この書物は、ヨーロッパ文化における完全言語の探求をたどります。第二章でカバラーに触れていますが、それは探求案の一つにすぎません。
自然言語の不完全さに言及して、完全言語を探求する潮流は、今もなお連綿と続いているのだが、その潮流は1600年頃に変わったようです。
1600年頃といえば、ヨーロッパは、ラテン語による支配から抜け出しつつあるタイミングです。ラテン語のもとで停滞していた宗教や科学や哲学が、新たな言語場を得て、発達しだすタイミングです。
1534年、マルティン・ルター、ドイツ語で旧約聖書を出版。
1620年、フランシス・ベーコン、英語でノヴム・オルガヌムを出版。
1637年、ルネ・デカルト、フランス語で方法序説を出版。
言語そのものに言及するところが、トマス・ホッブズ『リヴァイアサン』(1651年)やジョン・ロック『人間知性論』(1689年)にあるようですし、コメニウスや、ライプニッツ(第十四章)も、言及しているようです。
この著者は、第十七章「結論」で、アラブ人のイブン・ハズムの説明「原初の言語はその後にすがたを見せることになるすべての言語をもとから包蔵していた」をうけいれて結んでいます。
以上、言語学的制約から自由になるために。