HCIとConstructionism
これはHCI アドベントカレンダー 2024の12日目です。
私は東京大学 情報学環・学府 の苗村研究室で特任研究員をしています。
東大で特任研究員というのはプロジェクトに雇用される研究員ということで私は情報学環中山未来ファクトリーというプロジェクトに参画し、そこでは人間と遊びをキーワードにさまざまな活動しています。
また、所属する苗村研究室は工学部の電子情報工学科、情報理工学系研究科の研究室でもあり広義のHCI分野で研究活動をしているラボと言えます。
なので、とっくりHCIのお話でもしたいところですが、私自身がこの分野を意識的に取り組み出したのはこのラボに来てからとなりますので、まだ日は浅く、自身の関心に絡めてHCI分野を見てみようと考えてのタイトルとなります。(ということで、お手柔らかにお願いします)
HCIとは
これは私が改めて語ることもないと思いますので、カレンダーで2日前の投稿で、弊ラボのOBで、この分野でご活躍の平木さんのお言葉をお借りします。
確かに身の回りにコンピュータの溢れかえる今「HCIでないものはもはや殆ど存在しないのではないか」というご指摘は的を得ていますね。では最近の研究テーマなのかと考えてしまいますが、トップカンファレンスであるACM SIG CHIのHistoryのページを見てみると1982年から続いている歴史ある取り組みということがわかりますね。パーソナルコンピュータの登場・普及(1970年代?)によって立ち上がってきたテーマなのかなと感じます。
Constructionismとは
こちらは私が関わる子ども向けのプログラミングワークショップに関連して接点のあるテーマです。日本語にすると(学習における)構築主義と訳される考え方で、MITで研究をしていたシーモア・パパートが1980年ごろに提唱した概念です。(学習における、と断るのは社会的構築主義と紛らわしいことがあるからです)
簡単に説明すると、個人が何かをつくり出す過程で起こる学びを重視し、個人主義的な学び方を提唱し、LOGOというプログラミング言語をつくり子どもたちが積み木や粘土で遊ぶようにプログラミングを通じ数学的な概念を学んでいくと言うものでした。LOGOにはタートルと呼ばれる画面上を動くキャラクターがいて移動すると軌跡を描くためそれを用いてコンピュータグラフィックスを作って遊ぶような行為を通じて数学的であったりアルゴリズム的な処理を実際に体験したりすることができます。
学会としては1987年から隔年で開催されていたLOGO学会から2010年にConstructionism conferenceと名前を変えて現在も続いています。私も2023年に参加することができパパートさんと活動をしていたシンシア・ソロモンさんと楽しい交流ができました。
子ども向けのプログラミングワークショップとしての関係としては、私がそこで利用していたScratchというプログラミング環境はミッチェル・レズニックによって開発されています。そのレズニックさんはパパートさんの教え子ということで、この考えを強く引き継いだものになっていたので、掘り下げて勉強をしました。(音楽で言うと好きなアーティストの元ネタを掘って、洋楽にたどり着いたりする感じでしょうか?脱線)
私も当初からワークショップ等を通じて「プログラミングを学んで欲しい」というつもりはなく、構築主義の考えを知ってさらに「作ることで学ぶ」(これもパパートらの言葉です)ことを伝えることを意識的に行なっています。
(この姿勢は私が大学で学んだのが美術(現代美術)だった事も影響していると考えています。まさに「作ることで学ぶ」日々でした。)
HCI と Constructionism
それらをどのようにお話ししようかと考えたのですが、せっかく研究員という立場を任命いただいていることもあり、リサーチのようにその二つを取り上げて語っている論文を探してみました。
Experience-Based Constructionism as a Basis for HCI Education: A Case Study
まず、HCI教育にConstructionismはいいぞ!と言ってる論文です。
HCI分野で新しいテクノロジーはどんどん出てきます。そうしたものをキャッチアップするのに”Experience-Based Constructionism”=「経験に基づくコンストラクショニズム」を提唱しています。
Experience-Basedの部分はジョン・デューイの思想に基づくアイディアなのですが、そもそもパパートらもデューイのことを参照していたりしますので、ここでわざわざ合体させなくても構築主義は経験ベースの学習活動と言えると私は考えていますが、最新情報を追いかけてその応用や意味背景を探るという活動では、網羅的に教示的に学ぶことよりも向いているということはとても同意しました。
評価として、55人の大学生が、自由にデザインした物理的なインタラクティブアートを作る実践的な学びの場に参加し、実際に手を動かして学ぶことができたとあります。9つのインタラクティブな作品を作り上げただけでなく、HCIについての理解が深まったと感じ、新しい方法やツールを使いこなす力も身につけられたようです。
