和食とワインが出逢う夜には ~料理との相性の見つけ方~
[東海総研マネジメント 1999年1月号掲載] (2025年1月6日加筆)
くつろげる人と馴染みの小料理屋で憩うなら、ワインのボトルを抱えていこう。年末から新年の慌ただしい宴席の間(はざま)に、冬の旬を味わいながら、さしつさされつ…。和食には日本酒と決めないで、大人のカップルが冷や酒のかわりにコップでワイン、という風景には温もりがある。
そんな夜には、ぐいぐいやれる水のような白ワインが似合う。魚介類が引き立つような、酸味がきりりと爽やかで、そこに塩味やミネラルのニュアンスがあればもっとよい。たとえば、仏ロワール地方のミュスカデ・シュール・リー製法の逸品や、伊のソアーヴェなど。
ついでながら、カキにはシャブリが定番とされるが、カキとシャブリを合せるなら、酢っぱくて爽やかな「手頃な」ものを選びたい。高級な畑(クリュ)ものでは、華やかな香りとコクがカキの味を殺してしまうから。だから、お薦めはミュスカデ。カキのヨード臭と馴染んでくれる。
和洋を問わず、ワインとお料理を合わせるコツはふたつ。味わいが拮抗して引き立て合うものを合せるか、よく似たものを合せるか、である。「肉には赤ワイン、魚には白ワイン」と言われるが、例外も多い。たとえば、マグロやカツオのような赤みのお造り、鰻の蒲焼き、たれの焼鳥には渋くない赤が欲しいし、鶏や豚などの白いお肉料理にはクリーミーな白、霜降りのしゃぶしゃぶにゴマだれならば、コクのある白が抜群だ。
ところで、第8回世界最優秀ソムリエの田崎真也さん曰く「コクは曲者」。コクのある白はコクが高まれば値段も高まる。「中くらいにコクがあるものを、と注文しましょう」とか。田崎さん流の料理とワインを合せるコツは、「ワインの色と料理の色を合せること」。したがって、白っぽいお料理が多い和食には、白ワインの出番が多くなる。
だから、和食には白ワインという先入観は禁物。ザ・リッツ・カールトン大阪のソムリエ宮武隆さん(1999年当時)は、筑前煮に仏ブルゴーニュ地方の赤の代名詞ジュヴレ・シャベルタンを薦める。ジュヴレ・シャンベルタンの土っぽさ、湿っぽさが根菜類に合うという。思うに、筑前煮は赤い料理である。
和食の席を一種類のワインで通すならば、と宮武さんに尋ねたら、お薦めはブルゴーニュ地方シャサーニュ・モンラッシェ村の白。ワインが冷え冷えのうちは酸味がたってお造りや焼き物に、やがて温度が上がってふくらみがでたら煮物、揚物によく合ってくるとのこと。
このシャサーニュ・モンラッシェの一級畑モルジェ‘91(D・ガニャール社)をカラスミと合せてみた。長崎からの届きたてをさっとあぶって、スダチを香りだけ振って…。絶妙な取合わせだった。そういえば、塩辛も温めてバターを加えればワインに合う、と田崎さんは語っている。生臭いイメージからは想像しにくいけれど、試してみよう。
こうした意外な相性(マリアージュ)を見つけるには、遊び心がとても大切。作為と偶然がもたらすワインと料理の相性が、素晴らしい味の世界を創るとき、私たちはワインを愛する悦びを知る。
<今月のワインリスト>
ワインと和食を合せるには、料理のボリューム感をつかみ、そのレベルに合せてワインのタイプを選ぶのがコツ、と宮武ソムリエ。生の食材にはシャープな酸味、お寿司のような料理は大きくて鈍角な酸味、出汁を使う料理は深みとコクに合せて香ばしい風味のワインを、とも。
シャープな酸味といえば仏ロワール地方のミュスカデ。香りが少なく料理の邪魔にならないし、シュール・リー製法によるものは、アミノ酸の旨みがあるので、和食に合わせやすい。
一方、大きくて鈍角な酸味といえば、独ラインガウ地方のリースリング。リースリングは甘くて苦手という声も多いが、寿司のシャリや天婦羅の甘みとはよく馴染む。ロバート・ヴァイル社のリースリングは、甘やかな香りとマイルドな酸味がチャーミングな味わい。お酒を飲み慣れない女性からワイン通まで、評価の幅は広い。同社のラインナップの中で、“カルタ”ならば男性にも納得のいく辛口。香りは甘いけれども、きりりとした爽やかな酸味を楽しみたい。
'96バユオー社 ミュスカデ・ド・セーブル・エ・メーヌ シュール・リー“マスター・ドナシャン”¥1,940
‘96ロバート・ヴァイル社 リースリング“カルタ” ¥1,940
*ワインの価格は1999年当時のものです。
取材協力:丸栄百貨店/サントリー株式会社