレートしてくれた方が良くないか?」
「いいや、マクスウェルの観測データはネストから離れると取得できなくなるからな。うちが同乗するとマクスウェルのデータが使えなくなる、つまり完璧な予測ができなくなる」

 マクスウェルの観測データはWSPが独占しており、外部からのアクセスは遮断している。マクスウェルには多重のセキュリティが成されているが、さらに万全を期すため、通信機器が一定距離マクスウェルから離れると一切の接続が拒絶される仕組みになっている。

 端的に言うならば、スカイネスト以外でマクスウェルは使用不可ということ。ゆえに、予報士は基本的にスカイネストを離れることはない。

「一人じゃ不安だけど……仕方ないか」

 鳩原はタッチパネルを触り、ビルドの武装とOPSを確認する。

(レーザー機銃2門、実弾機銃2門、シールド、小型ミサイルパック……搭載数4。それに、『ブレイド』? これは全く初見だな。武装少ない、けど、いっぱいあったところで使いきれないか)

 軽装機の基本的な射程武器はレーザー機銃。
 実弾機銃は弾数に限りがある上、レーザー機銃より威力が低い。連射数・速射性能には優れているため、ミサイルとか機雷の除去が主な役割。

 ミサイルパックの装填数はたったの4。ミサイルモデルは足は速いが誘導性能は低い『sprinter A-8番』。近くで撃たないとまずヒットしない代物。逆に言えば、近くで撃てばその速度からまず回避は不可能。

(OPSも書き換えておこう。エイムアシストは上げて、機体制御はなるべくCPUに任せたくはないから……)

 一通り設定を終えた所で、鳩原の耳に通信が届く。

『こちらラスタチカ。ポッポ、準備はいいか?』
「オッケーだ」
『ハッチを開く。正面のシグナルリングを通って東京郊外に出ろ。その後はフロントパネルにルートを表示する』
「了解。えっと、こういう時はアレか……」

 鳩原はゴホンと咳ばらいをし、

「鳩原修二、いっきまーす!!」

 鳩原の乗るビルドが発進し、ネストを飛び出す。

『実際にはソレ、あまり言ってないらしいぞ』
「え!? そうなの!?」
『にわか乙』

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