見出し画像

専門性はその人らしさ/要約『替えがきかない人材になるための専門性の身につけ方』

「専門性」とは、一体何を指すか
そして、どこまでの深さがあれば、「その道の専門家」を標榜していいのか

専門性は身につけることも、定義することも難しいッス。
でも、私たちは趣味であれ仕事であれ、好きなこと、得意なことを追求していると思うのです。
旅行の計画を追求している人もいれば、ガーデニングにめちゃくちゃ詳しい人もいると思います。説明書無しでパーツからパソコンを組み立てられる人もいると思います。
拘りや誇りを持っていることに対して、「専門性がある」と自称することは幸せなことです。

本書では、専門性の身につけ方、身につけるステップを解説しています。
何より「専門性」という言葉の捉え方が変わります

専門性とは「新しい専門知識を生み出すこと」であり、インプットではなくアウトプットである。すなわち、専門知識の消費者ではなく、専門知識の生産者になることを目指す必要がある。知識は常に更新されていくものであり、知識を進化させるために生まれたのが研究である。

本書より引用

専門知識とは「体系化された知識」である。情報とは要素であり、知識とはそれらの要素が集まって形作られる体系である。自分の頭の中で、知識が構造的に整理されていれば、一つ一つの知識がどう結びついているかを踏まえながら、知識を組み上げたり組み替えたりすることができる。

本書より引用

専門知識を持っていることではなく、生産者として研究し続けることこそ、本来の「専門家」です。
「ただガーデニングに詳しい人」に専門性はないのです。
一方で、「ガーデニングの知識を用いて、その地域や空間、コンセプトに合うガーデニングを提案できる人」には専門性があります。

好きこそものの上手なれとは、よく言ったものです。
専門性にこそ、その人らしさがあふれるのだと思います。

ただの物知りから、専門家になるチャンスを掴んでいきましょー!


『替えがきかない人材になるための専門性の身につけ方』

専門性で戦えるビジネスパーソンになろう

現代におけるビジネス上の決定的な変化は、ビジネスパーソンが従業員ではなくプロフェッショナルであるというプロ意識と、ビジネスのプロとしての存在意義が問われるようになったことだ。

プロ意識では、勤務した時間ではなく、自分の能力とそれによって生み出した成果がプロとしての価値と考える。プロは結果が全てであり、仕事の結果に対する全責任を背負って、自分の実力を磨くビジネスのプロとしての自覚を求められる。

これからの社会を自分らしく、前向きに生きていくためには、自己革新を追求する必要がある。自己革新のキーワードは専門性だ。専門性とは、既に存在する専門知識をインプットすることではなく、新たな専門知識をアウトプットできることを意味する。自分の専門性を差別化することで、専門性で戦えるビジネスパーソンになろうというのがこの本の目標である。

つまり、ビジネスパーソンには専門性を身に付ける型を習得することが求められる。専門性を身に付けるヒントは研究にある。研究とは、新しい知識を生み出す技法だ。ビジネスパーソンは研究者ではないので、論文を書く必要はないが、専門性を身に付ける型を知るために研究のエッセンスを理解することは大きな意味がある。

著者は電通で働く企業人であり、大学での研究を行っている。電通ではトランスフォーメーションプロデュース部長を務めている。第一線で活躍するトップランナーたちは、1つの専門性に固執するのではなく、新しい領域を柔軟に取り入れて、自分に付け加えていくことで、独自の形でブレンドされたスペシャリティーを確立している。

本書では、ビジネスパーソンが専門性を身に付けるとはどういうことかを考えるための本を厳選して紹介している。例えば、『読書と社会科学』、『知の技法』、『創造的論文の書き方』、『知的複眼思考法』、『論文の教室』、『知的創造の条件』などがある。

本書は大きく二部構成となっており、第1部ではビジネスパーソンが自らのキャリアを築いていく中で、専門性がキーファクターになることを読み解く。第2部では専門性を身に付ける方法について、スリーステップで解説する。

第1章「専門性」が求められる時代

労働市場で平均点にお金を払う人はいない。労働者側からすると、「余人をもってかえがたい」という状態を目指すことが、労働市場における自分の価値を高めるために必要である。平均点から抜け出すためには専門性で勝負することが求められる。『シリコンバレーで結果を出す人は何を勉強しているのか』では、「自分は何ができるのか」を明確にすることが大切と説かれている。

今から5年後のビジネスにおいて、ビジネスパーソンの最大のライバルとなるのは、競合する他社や他業種から入ってくる企業のビジネスパーソン以上に、AIである。人口の49%が人工知能やロボットで代替可能になると予測されており、半分近くの人は無用者階級になるリスクがある。

AIが不得意で、人間の方が優れていると考えられる能力は抽象的な概念を整理したり創出する力である「創造的思考」と、交渉や説得といった高度なコミュニケーション、他者とのコラボレーションをする力である「社会的知性」の2つである。

