インサイド・ヘッド(2015)
なぜ人は喜んだり、悲しんだりするのか?
感情の謎に迫る名作ピクサーアニメ
オモチャ、魚、車、ロボットなど、さまざまなものが生きる世界を描いてきたピクサーアニメ。本作では、人間に宿る感情をキャラクターにしてしまう発想力に本当に驚きました。
喜びや悲しみ、怒り、ムカつき、恐れなど、何かを経験するたびに沸き起こる感情は、実は頭の中で、感情たちがコントロールしているのです――。そんな楽しい想像をベースに、理屈では割り切れない感情の大切な意味について示したストーリーがとても素晴らしいです。
経験から生まれる感情の蓄積が個人の性格を形成する、という心の成長過程を楽しい設定に置き換えて紹介した後、ストーリーが始まります。
サンフランシスに到着したライリーは狭くて薄暗い新居に茫然。引っ越しの荷物は届かず、さらにパパが急な仕事で不在になるなど、トラブル続きの新生活にライリーが不満を募らせると、頭の中の感情たちも愚痴が止まらず、大混乱。そんな中、カナシミは触れるだけでヨロコビの黄色い思い出ボールを青色に変えてしまうようになります。
ライリーの幸せが何より大切な感情たち。中でも、ヨロコビの思いは強い!ライリーが幸せに生きてこられたのは、明るく、ポジティブなヨロコビがライリーの頭の中を仕切り、ハッピーな思い出で満たしていたから。だからヨロコビはライリーを悩ませるカナシミを頭の隅へ追いやろうとします。辛く、悲しい経験は不幸なこと、“悲しみ”の感情なんて必要ない! そんなヨロコビの誤った認識から、感情たちがライリーの頭の中を駆け巡る大冒険に発展します。
古くなった思い出ボールが〈記憶のゴミ捨て場〉へ行くことを“忘れる”、幼い子どもが抱く空想の産物たちが集まる場所を“イマジネーションランド”、そして、イマジネーションランドの産物たちは成長とともに“忘れられてしまう”ことなど、日々、自然に行われる頭の中の働きを徹底的にファンタジー化した創作力に心底、感心します。
うまくいかない新生活に悪い思いを抱いたライリーが悪意のままに行動するうち、“良い子”のライリーの基になる〈性格の島〉が次々に壊れていきます。そんな“ライリーらしさ”が失われる危機を救うのが、意外な感情なのです。
うれしいこと、悲しいこと、良いこと、悪いこと……、人はいろんなことを経験し、さまざまなことを感じ、たくさんの思い出をつくりながら成長します。苦しいことや辛いことは経験したくありませんが、それらの経験から得る“心の痛み”を感じるからこそ、人生で大切なことに気づけるのです。
子どもの頃はすべてが新しい経験で、うまくいくときもあれば、うまくいかないときもあります。初めての環境に戸惑う小学生の女の子ライリーの感情の揺れを見ているうちに、私は無邪気な子どもながらにいろんな状況を乗り越えてきた子ども時代を懐かしく思い出し、胸がキュンとしてしまいました。そして、ライリーのことを思いやり、温かく包む人々の優しさに胸が熱くなりました。
イメージ通りのカラーリングに、特徴的な外見、輪郭をぼかしたフォルムなど、喜怒哀楽の感情を見事に具現化したキャラクターたちが本当に愛らしいです。
日本語吹き替え版で、ヨロコビの声を演じるのは女優の竹内結子さん。パッと輝くような笑顔が魅力的な竹内さんは、どこまでも前向きでハッピーオーラ全開のヨロコビにピッタリ。ハイテンションで早口気味のヨロコビのセリフを軽やかにこなし、明るくて元気いっぱいのヨロコビに生き生きと息を吹き込んでいます。
設定、ストーリー、メッセージ、キャラクター、映像、日本語版キャストなど、何もかもが唯一無二の輝きを放つ名作です。
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【待望の続編『インサイド・ヘッド2』が2024年8月1日より公開】
思春期の悩みをテーマにした2作目も最高です!
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【『インサイド・ヘッド』のピート・ドクター監督の作品なら、こちら👇もどうぞ】
『トイ・ストーリー』の原案にも関わったピート・ドクターは『モンスターズ・インク』や『カールじいさんの空飛ぶ家』を監督したほか、原案、製作、さらには声優など、さまざまな面からピクサーアニメを支えています。
2009年のヴェネチア国際映画祭では、アニメ映画への多大な貢献を評価され、ジョン・ラセターなどと共に栄誉金獅子賞を受賞しました。
彼の関わる作品には、健気なキャラクターを優しく見つめた、心温まるファンタジーが多いです。
愛嬌たっぷりのモンスターたちが楽しい!
(※初監督作)
独りぼっちのゴミ処理ロボットがいじらしい
(※原案で参加)