読書記録 湊かなえ短編集 「サファイア」 から ムーンストーン
本の感想ではあるけど、私の感想文は、本の物語を通して、自分が考えたことやテーマも含むので、単純な感想ではありません。
本を読むことは物語を知ることではなく、物語を通して自分と対話することなので。
ムーンストーン 「湊かなえ サファイア 短編集より」
短いのに、最後には感情移入して泣いてしまうぐらいストーリー展開がおもしろかった。少しやり過ぎって思うぐらいが、映画や小説の展開はちょうどいい。
ネタバレ含みますが、具体的な感想。
皆一度はどこかで経験する様な、家庭とか、学校とか、閉ざされた場所での人間関係の嫌な所が展開される。
今まで、理想的で、優しくたくましい夫が、転落をきっかけに暴力を振るうようになる。
今まで、人の心を打つような表現をできていた人が、それを強く誰かに否定されることで、できなくなってしまう。
今まで、誰にでも正義感をもって、立ち向かう事ができていた人が、家族を愛する事で、立ち向かう事ができなくなってしまう。
私達は、強さとか弱さとか、善とか悪みたいなことを平気で語るけど、誰の心の中にだって弱さがあり、誰の心も、人を傷つけるような「悪」に染まってしまう事があるってのが良くわかる。湊かなえはこの辺を描くのがとてもうまい。
私だって、何かきっかけがあれば、犯罪に手を染めるようなどす黒い感情を抱くかもしれない。家族を思うあまり、自分の中にある正義を見失ってしまうかもしれない。
でも、ムーンストーンの石の存在と太宰治の「走れメロス」の展開ですごくスカッとする。おこってしまった事は、変えられないけれど、見失ってしまった自分は、取り戻すことができるという事。
そして、感謝の後の、恩返しの力は強力で美しいなと思う。
「きっかけが無いまま一生を終える人もいるのかもしれない。」小説の一文。
才能があっても磨かれず発揮されない人の事を指していて、宝石のタイトルとリンクしていてさすがだなと思った。