まだ道の最中で、立ち尽くす君へ
本が好きになったのは小学5年生。ロアルドダールが好きだった。『魔女がいっぱい』『マチルダは小さな大天才』『チョコレート工場の秘密』etc…。放課後、真っ先に図書室へ向かった。今となっては内容もあまり覚えていないけれど、あの時間が楽しかったことだけは覚えている。
中学2年生の頃、暇つぶしに姉から借りたライトノベルが面白かった。憧れていた世界がそこに詰まっていた。ここから僕の本の虫生活が始まった。
高校受験が差し迫る3年生の秋、僕はBe動詞に苦戦していた。英語は好きだったけれど、その仕組みは理解できていなかった。ひたすらにワークブックの答えを写して、考えるよりも手を動かした。その単純作業に嫌気が差して筆記体を身につけたんだっけ。この頃の夢はUNICEF局員だった。
高校生活は本と部活でできていた。休み時間も授業中も本を読み、授業が終われば部活に明け暮れていた。この頃好きだったのは伊坂幸太郎さんと森見登美彦さん。一人の人間には到底体験することのできない、考え方、生活、そして人生がそこに存在していた。その可能性が好きだった。本に詰まった可能性が。
英語教員になりたかった。だから受験先に選んだのは外国語大学。部活引退後はひたむきに英語だけを勉強していた。その甲斐あってか、模試では校内1位、受験もそこそこ上手くいった。
けれど、僕は大学にいけなかった。
ぎりぎりになって入学金が足りなかった。
僕はお金を貯めはじめた。高校卒業後すぐにフリーターとして働く日々。休みの日にはIELTSの勉強に励んだ。英語だけが唯一の学問的武器だった僕は専門留学することを目標にしていた。ニュージーランドでエクステリアデザインについて学び、あわよくばそのままデザイナーとして就職。ニュージーランドを選んだのは永住権が取得しやすかったから。
2019年秋、留学しようとしていた学校が閉校した。ニュージーランドでの移民法が改正され永住権が取得しにくくなり、留学希望者が減少したのが理由だと思う。
同じ頃、僕が貯めていたお金は親によって使われていたことがわかった。
何もかも振り出しへと戻ってしまった。何がしたいのかもわからず、何ができるのかもわからなくなってしまった。漫然と生活を続けていた。
今はその延長線上にいる。変わらずフリーターとして決して多くはないが、必要最低限のお金を稼いでいる。目標は翻訳家。それも出版翻訳に携わりたいと思っている。誰でもなれるわけではない。以前参加した事務翻訳のワークショップでは、他の参加者から「出版翻訳はほんの一握りの人しか食べていけないって言いますけどね」と言われた。そんなもの百も承知だ。僕は自分が培ってきたものを、これまで支えてくれたものに還元していきたい。目標を見失った生活の中、久しぶりに本を開いたときに思った。その本は日本語で書かれたものだったけど、本に込められた可能性を思い出させてくれた。この可能性が言語を跨げば倍に、いやそれ以上に広がると考えると、自分だけでなく、他の人にも体験してほしかった。
既に出版された本は数えきれないほど存在する。今出版され続けている本も何千とある。企画として検討されている本は果たして幾らあるのだろうか。そしてこれから世に出る本は無限大だ。
翻訳家として生きていけるのかはまだわからない。ただ、お金を稼ぐ手段としてではなく、社会へと還元していく方法として僕は、翻訳家としての未来に、そして本に込められた可能性に懸けていきたい。