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聴き継ぎたい名曲【5】

 筆者の独断と偏見で、聴き継いでいただきたい楽曲やアーティストを取り上げていきます。

 今回はミッシェル・ポルナレフ(Michel Polnareff)。1960年代から1970年代にかけてのフレンチポップスを代表するアーティスト。

 1972年の大ヒット曲『愛の休日(Holidays)』。ブリティッシュ・フォーク調のロック・サウンドに包まれ、休日を飛行機に例えた歌詞が自由の翼を羽ばたかせ、美しい航跡を描く。ファルセットを多用した歌唱が、その世界観に深みを与える。ロックとロマンが調和したポルナレフの楽曲を象徴する作品と言えよう。

 筆者が初めてこの曲を聴いたのは3歳頃だったが、それは、CBSソニーが日本独自に企画した『Gold Disc(ベスト盤 1973年発売)』というアルバムを通してであった。父が所有していたレコードを聴いたわけだが、同じく所有していたThe Beatles、Simon & Garfunkelなどのレコードと併せて何度も聴いて原体験になっている。このアルバムの一曲目にこの曲が収録されており、幼心ながら衝撃が走った。

 名曲、『愛の願い(Love Me, Please Love Me)』。この曲は特に、彼の出自が遺憾なく発揮されている。クラシックとロック、ポップスとロマンの融合である。

 この辺の事情は『Gold Disc』のライナーノーツ(liner notes)がよくできている。山中鹿之介氏が解説するところによると、音楽家の子としてクラシック・ピアノを学んでピアニストを目指すが、ジャズへの憧れと押しつけられた演奏への疑問から、コンサート・ピアニストへの興味を失っていったという。その後の兵役、除隊後の転々とした職業ーー。

 やがて、コンサート・ピアニストの道を熱望する父の呪縛を払いのけるように、自由を求め、家を出て、モンマルトルの丘にあるサクレクール寺院のパリを見降ろす階段の上で一人、ギター片手に自分の求める音楽を始めたという。恵まれた音楽家の家柄を捨て、クラシックの素養がありながら、プレスリーやポール・アンカ、プラスターズといったロックやポップスへの憧れをもって、僅かな投げ銭を生活の糧に自分の信じる音楽を奏で、歌った。時には12日間も水だけで過ごしたという。いわゆる当時流行りの“ヒッピー”だが、19世紀後半の芸術家や知識人の影響もあったのかもしれない。そのボヘミアン的な生き様が、なんともロマンティックではないか。

 ほぼ全曲、フランス語で作詞していることも作風に彩りを添えている。そのフランス語特有の美しい響きのみならず、中世の叙事詩や騎士道物語といった「ロマンス(romance)」文学の伝統もある気がする。フランス語をはじめとするラテン語をルーツとするロマンス諸語で書かれた伝統だ。クラシックとロック、ポップスとロマンの融合と昇華。これが、ポルナレフの作風を特徴づけていると思われてならない。

 おなじみの『シェリーに口づけ(Tout, tout pour ma chérie)』。日本では1971年にリリースされて、大ヒットとなったデビュー曲である。軽快なロックビートに乗って奏でる恋愛歌だが、ロマンティックな作風の中で、やや異色でキャッチーな楽曲だ。言うまでもなく、そのファッションも注目を集めた。燃えるような髪、エルトン・ジョンを先取りしたかのようなサングラス。当時のファッション・リーダー的なアイドルでもあった。

▼バックナンバー
聴き継ぎたい名曲【1】
聴き継ぎたい名曲【2】
聴き継ぎたい名曲【3】
聴き継ぎたい名曲【4】


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