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上質な「おばちゃん浴」を求めて vol.1

  私は、十代の頃から自分より年上の女性と話すのが好きだった。青くて尊大だった十代の頃はそれこそ「私はきっと精神年齢が高くて大人っぽいから年上の女性の方が話が合うのだ」と思っていた。確かに九州の古い街の古い商家に育った私は、実際に自分や周りの人たちをそう勘違いさせてしまうような年寄りくさい考え方をする人間ではあった。でも今では、本当の理由が、わかる。私は、ずっと母親を求めていたのだ。

  とは言っても。人生いろいろ、女もいろいろ、おばちゃんだっていろいろ咲き乱れるの〜である。「母親なんだからもっとしっかりしなさい」「私はたくさんの母親を見てきているからわかるのよ、悪いようにはしないから聞いておきなさい」と鼻息荒くこちらを睨み付けながら昭和臭のする愛と情熱に溢れたスパルタ風の助産師さんとか、頼んでもいねぇのに最新の母乳育児を神経質に押し付けてこようとする産院の看護婦さんとか、「ママ大丈夫ですか」「息子さんが、心配で」が口癖で、やたらとなんでも心配してはこちらに対する不安感・不信感を膨らませてくる超真面目な保育士さんとか、私は「母親」にまつわる年上女性たちが本当に苦手だ。そして彼女たちに対する私の対応の仕方も超絶に下手くそである。何か言われるとすぐ「ごめんなさい私のせいです・・・と全ては自分の不行き届きとして罪悪感にさいなまれ、しょぼくれ、とにかく相手の言いなりになる」のだ。とにかく全面的に、それも反射的に。最近少し私もパワーアップして全ての対応を旦那に頼み「逃げながら観察する」という技を覚えた。これが今のところ、精一杯の対処法。一旦その苦手な人とのやり取りを離れる。そして代わりに旦那が対応しているのをそばで見て、彼が相手の言っていることのどれを自分の責任として受けとるか、どれを受けとらないかのか観察する。観察しながら、自分ならどうしたか、旦那の対応とそれに対する相手の様子、出来事の結末などを踏まえて次はどうしようかなど自分の中で反芻して考えたりしている。とにかくまだ現時点での私は、彼らに対して対等に渡りあえない。私には、彼らが「正しい母親」「正しい育児」の紋所を突きつけ迫ってくるような気がしてしまうのだ。あの自信。あの勢い。あの迷いのなさ。母性は、ある意味一種の狂気なんじゃないかと真剣に思う時がある。

 こんなに「母性」や「母親」に嫌悪と恐怖でいっぱいな私だが、それでも心は「お母さん」との触れ合いを求めているのだから、こういう矛盾が、人間って切ないよねぇ〜。

おかずやカレーをたくさん作った日には、近所に住む一人暮らしのおばちゃんに御裾分けを持って行ったり。庭でバーベキューをしている時に宴会好きな近所のおばちゃんが通りかかったら「一緒に食べようよ」と誘ってみたりする。本が好きなおばちゃんには、面白かった本や漫画やDVDを貸してみたりする。「この前貸してくれたあれ、面白かったわ〜」なんて言われて会話が弾んで喜んでいる。庭の花が咲いたら絵画と短歌とガーデニングが大好きな上品なマダム系おばちゃんに持って行ってあげる。「まぁ、素敵。この華を絵に描こうかしら」とかエレガントな返事が返ってくるのを「すげえな、一条ゆかりの漫画に出てくる伯爵夫人みたい」と思いながら面白く観察する。

 私が交流している近所のおばちゃんたちは、60歳から80歳くらい。当たり前だけどそれぞれ個性が違う。私の亡くなった母親と同じ、65〜70歳くらいのおばちゃんは、学生運動世代だ。東京出身の彼女らは、男尊女卑の九州に生まれた日本女性特有の辛抱強さの塊のような私の母たちとは違い、とてもリベラルでやたらと署名運動なんかを頑張ってたりしている。政治や社会に対する意識が高い。そういう意味で若い。元気がいい。バブル世代の人たちがいつまでたってもどこかバブル臭が抜けないように、彼らもまた高度経済成長の日本の金の卵的テンションの高さ・信念・迫力が毛穴から溢れ出ているように感じる。

 70過ぎで80近いおばちゃんたちは、昔の九州女性のような雰囲気が醸し出されていて交流しているとなんだか懐かしい感じがする。九州は関東よりも「女は忍耐・辛抱して影で一家を支える」みたいなのが強くて、きっと関東よりも女性の権利とかウーマンリヴ的な考え方が遅れている。だから関東の60〜70代は、九州の母親世代と比べるとなんだか雰囲気も考え方も若いように感じる。そして関東で70〜80歳とかそれ以上くらいの年齢の女性は、九州の私の母世代の女性の雰囲気と似ている感じになるんだと思う。

 近所のおばちゃんたちは、放っておいても色々なことをしゃべる。まさに話題の泉。現政権についての不満、大人になって独立していった子供達のこと、亡くなった旦那のこと、ご近所付き合い、家の片付けが面倒くさい、庭の草むしりが大変だ、今年は柿の木に尋常じゃない数の柿が実ったが温暖化のせいじゃないか、趣味の登山で来週はどこの山にいく、今度九州に旅行にいこうと思うけどどこがオススメか、この前台風で瓦が飛んだから直したら金がかかって嫌だ、うちの大工は腕が良いから紹介してあげようか、などなど・・・話題はクルクル変わりながらも、とめどなく出てくる。出てくる。

おばちゃんたちは、とにかく元気だ。わたしは、おばちゃんがしてくれる話を「へーそうなんだ」「あはは、ウケるね」「あーあ、それは言っちゃダメでしょ」「さすがですね」とか相槌を打って聞いているのが、嫌いじゃない。おばちゃんも私から「今日はカレー作りました」とメールがあると、パート先の職場の同僚に「今日は、カレーだってさ〜やったね〜」「あら、良いわね〜、ご近所と仲良しで羨ましいわ」「ほらカレーって一人分作るの大変じゃない?だから一人分だけ分けてもらえるのはいいのよね〜」と自慢をしているようだ。


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