魔王 超短編
「魔王様。新たな勇者の団体が確認されました」
「そうか、そいつらは強いのか?」
「戦力的には、まだ全然駆け出しなので脅威には至りません。ただ」
「ただ?なんだ?申してみよ」
「人数がやや他の団体に比べると多い様子です」
「どのくらいだ?」
「200名程だと報告を受けています」
「それは多いな。今の間に潰しておけ」
「かしこまりました。魔王様。直ちに対処致します」
私は勇者が私のレベルにまで成長するのを待つなどと言う武士道精神は持ち合わせてはいない。私は出る杭は早めに打つ主義だ。
私は家族や部下、私の事を慕う国民を守るのが使命であり責任だと思っている。その為には多少の犠牲を人間達に払ってもらうのも致し方のない事だと考える。
「魔王様。ムガルナ地区での謀反の件ですが、どう致しましょう?」
「ムガルナか、奴らもなかなかしぶといものだな」
「兵を増員致しますか?」
「そうだな。よし、今の4倍の兵を送り込め。それでも平定出来ない場合は私自ら出陣する。その旨兵隊長に伝えよ」
「かしこまりました。魔王様。身命を賭して挑みます」
もちろん。戦は人間達とだけに限った事では無い。魔族同士での各地での争い。それに次ぐ謀反や造反など問題事は絶えず発生し訪れる。数多くの地域を収めていれば当然の事だが、それも為政者の責任として全力で努めるまでだ。
それらの成否はいつも流動的なものだが、私は私の判断が常に正しいと信じて突き進む他無いのだ。それが国民達の幸せに繋がるものだと信じて。
それが私の役目なのだ。
「魔王様。各地で飢饉が深刻化しています」
「そうか、とりあえず今年は城にある財産を徹底的に吐き出せ。来年まで耐えればなんとかなるだろう」
「いえ、もう既に城の在庫も底を尽きそうです」
「ふむ、仕方が無いな。それでは人間界に遠征せよ」
「それはつまり、」
「うむ、出来るだけ穏便に済めばその限りでは無いのだが、何せ事態が事態だ。最悪の場合手段は選ばないで良いとだけ伝えよ。全責任は私が持つ」
「かしこまりました。魔王様。迅速に対処致します」
食料問題や少子高齢化。経済格差や教育問題。挙げればキリが無いのだが、人間界で抱えている問題は当然の様に私たちも抱えているのだ。しかもあちらより明らかに環境の悪い土地に住む私たちの方が事態は深刻だ。
それでも私が投げ出す事は許されない。そうすれば全てが崩壊してしまう事は請け合いだ。全くもって因果な割に合わない事をしていると、我ながら飽きれてしまう。
だが、それが私なのだ。私は自分自身に誇りを持っている。
ただ、一つだけ最近我慢ならない事がある。
「魔王様。よろしいですか?」
「少し待て」
これだ。何故皆が皆口を揃えて私の事を魔王と呼称するのだ。
人間達ならまだ分かる。あちらさんから見れば私が魔王。それは譲ろう。
何故部下、国民達まで私の事を魔王と呼ぶ必要がある?
普通に王様で良く無いか?こいつらは味方では無いのか?
そんなに私は悪いのか?こいつらにとっても魔王なのか?
もっと悪いアメリカやロシアだって国民達は王のことを魔王とは呼ばないだろうに。
それなのに私はこれだけ努めても魔王呼ばわりだ。
問題はこの思いを国民達に伝えられない私自身にあるのだが。
一言止めてと伝えれば全ては解決するだろうに。私はおかしなところで小心者なのだ。
なので、これからも多少人間達に強く当たってしまうのは勘弁して欲しい。