標準化されたプロセスの中で真面目に働いていればその働いた時間に対して給料が支払われてきた時代から、個性を活かして、培われる専門性によって創出された価値に対して値付けがされるような世界に移り変わる。

リカレント教育は、大学での社会人教育や生涯学習など、企業以外の教育機関における学び直しを想定しているのに対して、リスキリングとは、会社におけるジョブチェンジを意識した新しいスキルの獲得を意味している。

勤務時間はいわば試合中であり、試合中だけでなく、練習時間をしっかりと設けて、自分の技に磨きをかけるのがプロのビジネスパーソンとしての作法である。

第2章「専門性の身に付け方」が武器になる

専門性が身に付かない理由として、ビジネスパーソンが陥りがちな4つの失敗パターンがある。
①すぐに役立ちそうな知識を吸収しようとする。すぐに役に立つものはすぐ役に立たなくなる。

②年収をアップさせるために勉強する。お金を目的にすると、それ以外のすべては手段になるため、専門性を身に付けてブラッシュアップしていこうという観点では、いずれどこかで限界が訪れる。外圧的に設定された報酬は遅かれ早かれ終わりが来るため、「好きこそものの上手なれ」と、本人がそれを努力だと思っていない、むしろ楽しんでいる状態が一番である。嫌いなことはやらないという戦略は、専門性を身に付けるために欠かせない。

③過去の実績や経験に価値を置いている。学びよりも過去の実績や経験に価値を置くと、専門性がアップデートされずに錆び付く。

④仕事に直結する専門分野しか目に入らない。より自由な視点で興味を持てる分野に目を向けて、専門性の身に付け方自体を習得することが長い仕事人生において強力な武器になる。スティーブ・ジョブズがカリグラフィーを学んでいたように、自分の専門分野からなるべく遠い分野の学問に手を出すことで、複眼的思考を身に付けることができる。

「専門性の身に付け方」を身に付けよう。
歌舞伎役者の18代目中村勘三郎さんは、「型があるから型破り、型がなければただの型なし」という格言を大切にされている。型を知っていて破るからこそ効果がある。型を習得することで、応用可能なものと、そこから外れるものとの的確な見分けがつくようになる。欧米では、企業の採用において「どのような専門性があるか」を求める傾向が高く、何に所属するかよりもどのような人材かを示すシグナリングが重要視されているため、学位の有効性が評価されている。

第3章 専門性を身に付ける方法を知ろう

専門性とは「新しい専門知識を生み出すこと」であり、インプットではなくアウトプットである。すなわち、専門知識の消費者ではなく、専門知識の生産者になることを目指す必要がある。知識は常に更新されていくものであり、知識を進化させるために生まれたのが研究である。そのため大学で教えるべき事は、既成の知識を教えるものではなく、いかにして知識を進歩させるのかの技法である。

専門知識とは、研究によって生み出されるものであり、研究によって生み出された新たな専門知識が蓄積されていくと学問になる。ここの知識がバラバラのままで、体系的に組み立てられていないと、専門知識とは呼べない。つまり、専門知識とは「体系化された知識」である。情報とは要素であり、知識とはそれらの要素が集まって形作られる体系である。自分の頭の中で、知識が構造的に整理されていれば、一つ一つの知識がどう結びついているかを踏まえながら、知識を組み上げたり組み替えたりすることができる。SNSからは断片的な情報しか手に入らない。

知識は要素ではない。知識は、単独で存在するものではなく、別の知識とどのように結びつき、全体としてどのような構造になっているのかというところにこそ肝の部分がある。新しい知識というのは全て、これまでに存在した知識の進行形である。参考文献や引用文献のない新しい知識は存在せず、新しい部分があるとすれば、その組み合わせや組み立て方、あるいは違った視点で調査や分析、実験をした点である。以上のように、新しい知識を生み出すことは、断片的な情報を集めるのではなく、知識と知識の新たな関係性を発見して、知識の新しい構造を作っていく行為として捉えることができる。

今ある専門知識を勉強することではなく、今はない専門知識を研究することが専門家になるための唯一の道である。教えることができる知識はもはや研究を必要としない。

専門性を身に付けるステップ

ステップ1 自分らしい問いを立てる

問いを立てるとは、自分で問題を作ることだ。同様に、会社は仕事を遂行する場所ではなく、世の中のためになる仕事を作る場所である。問いを立てるという行為は、「自分にとって大事な問題は何か?」ということを自分自身に問いかけて、社会に対してどんな貢献ができるのかを見いだすことだ。

問いの具体的なイメージを本のタイトルで例に上げると『文系と理系はなぜ分かれたのか』はお手本のようなものだ。言われてみればちょっと気になるけど、簡単には答えられないというのがポイントだ。何にも縛られず、自分が面白いと思うことを見つけるのが起点となる。他にも、『ウンコはどこから来て、どこへ行くのか』『カッコ良いとは何か』などがある。問いというのは、いわばアンテナであり、アンテナを立てておくことによって、自分の問題意識が研ぎ澄まされる。

