日本ケロッグと振り返る、地域連携プロジェクト発足までのプロセス。
こんにちは。本日は、日本ケロッグが手掛ける「ケロッグ 毎日朝ごはんプロジェクト」を紹介します。子どもたちの朝食を取り巻く複数の問題にフォーカスし、2022年に発足した本プロジェクト。子ども食堂や小学校との地域連携を図りながら、活動を拡大しています。
多様な立場のステークホルダーと一緒にプロジェクトを始めるにあたって、どのように協力を得て、プランを実行していったのか。日本ケロッグの山路真由さんと、企画の立ち上げから情報発信までサポートしているプラップジャパンの小林拓さんに話を聞きました。
<対談メンバー紹介>
――本活動はケロッグの社会貢献プログラム「Better Days」を柱とした取り組みとのことですが、「Better Days」のが活動について山路さんからお話いただけますでしょうか。
山路:「Better Days」の発端は、私達の創業者であるW.K.ケロッグにあります。彼はビジネスとして成功をおさめる一方で、恵まれない子どもたちのために財団を立ち上げるなど、ESG・SDGsという言葉が生まれるずっと前から、先駆けのように慈善活動に注力していました。「Better Days」はそんな彼の意思を受け継ぐケロッグの社会貢献プログラムで、グローバル各国で社会課題の解決に取り組んでいます。日本では、子ども食堂やフードバンク、学校・病院・高齢者施設へのシリアルの無償提供や、お子さんやシニアへの食育活動、社員によるボランティア活動を行っていましたが、昨年の2022年はちょうど日本ケロッグが設立して60年を迎える年でした。この節目に「Better days」の活動をさらに進化させたいと考えたんです。
――各国それぞれが自国の社会課題に合わせた活動を展開しているんですね。日本においても多様な課題がある中で、具体的にどの課題に着目したのでしょうか。
山路:子どもたちの朝食欠食の高まりです。文部科学省が発表した調査でも朝食をとる小中学生が減っている実態が明らかになりましたが、朝食欠食による影響は、単純に元気が出ないとか、お腹がすいてしまうということだけではないんです。学力面や体力面でも悪影響を及ぼすという調査結果もあるほど、朝食は子どもにとって大きな存在です。
そしてもうひとつ、孤食という課題にも着目しました。近年の共働き世帯増加なども起因して子ども1人で朝食を食べる家庭が増えていますが、ネガティブな感情を抱きながら食事をすると、本来楽しい気持ちで食べるよりも消化が悪くなったり、唾液の分泌が出づらくなってしまうこともあるそうです。身体にもたらす影響という観点で見ると、孤食は「寂しい」という言葉で片付けてはいけない課題だと考えました。
――ケロッグと言えば、朝食というイメージが強いですが、朝食欠食だけではなく、孤食という課題にも着目されたんですね。
山路:私達ケロッグはグローバル共通で「世界中の人々が食だけでなく、心まで満たされる善良で正しい社会」というビジョンを掲げています。食品メーカーなので、食でお腹を満たすことはもちろん大事ですが、食を通じた楽しみや喜び、その“場”を通じて心の満足感まで得られる社会をつくっていきたいという思いがあります。朝食欠食だけでなく、孤食の課題解決も私達のビジョンとマッチする部分がありました。さらに朝食シリアルのパイオニアとして、私たちの知見も生かすことができる。子どもたちの朝食欠食と孤食の改善を図り、心身ともに元気な1日のスタートを切れるように応援する活動こそが、ケロッグがやるべき取り組みだと考えたんです。
――そこから生まれた「ケロッグ 毎日朝ごはんプロジェクト」。取り組みの内容について教えてください。
山路:活動は“子どもたちの朝食応援プログラム”と“朝食の大切さを学ぶプログラム”のふたつで構成されています。前者では、朝食摂取習慣の確立と孤食改善を目的に「朝食応援プログラム」という企画を立ち上げました。日本全国には7,000か所以上の子ども食堂がありますが、実は夕方以降に開放される食堂がほとんどです。このプロジェクトに参加いただく子ども食堂には、朝の時間帯に食堂を開いていただいて、子どもたちが通学前に食堂に立ち寄れるプログラムをつくりました。その場で私たちが無償提供したシリアルを食べていただく形です。
――プロジェクト発足時は全国各地の16か所の子ども食堂が参画されています。どのようなステップで参画いただいたのでしょうか。
山路:子ども食堂には朝食提供の機会があるし、孤食改善という意味でも、みんなで集まって食べることができてぴったりだね、と企画骨子はまとまったのですが、そこからが大変でした。一部の子ども食堂とはシリアルの無償提供でつながりがあったものの、全国の子ども食堂とリレーションがあるわけではなかったんです。
そこで、子ども食堂との全国規模のネットワークをお持ちの団体さんをいくつかピックアップして、相談したんです。「あの、ちょっとお話いいですか」って売り込みセールスのような感じで電話して。ありがたいことに、連絡をしたどの団体も大変共感いただいたのですが、中でも「子ども食堂応援団」を立ち上げた認定 NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえさんからは特に前向きな反応をいただいて、今回ご協力をいただくに至りました。
