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「会議の沈黙」を考える
会議というのは意見を交わして何かを決める場のはずですが、なぜか発言しない人が一定数います。
いや、一定数どころか、大半がそんな感じでしょうか。何も言わないのであれば、最初から参加しなくてもいいのでは? と思うのですが、まあ、そうもいかないらしいですね。
「言うことがないなら言わない」。理屈としては理解できます。ただ、そういう方に限って、会議後に「あの件、実はこう思っていたんですよね」と言い出すのは何なのでしょうか。今おっしゃらなかった理由をぜひ聞いてみたいものです。
発言すれば仕事が増える。余計な責任を負いたくないなら、黙っていたほうが安全でしょう。うっかり発言しようものなら、「いい意見ですね、それ〇〇さん進めておいてください」と仕事が降ってくるリスクがつきまといます。そんなリスクを冒すくらいなら、適度に頷き、適度にメモを取り、「しっかり参加していますよ」感を醸し出すほうが、よほど合理的というものです。実際、賢い方ほど沈黙を貫かれる傾向にあります。
とはいえ、ずっと黙っているのもそれはそれで目立ちます。ときどき頷いたり、ちょっとだけ眉間にシワを寄せたり、「なるほど…」と小声でつぶやいたりすることで、「聞いてますよ」というアピールをする。このあたりのさじ加減が、会議巧者としての腕の見せどころなのかもしれません。
とはいえ、沈黙が続く会議も、それはそれでなかなかの苦行です。そんな中、沈黙を破る人というのはだいたい決まっています。耐えきれなくなった新人、場を取り持とうとする調整役、妙に自信満々なベテラン、沈黙そのものが怖くて無駄に雑談を始める人、あるいは責任感の強いリーダー。どのタイプも「誰かが喋らなきゃいけない」という空気を感じ取った結果、無意識に動いてしまうのでしょう。
誰も何も言わず、時計の針だけが進んでいくあの空気。そろそろ誰か何か言い出すのでは?と期待しながらも、結局誰も喋らない。こうなると、何でもいいから喋りたくなってくるものです。「最近、会議室の空調、ちょっと強くないですか?」とか、「この資料、フォント変えたほうがいい気がしますね」とか、内容のない話でもいいから会話の流れを作りたくなる。でも、それを言ってしまった瞬間、自分が「沈黙に耐えられない人間」認定される気がして、結局また沈黙を守る。そうして全員が沈黙し続けた結果、何の進展もないまま会議が終わるわけです。
結局のところ、会議とは「とりあえず集まること」に意味があるのではないでしょうか。話し合いの場というより、「会議に出席すること」そのものが目的になっているように見えます。発言しようがしまいが関係なく、「そこにいた」という事実が何よりも重要なのです。
沈黙は金。もともとは「余計なことを言わないのが賢い」という意味ですが、会議においては「何も言わずに座っているだけで給料が発生する」という、まさに金そのものになり得る概念です。発言すれば余計な仕事を増やす可能性があり、最悪の場合、責任を押し付けられることもある。しかし、黙ってさえいれば、何もしなくても時間が過ぎ、しかも評価が下がることもない。会議室の椅子に座り、時折頷き、適当にメモを取ることで「仕事をしている感」を演出すれば、それで一日が終わることもあるのです。まさに沈黙こそが最大の資産、発言はリスクというわけですね。そのあたりをよく理解している方々が集まる会議室では、今日もまた静かに時間だけが流れていきます。
会議が終わります。お疲れさまでした。
何も決まらず、誰も何も言わず、ただ時間だけが過ぎていきます。でも、みなさん何事もなかったかのように笑顔で退室されます。これがいつもの流れというやつですね。
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