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一つの目的から役割が広がり生まれる「孤立を防ぐ地域コミュニティ」

現在、孤独・孤立は世界各国で大きな問題となりつつあります。日本でも、近時の社会変化による孤独・孤立の課題は重視される傾向にあり、2024年4月1日から施行された孤独・孤立対策推進法の概要には、このような記載があります。

「相互に支え合い、人と人との「つながり」が生まれる社会」を目指す

孤独・孤立対策推進法|内閣官房ホームページ

相互の支え合いは、どのようにして起こるのでしょうか?
人と人との「つながり」はどう生まれるのでしょうか?

今回は、同じ目的に向かう中で世代を越えてつながり、それぞれが役割を持つことで相互的なケアが生まれた結果、「孤独を防ぐ地域コミュニティ」が形成されている2つの事例から、「相互の支え合い(ケア)」について考えてみます。


玄関先に安全な子供の遊び場をつくる|Playing Out

画像引用:Playing Out

「Playing Out」は、2009年にブリストルで始まった、道路から車を一時的に通行止めにし、玄関先に子どもたちが安全に遊べる場所をつくる取り組みです。自分たちの子どもが自由に遊べないことに不満を感じた発案者が、近隣の協力を得て始めたものです。現在のPlaying Outは、親たちによって設立された小規模な非営利団体(CIC)によってとなって活動として展開されています。地域の議会の協力を得てこの活動は徐々に広がり、英国全土や国際的にも広まりました。地方自治体によってはPlaying Out実施のための説得が難しいこともあったそうですが、Playing Out実施による利点に関するエビデンスが蓄積されていくことで、多くの議会が導入に肯定的となっていきました。

ある地域でのPlaying Out実施例として、興味深いレポートがあったので紹介します。当初、その地域の住民のうち2家族が、Playing Out実施に強い抵抗感を示し、活動実施中に意図的な危険運転を行うなどの問題が生じました。

しかし、実施を中心的に行っていたメンバーの他、地元の警察チームからの友好的な声掛けなどにより、否定的であった家族も徐々に協力的になり、Playing Outを主導していた参加者とも親しくなり、このことはむしろコミュニティの絆を強める結果となりました。そして、この地域のPlayingOut参加者は、130世帯の近隣地域住民のうち3分の2の人とPlaying Outを通して知り合いになり、助け合いなどポジティプな関わり合いがたくさん起こるようになりました。

他の地域では、車を締め出した道路で水鉄砲で子供が遊んでいると、年配のカップルが、参加している親のためにデッキチェアを持ってきて声をかけてくれたというレポートもありました。それをきっかけに、その年配のカップルはPlaying Outの常連さんとなり、いつも顔を出して挨拶してくれるようになったそうです。この年配のカップルは、Playing Outを主導する親に対して肯定を示し応援する役割を担うとともに、定期的に地域の人々と触れ合う時間を持つことが、自分自身のケアにもつながっているのではないでしょうか。

Playing Outに参加する高齢者の中には、若い世代がやらなくなった昔の道路での遊びを教える人もいて、様々な形の世代を越えた関わり合いが生まれています。

このような参加者の体験から、Playing Outに以下のような特徴を見出すことができます。

目的にむかって、広がるコミュニティ
本来の目的である「子どもたちの安全な遊び場の確保」を達成する過程で、地域住民同士の自然な出会いと協力関係が生まれ、コミュニティの絆が深まっている
大人同士のケアへの拡大
子どもの遊び場を整備する役割を担っていた大人たちも、子どもたち自身が「地域の人々をつなぐ架け橋」としての役割を果たしていることで、助け合いが生まれる等ケアされる要素も生まれている

Playing Outは、当初の目的であった「保護者から子どもへのケア(安全な遊び場の提供)」から、「地域住民による子どもたちの見守りと、保護者への安心感の提供」、さらには「子どもたちを介した地域住民同士のつながりの形成」へと、ケアの輪が広がっていく取り組みとなっているのです。


地域貢献活動でエクササイズ|Good Gym

画像引用:Good Gym

2つ目の事例は、地域貢献活動をエクササイズとして行うコミュニティ「Good Gym」です。この取り組みは、創設者が「ジムでのエクササイズはエネルギーの無駄遣いではないか」という問題意識から生まれました。当時あまり運動をしていなかった創設者は、運動をするための理由を必要としており、家に閉じこもりがちだった高齢のある住民に新聞を届けるためにランニングをし始めました。数年間のその活動を通して、創設者は運動が好きになり、活動を通して知り合ったそ住民と友人になったそうです。その後、創立者たちは非営利団体としてGood Gymを設立し、コミュニティプロジェクトを行うためのグループ活動を開始。支援を必要としている高齢者の紹介や地域のプロジェクトにおける作業において、自治体と連携もしながら、地域貢献活動そのものをエクササイズとして位置づけたコミュニティ活動が広がっていきました。

