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Prismaton - オーディオと周辺分野の技術関連

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記事のうちオーディオと周辺分野の技術関連のものをまとめました
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記事一覧

映像と音の同期について - 前編 : 同期の感じ方、考え方

映像作品やゲームなどのコンテンツにおいて、「映像と音の同期」は重要な要素の 1 つです。 「映像と音の同期」と一口に言っても、効果音付けの話であったり音楽に合わせた映像演出の話であったりと話題が幅広く、これに対して混同されにくいように整理した上で触れている資料が案外無いな?ということに気がついたので本稿を書いてみることにしました。 同期を完成させるところまでの話を一気にしてしまうと長ーーくなってしまうので、まずは前後編の前編ということで「同期の感じ方、考え方」について押さ

サンプリングレートは表現したい周波数の倍で足りるのか?

少し前に量子化 bit 深度の note を書いたので、次はサンプリング (標本化) の話かな?というところなのですが、こちらは量子化よりも根が深く物議を醸しそうな危険があります……。 また、「サンプリング定理 (標本化定理)」など理論的な面が目立つ分野になっていて、しっかり紐解こうとすると一気に難解な記述になってしまうため、そこにも注意する必要があります……。 そんな闇の深いテーマの入口を気楽めに覗けないかといろいろ検討した結果、「サンプリングレートは表現したい周波数の

オーディオの量子化 bit 深度は何 bit 必要なのか?

「オーディオの量子化 bit 深度」に関しては、最近ではそれ程気にかけなくても良くなっているという認識だったので、ことさら取り上げていませんでした。 しかし、ここ最近「bit 深度そこまで要らなくない?聴き比べても分からなくない?」的な話をちょくちょく見かけるのが気になってしまいまして……、この話題について少しだけ触れてみることにしました。 正直あまり実用性が高い知識とは思わないのですが、デジタルオーディオに対しての解像度が深まるきっかけになれば嬉しいです! 前提条件の

インタラクティブミュージックだけじゃない!ゲームの音楽演出!

最近ではゲームの音楽演出として、「インタラクティブミュージック」が知られるようになってきました。楽曲だけではなく音楽演出に注目が集まるのは興味深いことで、個人的にはありがたく感じています。 一方で、「インタラクティブミュージック」は用語として一人歩きしている面があると思っています。「インタラクティブミュージックを導入するかどうか?」のような議論が音楽演出の前提抜きに語られてしまう場面にも遭遇することがあり、少しのやるせなさを感じています。 そこで本稿ではゲーム制作における

オーディオコーデック音質評価のやり方

オーディオコーデックは、オーディオの最終品質を無慈悲に左右する要素です。せっかく細かいニュアンスを作り込んでも、エンコードによって台無しになってしまうこともあります。 一方で、オーディオコーデックに関しての質の良い言及は非常に少なく、特に音質評価に関しては「どうせ区別がつかない」「結局は好み」などといった雑な極論が蔓延してしまっているのが原状です。 そこで、その「音質評価のやり方」をテーマとして本稿を書くことにしました。 主にインタラクティブオーディオ制作におけるオーデ

映像のフレームレートについてのいろいろな文脈

最近では映画、アニメ、ゲームなどの映像のフレームレートについて、様々な意見を見かけます。 例えば下記のような感じのものです。 (具体性を消すため適当に意を汲んで書いています。個々には特に批判などの意図はないので軽く流してください) 30fps と 60fps の区別は付かないので 30fps で良いのでは? 映画は 24fps だし 24fps で十分なのでは? アニメは秒間 8 枚でも十分な表現が出来ている 60fps に補完したヌルヌル動画の動きが安っぽい。フレ

真のラウドネス値 追い求めて - 海苔とK-weightingと私 -

近年では、多くのプラットフォームで「ラウドネス規準」や「ラウドネスノーマライゼーション」の運用が行われるようになり、オーディオ制作時に意識する必要のあるものとしての認識が広がっています。 一方で、ラウドネス関連に対する取り組みや考え方に関してはオーディオ制作者の中でもバラつきが大きく、不要な摩擦の要因となっている面すらあります……。 本稿はそんなラウドネス関連に対して「真のラウドネス値とは何か?」というテーマを元に掘り下げることで、より本質的なラウドネス値との向き合い方を