それから、むすびえさんを通じて全国の子ども食堂にアンケートをとっていただいて、私たちのやろうとしている活動に協力くださる子ども食堂を募りました。以降のやり取りは私が個別にそれぞれご説明をして、目的や実施意義に共感いただいた食堂とご一緒させていただいています。
――1か所1か所山路さんご自身がコミュニケーションをとっていたことに感服します。むすびえさんや各地の子ども食堂と直接お話をしていたからこそ、見えてくる発見もありますよね。
山路:夕方帯だけではなく、朝帯の食事も提供したいと思っていたけれど、一歩踏み出せなかったという声が多くの子ども食堂からありました。実際に現場で子どもたちを目の当たりにしていると、朝ごはんを食べていないお子さんが多いことに気づかれるそうです。朝食欠食をしている子どもたちは本当に元気がないし、不登校になりがちだったりもするそうで、子ども食堂側としてもずっと課題に思っていましたと。「食料の手配をはじめ、様々な問題があったけれども、ちょうどケロッグからの持ちかけがあって、やってみようと思えた」という声を聞き、現場ニーズとの合致を感じましたね。
またすでに朝食提供をしている食堂さんからは、子どもたち自身がシリアルを準備できるので他のメニューを調理する時間がつくることができた、新たなサポートになったという嬉しい声も聞いています。
――なるほど。子ども食堂側の課題解決にもつながっていたんですね。
ここからはプラップジャパンの小林も交えて話を伺いたいのですが、気軽に準備しやすいシリアルだからこそオペレーションに負担をかけずに実現できた側面もあるのでしょうか。
山路:そうですね。それに加えて、希望される子ども食堂にはケロッグからシリアルのディスペンサーも無償提供したところ、子どもたちに大うけでして。ディスペンサーを回す行為が楽しいし、色々な味をミックスできるので、子どもたち自身が朝ごはんを楽しんでくれているようです。商品のフォーマットという面でも非常にマッチしたと改めて感じています。
小林:僕も実際に子ども食堂に何度も足を運びましたが、子どもたちが本当に楽しそうに朝ごはんを食べているんです。ワクワク感を届けられるというのもケロッグならではの取り組みですよね。
ケロッグのシリアルの認知が高いからこそ、子ども食堂側からは「食べ慣れているから安心」「トニー君がいるので親近感がある」といった声もいただきました。
山路:小林さんがおっしゃるように、ケロッグのシリアルを知ってくださっている方が多かったのはありがたかったですね。今回初めてのお付き合いとなる子ども食堂ばかりでしたが、ファーストコンタクト時においてはケロッグというブランドや商品認知に助けられた部分が大いにあったと感じています。
――プロジェクトを進めていく中で、子どもと対峙している皆さんの声を聞いたり、実際に足を運んだりしたからこそ、商品価値を改めて発見できたプロジェクトでもあると言えそうです。
並行して実施していた“朝食の大切さを学ぶプログラム”についても聞かせてください。
山路:全国の先生をつなぐネットワークをお持ちの株式会社ARROWSさんと協働して、朝食の大切さや栄養バランスのよい食事を考えるための動画とワークシートキットを食育授業のオリジナルコンテンツとして作成しました。小学校でも食育の大切さを痛感されているものの、先生方は多忙で十分な準備ができていないという悩みがあると聞き、これらのコンテンツを小学校や子ども食堂の食育の授業として活用いただくようにしたんです。最終的には全国318校30,000人超の子どもたちが学ぶ形となりました。
他にも保護者の方々自身にも朝食の大切さを知っていただけるように、お子さんが学んだことを「保健だより」としてまとめて、情報共有する活動も行いました。
――言われてみれば、私自身小学生の頃に「朝食を食べる大切さ」や「食べないといけない理由」を学んだ記憶はあまりありません。
山路:当社が直近で実施したアンケートでも「そもそも子どもたちが朝食の大切さを理解していない」という回答が多くありました。「朝食って大事」と言われても、その理由まで考える機会はほとんどありません。
ただ、だからこそ単にお腹がすくから朝ごはんを食べるというだけではなくて、自分たちにとって朝食がいかに大切なのか、子どもたち自身が気づき、保護者の方々にも理解していただくことが重要だと思うんです。朝食摂取習慣の確立を目指すだけではなく、このような食育の活動も同時に実施したことに意味があると考えています。
――たしかに子どもを取り巻く保護者や先生、地域の方たちがきちんと朝食の大切さや欠食の実態を知り、理解することが課題解決の大きなポイントですね。活動を進める中で印象に残っている出来事や関係者の声があれば聞きたいです。
山路:むすびえさんや参加くださった子ども食堂の方々は、食堂に朝食欠食をしている子どもたちが多く来ていることを肌で感じていらっしゃいました。一方で、子ども食堂は朝食欠食など様々な課題をかかえた子どもたちだけが来る場所では決してないし、そういう負のイメージがついてしまうと子どもたちが来づらくなってしまう。レッテルを貼りたくないという思いを参加している皆さんから聞き、私たち自身も強く感じたところです。
誰もが来られる地域交流の場として機能させながら、朝食欠食など課題を抱えた子どもたちも自然に入ってくるような形にしたいという意見は特に意識しないといけないと思いました。
――というと、企画がある程度固まった後も、関係各所と話をする中で発信するメッセージをチューニングしていったんでしょうか?
