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大好きだった異常者たちへ。

私には以前、たくさんの友達とたくさんの後輩がいた。
今となってはもう誰も私の周りには残っておらず、
連絡も一切ない、というか連絡先が変わっていたりする。

何年も前、一応思うところあって、少し実験じみたことをやった。

いつも私が号令をかけて集合したり、なんとなく
ファミレスに集まるよという雰囲気を出して
半ば強制的で、他の子たちが渋々参加しているのではないかという
疑念が浮かんだ。

なので、私は彼らに一切こちらから連絡をしなくなった。

正直、向こうから誘ってきたら快く今まで通りでいいか、
とも思ったし、私から発信しないと連絡すらよこさないなら
私が強制的に参加を促していたということで、
渋々くるやつはいらないと思った。

ものの見事に誰もいなくなった。

みんな渋々来てたんだなということで、私は連絡先を全消しした。

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自慢じゃないが私の後輩や友達は、
個人の色や世界観が強い人ばかりだった。
個人的には「愛すべき異常者たち」だった。

そんな友達や後輩が誇りだった。

もちろん今だって誇りに思っている。でないとこんなこと書かない。

そんな後輩たちのお話をすこしだけ書いておこう。
私はあだ名をつけることが好きだった。

今回はその“あだ名”についてである。

本人たちにはもちろん許可はとっていないが、
あだ名自体が本名からかけ離れていること、
もう連絡すらとっていないことを鑑みて、
勝手に大丈夫だろうということにする。

●存在を消す男 “シャブ”

「嗤う狂人」のエピソードにも出た“シャブ”という後輩は
とにかく存在感が薄かった。

たくさんの人数で行動する時、ファミレスからカラオケに移動したり、
飲みに行って店を変えるときなどよくシャブを店に忘れたりした。
だいたい次の店に行って人数を確認すると当初の人数より1人少なく、
「あれ?シャブは?」となる。慌てて前の店まで迎えに行くと、
店の前で立ち往生しているシャブを発見できる。

逆の場合もあった。店を移動したが誰かが
「あ、またシャブ忘れてるやん。」慌てて戻る。
立ち往生しているはずのシャブがいない。前の店に入って確認、
そこで気付く。

「今日はシャブ最初から来てねぇわ。」

「存在感」はおそらくデフォルトではついていなかったのだろう。

●言葉の弾丸を放つ男 “ピストル”


このピストルという男はイケメンだった。
しかもクールで歌がすごくうまい。
モテモテの男だ。
私が連れていた後輩の中で一番頭も切れて、
人望も厚かった。口数は多い方ではないが、
たまに放つ言葉は説得力があったり、
真を打っているようなことや本質を突いていて
人の心に大きな衝撃を与えることがあった。

人の心を打つようなことを言う男、ゆえに“ピストル”。

このあだ名は意外なところで効力を発揮する。
人混みの中で大きめに「ピストルー!!!」と呼ぶと、
だいたい周りが騒然となる。
慌ててピストルはやってきて、「デカイデカイ!!」とツッコんでくれる。

彼はバイクに乗っていて、私を後ろに乗せてくれたことがあった。
あの時は本当に「こいつはおれを振り落とす気だ。」と殺意すら感じた。

●環境が産んだ幻のポンコツ “ペッサリー”


これは周囲からだいぶ反感を買い、
誰も呼ばなかったが一応、私のあだ名上の名義はこれである。

これは本当にイライラする後輩だった。
嫌なやつなのではなく、いい奴すぎていつも人から
駒のように扱われていた。唯一、私と似ていると感じた後輩でもある。

こいつはヴィジュアル系のくせに、
女の子の前だとカタツムリのように縮こまってしまう。
顔はイケメンな方なので非常に勿体無い。
最悪なことに変にカッコつけようとするもんだから、
コントみたいになって、しかもウケないという
拷問のような奇行をやってのける。
それで女の子は引いてしまって、一向に仲良く慣れない、

女の子側が避けて行く、ゆえに“ペッサリー”。

この男に「干支」を聞いたことがある。自身は「辰年」だそうだ。
干支を全部言わせてみると4つしか出てこなくて、

その4つの中に自身の「辰」は入っていなかった。

●究極のノーマルこそがアブノーマル “テッチャン”

変わり種で最後にしよう。“テッチャン”。

テッチャンはずっとテッチャンだった。
ピストルやペッサリーなどの由来やエピソードはなく、
自然にテッチャン!と呼んでいた。

実はテッチャッンとは歳は違うが小学校が同じで
家も近くな上、母親同士が仲が良かったのだ。
テッチャンは途中で引っ越してしまったが大人になってから
地元にカムバックしていたのだ。
ブランクこそあれど、小さい頃を知っている。
その時から彼の本名をもじって単純にテッチャンとよんでいた。

例の如くファミレスでみんなで話していてあだ名の話になった時に、
意外とみんながあだ名は知っているが本名を知らない、
という人がけっこういることがわかった。
ちょうどよかったので遅い自己紹介がてら、
クイズ大会のようなことをやった。
あだ名や雰囲気から本名を当てようというものだ。

私がつけていたあだ名というのは本名は関係ないので、
当たり前のように不正解が連発する。
テッチャンの番になった。
テッチャンは
「おれは本名からだから適当に言っていればそのうち当たりますよ。」
なんて言っていたがなかなか正解が出ない。

「テツジ」、「テツ」、「テツヤ」、知ってる側からするとなぜ出ない!
となるがクイズ大会なんてそんなものだ。

私は勢いよく手をあげ、
「おれ本名知ってるよ!だって意外と長いもんね!」
テッチャンは割と私を慕ってくれていたし、
私に対してもいつも礼儀正しかった。
そんなテッチャンを私も大好きだったし、知らないことはなかった。

私は大きい声で言った。

「テツオくんやろ。」


テッチャンは蚊の鳴くような声で言った。

「テツロウです。」

<END>

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