This is (X) / ビューロー・デトゥール
デンマーク北西部、オーフスにあるInstitute for (X)(以降If(X))は、2009年に設立された、文化、ビジネス、教育のプラットフォーム。市民のイニシアチブから生まれた、非営利の独立した文化団体である。
この活動の集大成をまとめ、建築家、市民、都市計画家、政治家、文化団体、組織が「トップダウン」ではなく「ボトムアップ」で考えるよう促すためのDIY都市ハンドブックが、This is (X)だ。(編集はクリエイティブファームのビューローデトゥール。なんと無料配布)
A〜Zの頭文字に紐づけて、建物、活動、理念が、映像のようにコラージュされていく構成をとる。じっくり読むより、ざざっと感じる本。しかし、不思議とキーワードがじんわり熱を帯びて、脳内に残り続ける感覚があるのだ。今回は、その中から印象に残ったセクションを抜き出してみたい。
オフィシャルでない取引が連鎖する場所
最初にIf(X)を知ったのは、岡田恵利子さんの訪問記だった。自治とDIYで構成されるそのエリアの魅力に惹かれた僕は、とある教育プロジェクトの参照にぜひお話をお聞きしたいと、If(X)のメンバーで建築市のEskeさんとGODSBANENの広報兼キュレーターのTrineさんへ、インタビューする機会に恵まれた(岡田さんありがとうございます)。上記はその際に語ってくれた彼らの言葉で、この場の高揚感をよく表している。
GODSBANENについて触れておこう。オーフスは1900年頃に鉄道が敷かれ、製造業、貨物輸送、都市開発の中心地となった。この貨物鉄道エリアが退廃した跡の、約13ヘクタールの広大な土地を文化創造エリアAarhusKとして開発。そこにGODSBANENという巨大カルチャーセンターを含むエリアがあり、その一部としてIf(X)がある。つまりAarhusK>GODSBANEN>If(X)という構図だ。GODSBANENでは、市民誰もが使えるFabスペースから、精神的弱者のためのコミュニティHåbets Allé、アップサイクルのREUSEなど、まさに誰もが別け隔てなく文化活動を楽しめる庭のような場所だ。
If(X)は、より実験的なインキュベーションエリアである。市民団体やスタートアップ企業などの大小様々なコンテナが立ち並び、600人以上のアクティブなメンバー、90のスタジオとワークショップ、43の事業、15の協会、5つのネットワークが存在している(Webより)。2018年、オーフス建築大学の一部移転やGODSBANENの他エリア開発のために、縮小があったようだが、現在もオーフス市と延長契約を結び、文化創造の震源地として、一帯のエリアに継続貢献し続けている。
If(X)のパンチライン
ここからが本題だ。This is (X)に出てくる、活動や理念からグッときたものを紹介したい。ふだん、場を運営したり、チームを作ったり、組織を束ねる、という役割を持ってる方から見ると、何か感じるものがあるはず(?)だ。
エゴのコミュニティ
コミュニティはいいものだ。反面、大きな利益のために自分の欲求を脇に置かなければならないことがあることを嘆く。ほとんどの人はエゴイスティックな存在なのに、なぜ遠慮しなければならないのか?そこで彼らはエゴのコミュニティ(Community of Egos)という概念を発明した。
コピー・ペースト・クルー
何でもゼロから作るべきか。いや、そうじゃない。(当然、状況により、権利や主張は遵守・尊重するべきなので、いつでも何でも、ではない)
エキゾチックなD.E.Y
デンマークの冬は長く、暗く、寒い。人々は南国のビーチや、ヤシの木、カラーカクテルの夢を見る。DIYならぬ、DEYで、自分たちの手で居場所の環境を改善しよう。
ドゥオクラシー
フラットな組織構造の中で、個人の創造性と責任で動くための合言葉が、ドゥオクラシー(Do-ocracy)だ。システム内の本質的なヒエラルキーの欠如は、実行者によって容易に占有され、迅速な変化と円滑な空間変換のためのスペースが与えられる(つまり実践により、誰もが主人公になれる)。
ウルトラチープな食事会
肩肘はった食事会はいらない。大事なのは、誰もが参加しやすいこと。
隣人とのつながりを作る方法
どうやったら友だちになれるか。少し斜め上からの提案だが、菓子折りを持って挨拶に行く、以外のオルタナティブな方法を考えてみよう。
つくりながら学ぶ
Learning by doing、暗黙知、座右の銘、インフォーマル学習など様々な呼び方があるが、つまりは従来の教育ヒエラルキーに抗い、実践的な活動や経験を知識の源泉とする学習スタイルを重視する。
DIYの3つの可能性
THIS IS (X)で展開されるパンチラインを俯瞰してみていくと、モヤモヤと前回の記事で空想していたDIYの可能性について、アイデアが湧く。端的に言えば、日曜大工ではなく、社会システムとしてDIYはどう機能しうるか?だ。
1つは「エンパワメントのためのDIYシステム」という可能性がありそうだ。10年もの間、何百人もの若いデザイナー、ミュージシャン、アーティスト、起業家に活動の場所や機会を提供してきたIf(X)。冒頭書いたインタビューで、Eskeさんは「様々な国で若者の意見は未熟なものと思われているが、社会へ貢献できるようにエンパワーしていくことが大切だ」と語っていた。
2つめは「弱い紐帯をつくるためのDIYシステム」という可能性だ。先に上げたHåbets Alléでは、社会的弱者や精神的弱者の若者のためのシェルターコミュニティとして、アーバンガーデンや自転車の修理ワークショップなどを実施している。「つくる」だけでなく「育てる」や「直す」も目立つ。僕の住んでいる京都市の夕顔町でも、なんとなく住民同士で夕顔の花を育てる風習があり、秋になると地域で同じ花が夜に咲き乱れる。視点は違うが、山内さんのパンジー論にも共通する部分はありそうだ。
3つめは「文化保存としてのDIYシステム」という可能性だ。オーフスの文化・創造拠点のための都市計画における4つの戦略の中で、「文化・創造性戦略:地域の文化や創造性をどのように保存し、再発明していくか」という戦略が4つめに位置づけられている。地域の地蔵盆のような祭だったり、とある職人さんの漆塗りや彩色の技術だったりを、住民が自主的に継承していくことなんかにも近いだろう。AarhusKにあたる場所は、500種以上の動物や植物が生息し、他地域としても生物多様性が豊かで希少なため、「開発する場合は元の自然と新しく作る自然とのバランスと一貫性を作る(例:在来種の植物を利用する)」というのが原則にあるのだ。
あとは戻すためのDIYシステム、もありそうだ。直したり、埋めたり、するような行為を続けることで、この記事で書いた「更新によって自己を維持する」ような社会的なDIYシステムだ。登山道の補修も近いかもしれない。このあたりのサステナビリティ×DIYはまた別トピックで書いてみようと思う。
ということで、10月末にオーフスを訪れる機会がありそうなので、ぜひIf(X)とGODSBANENにお邪魔して、THIS IS (X)には載っていない、市民の人たちの生の声を聞けたらいいなと思っている。おっちゃんとか、子どもとか。(英語もできないが、デンマーク語は初めてなので壁はスーパー高い)
最後にTHIS IS (X)の締めにあった、ロマンチックな文を掲載しとこう。