小林:山路さんがおっしゃった通り、「誰もが来られる子ども食堂にしたい」という思いは子ども食堂の方々に強くありました。僕達もこの企画を立ち上げた当初は、朝食欠食と孤食の両課題がフックになると考えていたのですが、特定の課題にフォーカスしすぎると、課題を抱える子どもたちを意図せず傷つけてしまうかもしれない。こう思い直して、メッセージを調整した側面はあります。
山路:関係者の方たちからお話を聞きながら、企画当時は手探りで進めていましたよね。
小林:そうでしたね。現場に行って感じたことって、本当にたくさんありました。ケロッグさんと当社との2社間で話をしたり、想像するだけではなく、子どもたちと直面している方たちに会いに行って、直接お話を聞くことで、本当にリアルな子どもたちの問題が見えてきました。
子ども食堂の方々、そのつながりで出会えた小学校の先生方や地域の方たち皆さんとの対話を通じて、「子どもたちのために何かしてあげたい」と強く思っていらっしゃるんだと僕自身も感じて。関係者と話をする機会が何度もあったからこそ、このプロジェクトを立ち上げる意義を再認識することができました。
山路:子ども食堂を訪れるたびに本当に色々なつながりができて。地元の小学校の校長先生や教育委員会の方々が現場を見に来てくださることもありました。皆さんが子ども食堂に関心をお持ちだし、課題があるということを理解されていると改めて感じましたね。
――実際に足を運び続けたからこそ、関係者の声を直に感じることができますし、地域の皆さんに協力してもらえる活動にアップデートすることができたんだと話を聞いて感じました。今後、この取り組みを広げていくためには、どのような意識や行動が必要だと考えていますか?
山路:いざ実行しようとしても、人手が足りなかったり、リソースが足りないことはどうしてもあります。私達自身もこのプロジェクトを続ける意義は非常にあると思う一方、一社だけで実行できることには限界があるとも感じています。
本当に大きな視点で見ると、ケロッグだけが実行するということではなくて、こういった活動をきっかけに色々な企業に協力いただけたらいいなと思いますし、複数企業や団体と地域の方々が協力し合って同じ課題や目的に向かって協働していくことで、世の中を大きく変えることができると信じています。
――地域課題を解決する一歩として、この「ケロッグ 毎日朝ごはんプロジェクト」がより拡大することに期待していますし、応援しています。
山路:ありがとうございます。この活動は2年目を迎えますが、まだまだ認知が十分にあるわけではありません。ただ、プレスリリースやニュースを見て、取り組みを知ってくださった方からお問い合わせをいただくことが多いんです。子ども食堂だけではなく、学校の先生や校長先生がお電話をくださって、つながりができることもあって、発表時は全国16か所の子ども食堂で行っていた活動が今では20か所以上に増えています。これからも認知向上に向けた施策はプラップさんと一緒に考えていきたいところですね。
小林:そうですね。この活動は2030年までに全国47都道府県の子ども食堂での展開へと拡大を目指している息の長いプロジェクトです。これからも共感いただける方々と対話しながらケロッグさんと一緒に取り組んでいきたいです。
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お二方ともお話をありがとうございました。子どもたちを取り巻く朝食欠食と孤食という課題を解決するだけではなく、子ども食堂のオペレーション改善、食育活動の実施などといったお悩み解消にも一役買っている“三方よし”を実現した本プロジェクト。
子ども食堂や小学校に何度も足を運んで、関係者の声を聞きながらプランをアップデートしたという話が印象的でした。このフローを踏むことで、活動をよりよい形に磨き上げることができますし、協力してくださる方々との関係性が育まれるのだとわかります。
後編では「信念」をキーワードに、各ステークホルダーとの関係構築のプロセスについて詳しくお話していきます。どうぞお楽しみに。
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