文句が多くて稼がない巨匠をどう引退させるか
<ムービージュークボックス16>
60歳になったアルフレッド・ヒチコックを待っていたのは「いつ、引退するのか?」という記者の質問だった。
スリラー、サスペンスの巨匠とはいえ、ストーリーは、マンネリ。普通の生活を送っている人が、犯人扱いされたり、事件に巻き込まれたり、避けがたい「変化」に遭遇するワンパターンだった。
ヒチコックは、飽きられていた。文句が多く、稼がない巨匠ほど、厄介な存在はない。
映画会社のパラマウントも。契約最後の1本に用意していたのは、
期待も何もない「アンネの日記」だった。
ハリウッドあげて、ヒチコックをお払い箱にしようとしていた。
ヒチコックがどう戦ったか。映画「ヒチコック(2012)」に描かれている。
激しい逆風に、ヒチコックは、1冊の本「サイコ」で立ち向かった。
マザコンで、多重人格の連続殺人犯の実話だった。
「こんな気持ち悪い映画を誰が観に来るんだ」とか、「シャワーで裸の女性を殺すシーンは、考査をパスしない」と、映倫も撮影前から邪魔をした(撮影前に映倫がクレームをつけるのはあり得ない。映画会社の仕掛けだった)。
パラマウントは、巨匠の道楽に、出資しないことを決定。ヒチコックは銀行からの借金で挑んだ。
完成時に配給権をゆずることで、スタジオとスタッフを借りた。
試写会では、地下深く埋葬したヒチコックにやさしい言葉をかける人はいなかった。
ボコボコにされたヒチコックは、妻の助けを借りて、編集しなおす。フィルムに
命が吹き込まれた。
それでも、パラマウントの上層部は、成功に懐疑的だった。2館の上映なら許すということになった。
これじゃあ、誰も来ない、観ない。
新聞広告のコピーライターとして社会人のスタートを切ったヒチコックは、考えた。
ヒチコックが俳優陣に宣誓させていた言葉「この映画の結末は、決して、誰にも話さない」が、広告にも生きた。
そして、劇場にたくさんの警備員を物々しく派遣し、途中入場する観客を阻止して、映画の結末から観せなかった。話題づくりに成功した。
製作費80万ドルで、約20倍の興行収益1,500万ドル、ヒチコック映画史上最高収益を達成する記録を作った。
パラマウントの役員は言った「いつも通り、成功すると私は思っていた」。
<映画好きのためのトリビア>
🌠ヒチコックは、”ヒチコック・ブロンド”と呼ばれる、冷たい微笑の金髪美人がお気に入りだった。手を握って、打ち合わせをした。美女たちを自分好みのヘアスタイル、ファッションにすることに快感を覚え、権力と犯罪の境がなかった。
ヒチコックに従順でない女優は、撮影現場でひどい仕打ちを受ける。
泳げないキム・ノヴァックは、サンフランシコ港で投身自殺を、
スタントなしで演技させられた(映画「Vertigo(めまい)」)
因みに「Vertigo(めまい)1958」は、2012年、英国映画協会が世界の100人超の
映画評論家にアンケートしたところ、(オーソン・ウエルズの「市民ケーン」を
抑えて)最優秀映画に選ばれた。マーティン・スコセッシ監督の推す最高の
映画でもある
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