ステーキに似た何か(エッセイ)
当時、飯もまともに食べられないくらいの貧乏学生だった自分は、いかに飯代を安く済ますかを常に考えていた。
ある日、たまたまPodcastのラジオを聞いていた時に、番組のハガキコーナーの中でパンの耳を溶かしたラードに染み込ませ、その上に高級な焼肉のタレをかけるとA5ランクの和牛と同じ味がするという情報を聞き、手品のトランプかというくらいに目から鱗を出して喜んだ。
貧乏だった自分には和牛なんて夢のまた夢…、ただ同然のパンの耳が2万円相当の和牛のステーキに錬金術できるなら…。
いてもたってもいられず、すぐさま隣のスーパーに駆け出した。
スーパーの特売品で売られていた50円のパンの耳の束と、無料で置いてある和牛の牛脂、叙々苑の焼肉のタレを買い、いざ、調理!
…しかし結果で言えば散々だった。
焼肉のタレが染み込んだパンは牛脂と合わさって海の水より塩味の濃いものだったのだ。
もはや、塩の塊である。
色味も悪く、肉の色に似ていると言うより、お湯の代わりに醤油で煮詰めた風呂吹き大根みたいな色をしていた。
まごうことなきモンスターの誕生である。
胃もたれしながら咽び泣いたことは今でも家族に内緒にしている。
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