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9 〜9番目の奇妙な人形〜(2009)

ティム・バートンが惚れた麻布人形たちの活躍を描く
愛らしくも切ないダーク・ファンタジー

1988年に製作されたホラーコメディ『ビートルジュース』で注目を集めたティム・バートン監督は1989年『バットマン』の監督に抜擢され、1990年には名作『シザーハンズ』を発表しました。

『シザーハンズ』は手がハサミの人造人間エドワードという奇想天外な主人公のため、私はドタバタB級コメディかと思って観始めたのですが、あっと驚くストーリー展開で、エドワードの哀しみのドラマに涙が止まりませんでした。

コミックやテレビアニメ、怪獣映画やホラー映画への造詣が深く、風変わりなキャラクターの物語を独自の世界観に落とし込むバートン監督は、当初は“鬼才”あるいは“オタク”監督と呼ばれていました。でも、世の中から爪はじきにされがちな異端の者には優しいまなざしを、それらを排除しようとする者には厳しい目を向けるバートン作品は心に深く突き刺さります。

そんなティム・バートンが製作を手掛けた、このダークなファンタジーアニメーションもまた、か弱き者への愛に溢れています。本作に登場するのは麻布を縫い合わせて作られた人形たち。奇妙な姿がたまらなくいじらしい、愛すべきキャラクターです。

【ストーリー】
古びた研究所で1体の継ぎはぎだらけの麻布人形が目を覚まします。背中に9の数字が描かれていることから“9(ナイン)”と呼ばれるこの主人公は、自分が何者で、なぜそこにいるのか分かりません。
窓の外には人っ子ひとりいない不気味な廃墟が広がっています。恐る恐る外へ出た“9”は、自分と同じような麻布人形“2”に出会い、安堵します。
しかし、そこへ巨大なマシンが現れ、“9”をかばった“2”はマシンによって連れ去られてしまいます。

舞台は人類滅亡後の地球で、全部で9体の麻布人形のみが遺されているという設定です。保守的で傲慢なリーダーの“1”、気のいい老発明家の“2”や勇敢な女戦士“7”など、1~8までの麻布人形たちは個性的で愛嬌たっぷり。継ぎはぎだらけの体に牛乳瓶の底メガネのようなガスマスクを付けた、とぼけた風貌に思わず頬が緩んでしまいます。

しかし、人形たちには過酷な戦いが待ち受けます。“2”を助けるために邪悪なマシンとの戦いに挑むのです。

迂闊な “9”のせいでマシンが凶暴化し、仲間たちが次々にマシン内へと連れ去られ、消えていきます。マシンの攻撃は迫力満点で恐ろしく、地球滅亡の謎が背景にある物語はかなり重々しいです。

荒廃した地球という夢のない世界が舞台なのもちょっと辛いですが、ラストは美しく、救いがあり、温かい気持ちになれるはずです。とはいえ、愛らしいキャラクターたちにはぜひ明るい世界での再登板を期待したいです。

2005年度の米アカデミー賞短編アニメ賞候補となった11分のオリジナル短編映画をティム・バートンが惚れ込み、長編映画化。元々は原案・監督のシェーン・アッカーが大学卒業制作として作ったのだそうです。

本作はオリジナルの世界観、印象的なシーン、深遠なメッセージにより磨きをかけて見応えあるものになっています。

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