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短編小説1000字

100
大体1000字くらいの短編小説です
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2022年2月の記事一覧

短編小説 はじまらないで

「俺、兵士になろうかなぁ」
  彼の呟きに、私は息を呑んだ。沈黙が二人を包み、それでも彼は覆さなかった。国を守るという考えに至った彼に、震えているだけの私が何を言えるだろうか。
 彼は私に微笑みを向け、髪の毛をくしゃっと撫でた。私は国を恨んだ。どうして政治家はイマジンを歌わないのか。絶対に歌が苦手なわけではない事くらいは私にだってわかる。
「だったら私も…」
 彼は困ったような顔をして、フッと笑っ

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短編小説 ハッピーバレンタイン

 優菜はボウルいっぱいに溶けたチョコレートを見て、息を吐いた。今時手作りチョコなんて、と優菜は思う。正義は手作りがいいと言ったのだ。だから。
 それにしてもと優菜は思う。気合い入っちゃうじゃん、そんな事言われたら。ただ、優菜は料理が得意ではない。
 この後生地をチョコレートに混ぜる。オーブンで焼けば完成するはずだが、レシピを舐めるように見つめてもなかなか自信が持てない。失敗したら、作り直せばいい。

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