罪の意識が罰を欲する
「植え付けられた罪悪感」
カウンセリングをしていて、これが如何に人々を苦しめるか実感しています。
例えば家庭で。
子どもからの「○○に困っている」「○○してほしい」という状況に対して、親が要求に応えつつも"迷惑をかけられている"とか"無理をさせられている"という態度を示す。
その態度というのは、言葉で「あんたの要求に応えたから私がとても大変な思いをした」などと言うのかもしれないし、あるいは舌打ちしたり曇った表情をしたりするのかもしれません。
あるいは意識的でなくとも、"子どものせいで身体を壊す"なんていう状態を作るかもしれません。
これは明らかに子どもへ罪悪感を植え付けます。
子どもからすれば、「そこまで大変なら、やらなくて良いのに。お願いしてしまって申し訳ないことをした」という感覚になります。
この関係性は、家庭だけでなく友人や仕事仲間、恋人など、あらゆる人間関係で容易に生じます。
相手の願望を叶えてあげるために行動しているのに、結果的に相手を罪悪感に晒している。
つまり「相手のために」という名のもと「相手を攻撃している」ことになってしまっています。
心理学でいう『受動攻撃』です。
罰を受けることで罪を与える
さて、長期間にわたって身近な人から受動攻撃を受け続けるとどうなるでしょうか。
クライエントの多くにみられるのは、(植え付けられた)罪の意識から"罰を欲するようになる"ということです。
罰といってもそれぞれですが、一つ典型的なものがあります。
例えば先に述べた家庭で、その後。
高齢になった親に対して、子どもが"自分の時間を削っている"とか"面倒ごとを押し付けられている"という態度を示しつつ孝行を買って出る。
その態度というのも、言葉で「こっちにも生活があって大変なんだけど、その歳じゃ出来ないだろうからやってあげる」などと言うのかもしれないし、あるいは溜息をついたり疲れた表情をしたりするのかもしれません。
あるいは意識的でなくとも、"親のせいでパートナーを作れない"なんていう状態を作るかもしれません。
今度は逆に、親へ罪悪感を植え付けています。
親からすれば、「そこまでお願いしていないのに。自分の子どもに助けてもらってしまって申し訳ない」と感じます。
子どもは親から植え付けられ続けてきた罪の意識から許されるために、自ら罰を受けています。
それは"許されたい"という自然の反応でもあります。
しかしここでも、「相手のために」「相手を攻撃している」わけです。
つまりこの関係性から言えるのは、"罪の意識を意図せず植え付けられ続けると、今度は罰を受けることで罪を植え付けるようになる"ということです。
言い換えれば、"攻撃され続けてきたから、自分も攻撃する"のです。
断ることは"拒絶する"ことではない
心理療法における原則のひとつに、「個人的な連絡先を教えない」というものがあります。
(原則です。)
それは例えば、クライエントが自殺を仄めかし「夜になると辛いので、その瞬間に電話で相談したい」と訴えたとしてもです。
(原則です。)
クライエントが生死に関わるほど切羽詰まった状態なのに、セラピストというのはカウンセリング室内でしか話を聴いてくれないのか!と思う方もいらっしゃるかもしれません。そう思うのも当然です。
では何故この原則があるのか。
理由はいくつかありますが、その一つはここまで述べてきた「罪悪感」が関係する場合があるからです。(注意が必要なのは、場合がある、というところです。)
クライエントの要求を聴き入れ、夜中でも電話で対応していたとします。
しかしある時、たまたま着信に気付かず電話に出ることが出来なかった。
このとき恐らく、セラピストは心のどこかで思うでしょう。
"無理をして夜中の電話を受けていたんだから、そりゃあこういうことも起きるよ..."
そうなると、その後の心理療法に大きな影響が出ます。
クライエントは"無理して対応してくれていた"セラピストを(直観的に)知り、大きく罪悪感を植え付けられるだろうからです。
罪悪感を与えない。罪悪感を受けない。
そのためには、「自分に無理のない範囲で相手の要求(欲求)に応える」「自分が無理をしないと出来ない、あるいは納得できない時には相手の要求(欲求)に応えない」ということが大切になるのです。
断ることは拒絶ではなく、お互いを守るためなのです。
(そもそも「相手のため」なんて存在しないもので、すべては「自分のため」かもしれないと考えると…人間関係というのは困ったものです。)
(そしてかくいう私も、アシベさんに罪悪感を植え付けまくっています。その度アシベさんに諭され、やってあげたいと思うことと、やってあげなきゃいけないと思うことの違いを確認して反省するのです。)
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