専門性の出発点となるのは、仕事で必要だからではなく、自分にしかできないことをやりたいからである。問いは、狭く、小さく絞り込むことが重要である。小さく、絞り込んだ問題はどんどん深めることができる。深まっていくと、逆に広がりも出てくる。専門性は深く狭いことに価値がある。

「深掘力」は、何かを研究するという経験から得られる最も重要な能力で、メカニズムを明らかにすることである。「ワーキングプア」「ブラック企業」などの例からも、新しい概念によって見えなかった構造が明らかになる。

ステップ2 オリジナリティを発見する

自分の問いに答えていくにあたって、それを自分ならではの専門性につなげていくためには、問いの「新規性」と「独自性」が生命線となる。ユーグレナの出雲社長は、バングラディッシュでは食料が足りてないのではなく、栄養のない食事が原因で栄養失調になってしまっている現実を目の当たりにし、「様々な栄養素が1つに詰まった素材はあるのか」という問いを立てた。その問いを探求し、ミドリムシと出会った。

オリジナリティとは、「すでにある情報の集合に対する距離」であり、誰も立てたことのない問いを立てるには、既に誰がどんな問いを立て、どんな答えを出したかを知らなければならない。ビジネスにおいて、価値のある専門知識とは、一般的な専門知識ではなく、差別化された専門知識である。「なんでそこに興味があるの?」と言われそうな領域は、誰も深掘りしようとしないブルーオーシャンである可能性が高い。

論文は本よりも短く、要旨を読めば書かれている事の概要が把握でき、さらには先行研究の検討が行われている。論文を読むことで、今何がわかっていて、何が分かっていないのかという「知のフロンティア」を知ることができる。まずは、その分野で代表的な論文を紹介してくれる「レビュー論文」を読む。その中から自分が気になる論文をピックアップすれば、それが自分の興味関心を掘り下げていくための起点になる。

本を読む時も、問いを立てて専門性を深めていこうとするときに、参考文献がない本は読まなくて良い。また、目次を読むことで、本で扱われているテーマがどのように構造化されているかを掴むことができる。そして、自分が立てた問いに関して、「どこが新しいのか」を明確にする。

「どこが新しいのか」を明確にするために欠かせない要素として、『知の技法』では「不同意の度胸」が挙げられている。自分の意見と他人の意見の違いをしっかりと意識することがとても重要で、安直に頷き合いをしない。

東京オリンピックのエンブレム問題があったように、オリジナルとコピーには違いがある。先人たちが創造したものに対して、敬意とリスペクトを持ち、新しいと思っていたものが、新しいものではなかったかもしれないということをまず見つめ直すべきである。そういった観点からも、自分のオリジナリティだと思うことに対して、その新規性と独自性を丁寧に説明し、どこが新しいのかということをしっかりと理解してもらえるよう真摯に伝える姿勢が最も大切である。

ステップ3 多様な意見を尊重する

専門性とは、一般的な知識を広く浅く知っているだけで認められるものではなく、少しでも差別化された知識をアウトプットすることによって確立される。そのためには、自分が目をつけて深掘りしようとしていることのどこが新しいのかを明確にして、わかりやすく伝える必要がある。そして最後のステップでは、自分が立てたオリジナルな問いに対して、小さな問いにブレイクダウンして答えを出す。

認識しなければならない事は、そこに正解はないことである。正解が存在するとき、その問いはオリジナルな問いではない。答えを探し当てることよりも大切な事は、問いと向き合って、自分の頭で考えることで身に付く深堀力である。たとえ答えにたどり着けなかったとしても、答えに近づこうとして悪戦苦闘した経験自体に意味がある。

すぐには答えが出せない問題は、よく見ると、複数の問題から成り立っているため、最初の大きな問いを複数の小さな問いに分けて行って、それぞれの問いに答えることが最初の問いへの回答になるようにしていく方法を取る。自分が取り組む問題が、どのような要因の複合かを考えて、問いを分解する。角度を変えて問題を多面的に見ることで、常識的な見方に留まらない独自の視点を得ることが可能となる。ぺこぱの「優しいツッコミ」はリフレーミングのお手本である。

ブレイクダウンの7つの視点

①原因と結果を考えてみる(なぜ?どうして?どうなってる?)
②仮説を立ててみる(もしかしたらこういうことかな?)
③真偽を確かめてみる(ほんとに?どういうこと?これだけ?全部そうなの?)
④現象を言い表す概念を作ってみる(こういう言葉で説明してみたらどうかな?)
⑤他の国や地域と比べてみる
⑥歴史をさかのぼってみる
⑦言葉の意味や成り立ちを紐解いてみる

手品の研究をしている人が、腐女子の研究の議論に参加しても、問いを立ててどんな風にアプローチして、どうやって答えを出しているのか、自分が追求したことにどんな意味があって、どういう形でその意義を伝えているか、といった様々な面で刺激を受けることが大いにある。

日本には学会が2000以上あるため、自分が追求してきた内容を学会発表することで、専門性が身に付いたことを示すことができる。

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?