GoodGymは、18歳以上であれば誰でも無料で参加でき、ランナーと呼ばれる参加者は、以下の4種類の活動に取り組んでいます。

(1)COMMUNITY MISSION:
グループで地域貢献活動をすることでエクササイズをするコミュニティです。公園の清掃など、地域の実用的な作業を手伝います。住んでいる地域をより良くすることをモチベーションにした地域貢献活動を通したエクササイズです。
(2)GROUP RUNS:
複数の参加者が集まり、地域の環境整備活動を兼ねたランニングを行います。具体的には、地元の公園での落ち葉拾いやコミュニティ・ガーデンの土おこしなど、身体を動かす作業を伴う活動をランニングの間に実施します。
(3)MISSIONS:
高齢者が一人でできなくなった作業を手伝います。DIYやガーデニングのサポートなど、具体的な困りごとの解決を目的とした活動を行います。この活動もランニングやサイクリングで手助けする高齢者のもとを訪れ、実施します。
(4)SOCIAL VISITS:
孤立しがちな高齢者の自宅を、ランナーが週1回定期的に訪問します。訪問する高齢者のことを「コーチ」と呼びます。これは、高齢者が参加者に定期的な運動の機会を提供してくれる存在として位置づけられているためです。

この活動の効果は、2016年から2020年にかけて実施された調査結果からも明らかになっています。(4)SOCIAL VISITSでサポートを受けている「コーチ」を対象とした調査では、ランナーの訪問がコーチである高齢者の社会的孤立感の軽減や孤独の解消、そして全体的なウェルビーイングの向上に顕著な効果をもたらしていることが示されています。実に93%もの高齢者が、ランナーの訪問に「非常に満足している」と回答し、98%が訪問によって「幸せを感じた」と答えています。

さらに、この調査ではGoodGymの参加者自身にも大きな効果があることが判明しています。参加者の大多数が、この活動を通じてランニングの習慣を新たに確立するか、既存の運動習慣を維持・強化することができたと報告しています。

これらの効果からも、SOCIAL VISITSにおける関係性の構築方法が特異的であることがわかります。単なる「ボランティアと支援対象者」という一方向的な関係ではなく、「運動を見守るコーチ」と「定期的に訪問するランナー」という双方向的な関係性を築くことで、相互支援の構造が生まれているのです。

また、ある参加者は、母親をがんで失うという人生最大の試練に直面した際、GoodGymでの活動が心の支えとなったと語っています。その参加者は、自宅介護期間中はGoodGymの活動を休止せざるを得ませんでしたが、母親の葬儀からわずか1週間後にGoodGymに復帰しました。クリスマスツリーの設置やゴミ拾いなど、様々な地域貢献活動を通じて、徐々に心の傷が癒されていったそうです。この経験を通じて、「他者と共に屋外で体を動かすこと」が自分らしさを取り戻す鍵となり、活動に参加し、仲間と共に時を過ごすことの大切さを痛感したそうです。

GoodGymの活動は単なる運動の機会提供にとどまりません。運動そのものがメンタルヘルスケアに良い効果をもたらすことは広く知られていますが、GoodGymの特徴は、それを「他者との協働」と「社会貢献」という要素と組み合わせている点にあります。この組み合わせにより、プログラムで関わる人へのケアが生み出されるとともに、参加者自身のケアにも繋がっているのではないでしょうか。

これらの調査や参加者の体験から、GoodGymに以下のような特徴を見出すことができます。

相互支援の構造
通常であればボランティアの支援を受ける立場となる人々に「コーチ」という積極的な役割を付与することで、支援する側・される側という一方向的な関係を超えた、相互扶助の関係性が自然と生まれる
自己ケアの促進
複数の参加者が協力して社会貢献活動を行う中で体を動かすという習慣が、結果として参加者自身の心身のケアにもつながる

GoodGymは、参加者の最初の目的になる「地域貢献活動をしてエクササイズする」ことを起点に、支援の受け手として想定されていた人々や、貢献活動の対象地域の住民はもちろん、活動に参加する人々自身へとケアが広がっていく取り組みとなっています。

終わりに

今回は、同じ目的のもとにつながりが生 まれ、役割を持つ人々が増え、孤立を防ぐ地域コミュニティとなっている事例をご紹介しました。意識的に対象者にケアを行う第一歩も大事ですが、一方通行になるのではなく、お互いに役割を持ち合い、双方向になるよう育てていくことが、人と人とのつながりが生まれる「孤立を防ぐコミュニティ」となるために重要なのではないでしょうか。
また、今回の事例はどちらも一住民の課題意識から始まっています。孤独や孤立に対しての対策やコミュニティ作りは行政発で行っているものもありますが、トップダウンではなく、住民から始まっているからこそ、熱量、想いや課題意識への共感が伝播し広がったのではないでしょうか。

今回は以下の問いで終わろうと思います。

・どうすれば、あなたの生活に普段出会うことのない家族以外のケアを行う機会は埋め込めるでしょうか?
・それを可能にするために、行政や企業、自治会などの街のさまざまな主体ができることはどのようなものがありうるでしょうか?

相互にケアし合う関係性はどのように生まれるのか、考えるきっかけやヒントになると幸いです。

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一般社団法人公共とデザイン https://publicanddesign.studio/

Reference

書いた人:伊賀上詩織(いがうえ しおり)
愛媛県松山市出身、東京都在住のデザイナー。サービスデザインとグラフィックデザインを専門に、地域やDE&I領域にデザインで関わることを探求中。
https://www.instagram.com/igaigai_/

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