Hackers, Computers, and Cooperation: A Critical History of Logo and Constructionist Learning
次に、CSCWのHCIのジャーナルでConstructionismについて書かれた論文を紹介します。
こちらは、Constructionismを丁寧に掘り下げ、LOGOを振り返り、現代の同様な環境として、ScratchやFablabを紹介しています。
またこの考えに影響を与えたものとして、パパートが師事したピアジェの思想、当時のMITのハッカー文化についても触れ、遊びや悪ふざけから爆発的な創造が起こった事、個人主義や反権威主義などの思想も濃かったことが紹介されています。極端な意見にも聞こえますが、パパートは当時の学校を「人工的で非効率な学習環境」とも言っていたようです。
ここからは論文から離れますが、シンシア・ソロモンさんが当時の貴重な映像を自身のYouTubeチャンネルで公開してくれているので紹介します。
LOGOのタートルは当初、実体タートルと呼ばれるロボットでした。それによって子どもでも身体的感覚でロボットの操作やそこから派生する数学的な考え方を体験していきます。
この時代になると、LOGOのタートルはスクリーン上を動くカーソルになります。これにより多くの子どもたちが利用可能になり、さらには日本にも届き活用されてきました。
今となっては昔話で、資料やその図版からだけでは、LOGOを使ってコンピュータに向かう子どもたちが実際に何を行なっていたのか伝わりにくいこともありますが、こうした動画の様子を見る限りプログラミングを英才教育的に叩き込まれたスーパー小学生だったというわけではなさそうです。
まとめ
一見、コンピュータ(と人間)の世界の話題であるHCIという見方と、教育・学習の世界で語られるConstructionismという考え方は遠そうな気もしつつ、実は1つ目の論文がデューイとパパートの考えを掛け合わせた事と同じように、わざわざタイトルで示すこともなかったのかもしれない、とここまで書いて改めて感じました。
また、今は第n次の人工知能(AI)ブームですが、シーモア・パパートは、マービン・ミンスキーと共に、LOGOの後(後と言うかその上で、ですねLOGOの一部には強力なリスト機能がありエキスパートシステムのようなものはLOGOの上ですでに実装されていたそうです)、人工知能研究にも携わりパーセプトロンという考え方に至ります。これはのちのニューラルネットワークの原理でもあり機械学習やLLMの原理として私たちもお世話になっていますね。彼らはコンピュータを、人工知能を研究することでより人間をよりよく知ろうとしていたとも言われていますが、人間とコンピュータの間を問うHCI研究もそこに辿り着くものだと私は理解しています。
全くまとまった気はしませんが、私はこうした視点でHCIを見ていることがわかり、これからもそのように関わっていくのでしょう。と言う宣言を持って結びにしたいと思います。
本来リサーチであれば引用や参考文献をリストにすべきかもしれませんが、適宜リンクを入れてますので割愛します。(詰めが甘くすみません。後で元気があったらリスト化するかもしれません。)
余談1:あそびの未来ファクトリーのご案内
ずいぶん長くなってしまったので余力のある方はご覧ください。そして以下は宣伝です。
私の関わる中山未来ファクトリーの主催で来年2〜3月にかけて「あそびの未来ファクトリー」というアイディアソンを開催しています。今回お話ししたような、遊び的な取り組み(否、遊びを徹底的に掘り下げていただきます)や、作ることで学ぶこと、それを実践して体験的な活動の場となりますので、こちらのカレンダーに関心ある方にはお楽しみいただけると思います。ぜひお気軽にご参加ください。
【締切:2025年1月8日・対象:大学生等の学生】
余談2:2本の論文を読んだ(聴いた)方法
HCIとConstructionismなんてとんでもないお題を自分で立てたものだと思いましたが、 担当の12/12の朝おもむろにHCIとConstructionismのキーワードで論文を漁り、他の作業をしながら、ながら聴きをしました。
その方法はPaperWave というWebアプリがありまして、論文のpdfを入れると対談形式のポッドキャストを生成してくれます。
そしてこのアプリは、実は苗村研究室でリサーチ目的で作っているものでして、こちらも宣伝です。(私は直接関わってないので、これをつくりながら学んでいる方々の姿を熱視線で観察しています。)
公開されて試用できますので、お気軽にお試しください。
過去のアドベントカレンダーの紹介
うっかりアドベンターのアカウントを二つ作ってしまったことに気づきました。
現在の qramo
Human-Computer Interaction (HCI) Advent Calendar 2024
(今回の投稿です)
Processing Advent Calendar 2024
旧 qramo
Scratch Advent Calendar 2015 - 12/25