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医療従事者が自己理解不足になる理由—働き方とキャリアの落とし穴
医療従事者の仕事は、病気や怪我を抱える人々と向き合い、その生き方にまで関与する職業です。患者さんや利用者さんと日々接する中で、他者の人生について考えさせられる機会が多くあります。しかし、自身の人生について真剣に向き合っている医療従事者はどれほどいるのでしょうか?
自己理解は、自分の価値観や強みを知り、適切な選択をするために不可欠です。自己を深く理解することで、自信を持ち、他者との関係も良好になります。充実した人生やキャリアを築く基盤となるものです。
私が20年以上医療現場で働いてきた経験では、自己理解を深めようとしている人は全体の1〜2割ほどでした。では、なぜ医療従事者は自分自身と向き合う機会が少ないのでしょうか。その理由を、私の経験から考えてみました。
1. 早すぎる職業選択の時期
自己理解に触れる機会は多くなく、貴重なきっかけの一つは職業選択の時期になります。多くの一般企業では、大学時代に自己分析やインターンシップを通じて職業選択を行います。実際、「マイナビ」の調査によると、約47.7%の学生が就職活動中にやりたいことを見つけたと回答しています。そのきっかけとしてインターンシップ26.5%、自己分析22.3%でした。
しかし、医療従事者の場合、資格取得のために早い段階で進路を決定する必要があります。多くは高校生の時点で医療系の進路を選び、大学や専門学校へ進学します。高校1〜2年生で自己分析や職業体験を十分に行う機会は限られており、憧れや漠然としたイメージで進路を決めることが多いのです。そのため、実際に働き始めた後、「自分に合っていない」と感じるケースも少なくありません。
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2. 長期間の就学と高額な費用
医療系の学業は2〜4年以上の期間を要し、さらに国家試験に合格する必要があります。その過程には多くの時間と費用がかかるため、「せっかくここまで頑張ったのだから」と、そのまま働き続ける人が多くなります。
もし就職後に「この仕事が向いていない」と気づいたとしても、「今さら引き返せない」「仕事とはつらくても続けるものだ」と考え、現状を受け入れてしまう傾向があります。
3. 思考の癖が挑戦を妨げる
医療の現場ではリスク管理が基本です。日々の業務の中で「失敗してはならない」という意識が強く刷り込まれます。その結果、挑戦を避け、現状維持を優先する思考になりやすいのです。
また、「自分の強みは何か?」「最大限活かせる道は何か?」と考える機会が少なくなり、自己理解を深める余裕を持てなくなってしまいます。
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4. 業務量の多さと日本の医療制度の現状
日本の医療制度は、高齢化と労働人口の減少によって財政的に厳しい状況にあります。診療報酬の増加が見込めない中、医療機関は少ない人員で業務を回さざるを得ません。そのため、多くの医療従事者は長時間労働を強いられています。
私自身の経験では、定時で帰れるのは年に数回程度で、残業が常態化していました。時間的余裕がないことで、自己分析やキャリアについて考える機会を持ちにくくなります。
*現在は残業時間が短縮されている傾向にあると思います。
5. 「自己研鑽が当たり前」という暗黙のルール
医療業界では、日々進歩する医療技術や知識を学び続けることが求められます。そのため、「自己研鑽して当然」という暗黙のルールが存在します。
例えば、副業が推奨される時代になったにもかかわらず、医療従事者の中で副業に取り組む人は少数派です。「まずは自己研鑽を優先すべき」という考えが根強く、本当に自分がやりたいことを考える時間を確保しづらいのが現状です。
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6. キャリア研修の不足
多くの企業では、社員の成長を促すキャリア研修が導入されています。しかし、医療業界では、感染対策や医療安全などの法的研修が優先され、キャリア形成や自己理解を深めるための研修はほとんど行われていません。
私自身、20年間の病院勤務の中で、キャリア形成や自己啓発に関する研修を受けたことは一度もありませんでした。そのため、「今後のキャリアをどうするか?」と考える機会が少なく、自己理解が深まらないまま仕事を続ける人が多いのです。
キャリア形成の鍵となる「自己理解」
自分の仕事人生をどう築いていくか――その答えを見つけるために欠かせないのが「自己理解」です。自分の価値観や強みを知ることで、より納得のいくキャリアを描くことができます。
また、人材育成においても、自己理解は大切な基盤となります。特に管理職の立場では、内的モチベーションを高めることが重要です。個々の力を最大限に引き出すためには、一人ひとりが自身のキャリアに向き合える環境が必要ではないでしょうか。
医療職の世界でも、キャリア形成の場を提供することが必要だと思います。働く人が自らの未来を描き、充実感を持って働けるようなサポートが、これからますます重要になっていくのではないでしょうか。
まとめ
医療従事者は、他者の人生に深く関わる仕事をする一方で、自分自身の人生について考える機会が少ない傾向にあります。その背景には、早すぎる職業選択の時期、長期間の就学と高額な費用、リスク回避思考、業務量の多さ、自己研鑽のプレッシャー、キャリア研修の不足といった要因が挙げられます。
しかし、医療従事者が自分自身を理解し、自分に合った働き方を見つけることは、結果的により良い医療提供にもつながります。日々忙しい中でも、自分自身と向き合う時間を意識的に確保し、より充実したキャリアを築いていくことが大切です。
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