「雨の匂い」-エッセイ-
雨の匂いって感じたことありますか?
特に、強く感じるのは雨の降りはじめの、土やアスファルトの地面から立ち上る独特の香り。
個人的にいい香りだなとか、大好きな匂いだとかまでは思わないのですが。
何となく懐かしいような、どこか切ないような気持ちになります。
私が以前、図書館で働いていた頃のこと。
雨の匂いにとても敏感な先輩がいたんです。
図書館の本は、湿気がとても苦手。
だから、換気のために窓を開けていても、雨が降ればすぐに閉めないといけません。
たいていの人は降り出しててから、慌てて館内の窓を閉めて回るのですが。
その先輩は「あ、雨の匂いがするから今すぐ窓を閉めなくちゃ」と、降り出す数分前に窓を閉めに行き、その後にザーッと急に雨が降り出すなんて事がしょっちゅうありました。
「よく降る前から分かりますね」と感心して言うと先輩は「なぜ、みんなは分からないんだろう?」と心底不思議そうに首を傾げていました。
「降りはじめの匂いなら分かるんですけどね」
「いや、あれは雨というよりアスファルトの匂いでは?」
「私は土の匂いだと思うんだけど」
など、みんなで盛り上がったものです。
そんな折にちょっと調べてみたのですが。
実は、あの雨の降り始めの匂いには、ちゃんと名前がついているんだそうです。
「ペトリコール」というギリシャ語に由来する”石のエッセンス”という意味の名前。
何だか、とても素敵な名前じゃないですか?
誰がそんなオシャレな呼び名をつけたの?って調べたら、なんと鉱物学者さんでした。
なるほど、どおりで……?!
もう少し詳しい話をすると。
この言葉は、1964年に鉱物学者のベアとトーマスという人が発表した論文の中で用いられた「造語」だそうです。
論文では、長い間日照りが続いた後の最初の雨に伴う独特の香りをペトリコールとして定義しています。
さらにその論文では、
というふうに書かれています。
雨が降る前に予知できた(?)先輩は、もしかすると遠くの雨の匂いが風に乗って漂ってきたのを、敏感に捉えていたのかもしれませんね。
石のエッセンス……「ペトリコール」。
普段の生活で、「あ、ペトリコールだ」とか使うことはなさそうですが、何となく雨が降ったときにでも、この話を思い出してみてください。
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