ミミクリデザイン代表・安斎勇樹さんに聞く、「共創が生まれる環境について」【後編】
こんにちは。インタビューサイト「カンバセーションズ」の原田です。
前回に引き続き、ミミクリデザイン代表・安斎勇樹さんへのインタビューをお届けします。
前編では、安斎さんがワークショップに興味を持った理由から、ワークショップデザインの考え方や可能性などについてお話し頂きました。
そして、ミミクリデザインが掲げる「問いのデザイン」というキーワードは、カンバセーションズが大切にしている考え方とも共鳴するものでした。
カンバセーションズでは、ミミクリデザインさんのようにワークショップという場や、コンサルティングファームという形態ではなく、
インタビューというコミュニケーション、あるいはメディアというプラットフォームや編集のスキルを活用しながら、新たな価値をつくり出していくことを目指しています。
そこでまずは、ワークショップとインタビューの違いや関係性などについて考えていきたいと思います。
この日の取材では、ちょうど現在インタビューについて研究中で、ワークショップの場ではグラフィックレコーディングも行っているミミクリデザインの坂間菜未乃さんも同席していて、こんなエピソードを話してくれました。
坂間:たまに友人の話を聞きながら、相手が言いたいことを書いてまとめることがあるのですが、そういう時とワークショップでグラフィックレコーディングをしている時には、共通点と相違点がそれぞれあると感じています。友人と一対一で話している時は、相手の気持ちにまで踏み込んでいくところがありますが、ワークショップなど大人数がいる場だと全員の気持ちは汲めないので、物事や情報を俯瞰的にとらえていくところがあります。
一方、問いを投げかけることをトリガーにして、その場の会話や、人と人の関係性、個人の思考を回していくというところは、インタビューとワークショップに共通する点だと感じています。
安斎:僕らもプロジェクトの中でインタビューを活用することがあり、その使い方はさまざまですが、プロジェクトの前半、上流で用いるケースがほとんどです。ワークショップというのは、正解を押し付けられる場ではなく、「問い」を連鎖させ、探求していく場だと考えています。ただ、さまざまな領域の視点が求められる社会的なテーマであればあるほど、いきなりワークショップから始めてしまうと危険だと感じることがあります。
例えば、「これからのヘルスケア」をテーマにワークショップをするにあたって、事前にお医者さんからがん患者さんまでさまざまな立場の方にインタビューをしたことがありました。これによってこれからのヘルスケアにおける「問い」をたくさん収集し、それをワークショップの中で紐解いていくということをしたんです。インタビューは問いの土壌づくりであり、ワークショップは問いを発芽をさせる場という関係性なのかなと感じています。
一対一の対話の場であるインタビューというのは、個人的な「問い」が起点になることが多く、そこはカンバセーションズが大切にしているところでもあります。
安斎さんの言葉を紐解いてみると、ワークショップが問いを投げかける場であるとしたら、インタビューは然るべき問いを明らかにしていく場と考えることができるのかもしれません。
そして、僕らカンバセーションズの立場からすると、インタビューを続けることで見えてきた問いや仮設を実証する段階で、ワークショップを導入するという流れもつくれそうな気がします。
また、カンバセーションズはインタビューという手法とともに、メディアという機能や編集というスキルをバックグラウンドとして持っています。
これらを活用することで、さまざまな人、アイデア、スキル、モノ、サービスをつなぎ合わせながら、社会に対して価値をアウトプットしていけるプラットフォームをつくれるのではないかと考えているのですが、編集という職能について、安斎さんはどんな考えをお持ちなのでしょうか?
安斎:近年は企業などにおいて、外部の人間を巻き込みながら新たな価値をつくっていくという考え方が強まっていますが、複雑化したチームの中で、さまざまなスペシャリティを持つ人たちをつなげるゼネラリストの役割が求められています。そこでは、さまざまな知や人の関係性を編んでいける編集の力というものが必要になってくるのではないかと感じています。
インタビュー、メディア、編集という自分たちが持つ武器を活かして、「共創のプラットフォーム」をつくることがカンバセーションズの目指すところです。
そこで、「共創」を生まれるための条件についても、安斎さんに聞いてみました。
安斎:以前に学習科学の先生に、「人はなぜ協調するのですか?」と尋ねたら、「ひとりではできないからだ」とシンプルな答えをくれました。この問いを解きたいけど自分だけでは解けない。でも、この人となら解けるかもしれないと思える時に、人は協力をするというのがコラボレーションや共創の本質だと思います。
同時に、この人にはこれができるという役割分担だけですべてを解決しようとすることの危険性も感じています。創発においては、「そこから何かが生まれそうな雰囲気」というものが肝だと思っています。その中で僕が意識しているのは、「この指とまれ」的に人が集まってくるような、「遊び」の要素や空間をいかにつくっていけるかということなんです。
ミミクリデザインの社名に使われている「ミミクリ」は、社会学者のロジェ・カイヨワ氏が提唱する遊びの4つの類型のひとつで、ごっこ遊びや空想遊びなど「見立て遊び」の総称なのだそうです。そんな遊びの場や空間をデザインしていくことが、安斎さんが掲げるもうひとつのテーマなんですね。
そこから何かが生まれそうな場をつくること。
これはまさにカンバセーションズが目指す「共創のプラットフォーム」であり、編集者として僕が一貫して大切にしてきたことでもあります。
最後に、ミミクリデザインが目指す未来についても聞いてみました。
安斎:大学院生時代に、ゴッホやヘミングウェイを育てたというパリのカフェ文化について調査したことがあったのですが、パリのカフェは、アーティストたちが議論を交わすサロンとして機能していて、そこからさまざまなイノベーションが生まれたと言われています。
例えば、ワークショップの場で気づきが得られなければ、がっかりするかもしれませんが、仮にカフェでそれがなくてもがっかりはしませんよね(笑)。創発においては、 打率3割くらいの淡い期待感というものが大切だと思っていて、サロンの場としてのカフェでは2、3割、イノベーションのワークショップでは5、6割という感覚を持っています。
僕らがつくりたいのは、百発百中のイノベーションを生むためのメソッドや仕組みではなく、一人ひとりが組織の一員である前に、一人の人間として何をつくりたいかというマインドセットやモチベーション、つまり創造性の土壌を耕すようなことをしていきたいんです。
安斎さん、お忙しい中取材にご協力頂き、どうもありがとうございました!
いつかミミクリデザインさんのワークショップの現場にもお邪魔してみたいです。
そして、カンバセーションズとしても、いつの日かコラボレーションの機会があると良いなと思った次第です。
今日のインタビューを通じて学んだことはこちら。
1.ワークショップは、問いを連鎖させ、意味を生成していく場である。
2.問いのプロセスをデザインすることが、創発のコラボレーションを促す。
3.インタビューとワークショップを組み合わせることでシナジーが生まれる?
4.共創には、「そこから何かが生まれそうな雰囲気」が不可欠。
最後までお読み頂き、ありがとうございました。