リスナー位置はカメラにはない、プレイヤーにもない、創るものだから

ゲームオーディオにおける「リスナー」とは「聴き手」を表し、効果音の減衰やパンニングを行う際に、基準となる位置と向きを表します。 FPV(First-Person View) のゲームではカメラとプレイヤーキャラクター(以下プレイヤー)が位置も向きも一致しており、リスナーは多くの場合カメラの位置と向きがそのまま採用されます。 しかし、TPV(Third-Person View) のゲームでのリスナーはそうはいきません。どういう位置に置いてもメリットとデメリットが生じ、また人

「オーディオ版レイトレーシング」と「物理シミュレーションによる音響空間表現」

「レイトレーシング」は 3D グラフィックスの重要な技術となっていて、レイトレーシングを使ったリアリティの高いグラフィックス表現を見る機会が増えてきました。 また同時に、「レイトレーシングをオーディオに応用する」といった言及もちょいちょい見かけるようになりました。 しかし、グラフィックスのシミュレーションにレイトレーシングが有効なのは光の特性をレイトレーシングで近似できているからであり、音の特性に関してはレイトレーシングだけで近似するのは困難です。これはもう少し広く知られ

ゲームの遅延についてまとめる

最近では昔のゲーム機やアーケード筐体の移植版などがいろいろと発売され、レトロゲームブームが続いていると思います!ですが同時に「遅延が気になる」などの声があがることが増えてきている実感があります。 また、e-sports や RTA などに注目が集まり、ゲームにシビアさが要求される場面も増えてきました。その中でも「遅延を減らすにはどうするか?」といった議論が出てくるようになりました。 さらに、VR 機器では酔いの防止などの理由から、ゲームの設計段階で「低遅延」が求められてい

エイリアシングとは何者なのか?

近年、普通(?)の人の感覚ではありとあらゆるものがデジタル化されていて、アナログというのは懐古として楽しむものというようなイメージになっているのではないかと思います。 しかし一方でオーディオ関連の世界を見ていると、意外と普通にアナログ機材が現役なことに気が付きます。使用する理由に関しても懐古的なものではなく、「アナログのほうが音が良いから」といったような現実的なものです。 (かくいう私も最近まで「オーディオ処理ならアナログのほうが絶対いい!」という認識でした、笑) では

EQ を IR で知る

EQ(equalizer) は音の質感を調整する上でほぼ必須のものになっていますが、それでいてとても奥が深く、しっかり理解するのは難しいものだと思います。 EQ の作用の捉え方としては、「周波数(振幅)特性を調整するのが主作用で、副作用として位相ずれや群遅延が起こる」のように考えている人が多いかと思います。もちろんこれは間違いと言うわけではないです。 ですが、EQ の作用には重要な別の捉え方があります。それは、「EQ は IR(Impulse Response) の適用で

機構でみる!ディレイ/リバーブの歴史

エフェクトとしてのディレイ/リバーブの機構について解説する機会がちょっとありまして、一通りまとまったものどこかに無いかな?と探してみたのですが、あまり網羅的なものは見つかりませんでした。 仕方なく (?) 自分で各所の情報を引っ張ってきつつ適当にまとめていたところ、とてもテンションが上がってきたので、勢いで note にも書くことにしました。 そんなその場ノリで作られた本稿ですが、機構面での網羅性に関しては随一に仕上がっているのではないかと思います。エフェクターマニアな方

ただ HRTF をかけるだけでは立体音響にならない 7 の理由

昨今では HRTF を使用した立体音響化というのは割と一般的なものになってきているように感じますが、その表現に満足できているでしょうか? また、何か足りない!と感じるなら、その理由を考えてみたことがあるでしょうか? 本稿ではちょっと物議を醸すのを覚悟で、現状の HRTF の使用に関してよくある落とし穴を 7 項目に分けて掘り下げます。なるべく専門知識を必要としないように気をつけてはいますので、肩の力を抜いて読んでみてください。 もちろん否定をするのが目的なのではなく、落