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「なるほどですね」を考える

日本語には時々引っかかる言葉がありますよね。その一例が「なるほどですね」です。

「なるほど」という言葉は、そもそも「理解しました」「納得しました」という意味で、それ単体で完結しています。シンプルでいいですね。

しかし、ここに「ですね」がくっつくと、一気に不思議な響きが生まれます。「ですね」は基本的に、相手への確認や同意を求める言葉。たとえば「今日は寒いですね」なら、「あなたもそう思いますよね?」という含みがあります。でも、「なるほどですね」って、一体何を確認したいんでしょうね。納得してんのか、納得してほしいのか、どっちだよって話です。

「なるほど」は自分の中で納得するための言葉です。だから、独り言のように「なるほど」とつぶやくことも多いし、それで十分意味が通じます。ところが、「ですね」がつくことで言葉が妙に外向きになります。自分の中だけで完結せず、相手の理解や同意を求める方向にシフトするのです。「私は理解しましたが、あなたもそうですよね?」という、なんとも押しつけがましいニュアンスを醸し出します。

特にこの言葉が使われるのは、ビジネスシーンや接客の場面ですね。「なるほど」だけだとそっけなく聞こえるし、「ですね」をつけることで、それっぽく聞こえるからでしょう。でも、冷静に考えてみると、これって結局「理解したのか、させたいのか、どっちなんだ?」という話になります。まるで「よくぞ気づきましたね」とでも言いたげな響きがありますが、それを言っている本人が何も気づいていない可能性も高いのがまた面白いところです。

さらに面白いのが「ですね」がつくことで、ちょっとした評価のニュアンスが生まれることです。「なるほどですね」と言われると、「おお、私の説明は理解に値するものだったのか!」と、一瞬優越感に浸ることもできますね。言っている側は特に深く考えていないでしょうが、聞いている側は「なるほど」以上の評価をされた気分になります。そう考えると、なかなか計算高い言葉なのかもしれません。

いや、むしろこれを使いこなせるかどうかが現代社会を生き抜くセンスのバロメーターなのかもしれませんね。適当に頷いておけば、相手も「おっ、わかってくれたな」と勝手に納得する。無駄な議論を回避しつつ、それっぽい知的な空気を醸し出せるフレーズ。

「なるほどですね」は、実は場面によって効果が異なります。例えば、発言に含みを持たせつつ、断言を避ける便利なツールになります。「なるほどですね」と言っておけば、一見相手の意見を受け入れているように見せながら、実は何の結論も出していないにできます。聞いている側は「納得した」と錯覚しますが、実際には何も進展していません。

また、会議や営業トークでも、このフレーズは有効に機能します。「なるほどですね」を適切なタイミングで挟むことで、相手に寄り添っているような印象を与えつつ、こちらの考えを押しつけることなく、柔らかく場をまとめる役割を果たします。特に、意見をはっきり言いにくい場面では、都合のいいバランスを生む魔法の言葉になります。

「なるほどですね」の成り立ちについて考えると、もともとは相槌として「なるほど」と言っていたものが、より柔らかく、相手に同調するニュアンスを持たせるために「ですね」が付け足されたのではないかと推測できます。ただの理解の表明ではなく、微妙な距離感や空気を読む要素が加わったことで、なんとなく場が収まる便利なフレーズになったのかもしれません。

一度気になり始めると、もうダメですね。「なるほどですね」と聞くたびに、「どっちなんだよ!」と心の中でツッコミを入れてしまいます。

とはいえ、言葉は時代とともに変わるもの。

「なるほどですね」は、言ってる本人も実は何も考えていない、そんな空気の産物とも言えます。「とりあえず納得した感を出しておく」「議論を終わらせる」そんなズルい道具として、世の中に浸透してきたんでしょう。

「なるほどですね」は、ある意味で「賢そうに見せる技術」とも言えます。相手の意見を完全に肯定せず、かといって否定もせず、うまくその場を取り繕うための言葉。何も深く考えずに使うだけで、それっぽい知的な印象を演出できるのだから、これほど便利な表現はありません。まさに、話の内容よりも雰囲気を重視する現代にふさわしいフレーズなのです。

実際に「なるほどですね」が本当に役に立つ場面を考えてみましょう。例えば、上司の謎に長い話を聞かされているとき。途中で意見を求められても、『なるほどですね』と返しておけば、とりあえず話の流れに乗っている風を装える。相手も『うん、わかってくれてるな』と勝手に納得してくれるし、自分も余計なことを言わずに済む。

また、営業やクレーム対応の場面でも、この言葉の力は絶大です。相手の話を一旦受け止めているように見せつつ、何の約束もしていない。『なるほどですね、貴重なご意見ありがとうございます』と言っておけば、相手はとりあえず『ちゃんと聞いてもらえた』と感じる。でも実際のところ、何も約束してないから、適度にやり過ごせる。つまり、『なるほどですね』は、現代社会における最適な『とりあえず聞いてますよ感』を演出する技なのです。もしかすると、数年後には「なるほどですね」が完全に市民権を得て、誰も違和感を抱かなくなるかもしれません。でも、そのときは僕も何も考えずに「なるほどですね」と言っておけば、周りが勝手に納得してくれる。そして僕は「何か深いことを言った気がする顔」をしながら、適当に流れる時間を楽しむのです。そう考えると、意外と便利な言葉なのかもしれませんね。

「なるほどですね」と言われると、「あ、これ以上深入りしなくていいんだな」と察してしまう。もはや日本語というより、一種の社会的合図。こうして僕たちは、言葉を交わしながら何も言っていない、そんな時代に生きているのかもしれません。

さて、ここまで読んでくれたあなたがすべきコメント、わかりますよね?


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