11/16『ターングラス』YouTube ネタバレトークライブのお知らせ&図書新聞に『エイレングラフ弁護士の事件簿』の書評が掲載されました
「テート・ベーシュ」という言葉をご存じでしょうか?
もともとは、左右または上下が逆に印刷された2枚の切手を指す言葉のようで(コトバンクより)、頭と足がくっついたという意味を持つ。
では、テート・ベーシュの本と聞くと、どういうものが頭に浮かぶだろうか? 頭と足がくっついた話? つまり、どちらからでも読み進められるということなのか?
ガレス・ルービン『ターングラス 鏡映しの殺人』(越前敏弥訳)は、まさにテート・ベーシュ仕立てになっていて、1881年のイギリスを舞台としたエセックス篇と、1939年のアメリカを舞台としたカリフォルニア篇がくっついている。しかも、単に中編小説2本が1冊に収録されているのではなく、本の上下左右をひっくり返して読む仕様になっているのだ。
本の仕様については、上記のサイトを見ていただければわかると思うけれど、要注目のポイントは、内容も単なる連作中編ではない点である。
実のところ、私も読んでみるまでは、ひとつの事件や登場人物を異なる視点で語った、独立した2つの物語かと思っていた。いわゆる連作やスピンオフのような。
しかし、それ以上に語りの仕掛けが凝っていて――これ以上言うとネタバレになってしまうけれど――2つの物語は複雑な編み込み模様のように絡み合い、片方が消えるともう片方も成り立たなくなる構造になっている。
なので、さっき「どちらからでも読み進められる」と書いたけれど、ほんとうは正しい順番があるように思える。でも、どちらから読んでも、なんなら交互に読んでもおもしろいのではないだろうか。
そしてなにより重要なのは、どちらの物語も、探偵役の主人公と相棒の女性、そして謎を秘めた人物たちが交錯し、主人公が事の真相を解き明かしていく経緯にぐいぐいひきこまれる、完成度の高いミステリーということだ。本の構造から、読み解くのが難しい物語なのかと予想している人もいるかもしれないが、なにも考えずに読んでもじゅうぶん楽しめる。
登場人物のキャラクターにくわえて、その時代を彩る特徴も丹念に描かれていて、個人的にはカリフォルニア篇で豪華な飛行艇(1930年代頃に長距離飛行に多く使われた空飛ぶボート。第二次世界大戦後は飛行機にとってかわられた)に乗る場面など、情景が目の前に浮かんでくるようで胸が躍った。
さて、前回も告知しましたが、2024年11月16日(土)の21時から、全国翻訳ミステリー読書会YouTubeライブ第22弾として、この『ターングラス』の完全ネタバレトークライブが配信されます。訳者、担当編集者、各地の読書会世話人が、この作品の魅力についてストッパーなしに(たぶん)語りあう会です。
アーカイヴも残りますが、ぜひリアタイで視聴して、チャットにご参加ください。私もその日は読書会がありますが、終わってからチャットに参加したいと思います。ネタバレありなので、もちろんそれまでに本を読了しておかなければなりません。もしご興味があれば、急いで本を入手して読みはじめましょう!
もうひとつお知らせですが、2024年11月9日発行の図書新聞No.3662に、ローレンス・ブロック『エイレングラフ弁護士の事件簿』(田村義進訳、文春文庫)の書評が掲載されました。
図書新聞編集部の許可を得て、投稿します。https://toshoshimbun.com/
(書評のリンクは最後に貼ります)
いかなるときもこう断言し、たとえ依頼人が罪を告白しても、あらゆる手段を講じて無罪にしてみせる弁護士エイレングラフの活躍、いや暗躍を描いた短編集。弁護士ミステリーといえば、ペリー・メイスンのような正義派弁護士を思い浮かべる人も多いかもしれないが、その対極にあると言っても過言ではない、黒い笑いに満ちた痛快な短編が収められている。
作者のローレンス・ブロックは、大都会ニューヨークの孤独と犯罪を描いた私立探偵マット・スカダーのシリーズで高く評価され、殺し屋ケラーや泥棒バーニイのシリーズも人気を博した、まさに翻訳ミステリー界の巨匠と言える存在である。
といっても、その作風はけっして重苦しくなく、軽妙洒脱な筆致で知られ、日本では伊坂幸太郎がブロックからの影響を公言し、そのウィットとひねりを継承している。『グラスホッパー』『マリアビートル』など、大人気の殺し屋シリーズも、殺し屋ケラーにインスパイアされて書きはじめたとのこと。
この『エイレングラフ弁護士の事件簿』は、ブロックのキレのあるウィットとひねりが堪能するのに、まさにうってつけの一冊と言える。短編の名手と評される所以が凝縮されていながらも、一篇一篇はどれも短く手軽に読めるので、ご興味のあるかたはぜひ読んでみてほしい。
今回も貴重な機会をくださり、お忙しいところ原稿のチェックをしてくださった、研究社の金子先生に感謝申し上げます。
書評は以下のリンクからお読みいただけます。
(♬本文と関係ない、ですが……前回同様『メイキング・オブ・モータウン』にちなんで、スティーヴィーの「Higher Ground」にしようかと思ったら、レッチリバージョンがあがっていたので。みんな若いですね)