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彼女は自らの力で " 未来への扉 " を開け放ち・・・ 力強く突き進む [第10週・3部]
若き実力派俳優・清原果耶氏の代表作である 連続テレビ小説・『おかえりモネ(2021年)』 。 その作品の筆者の感想と『映像力学』の視点から分析・考察し、「人としての生き方を研究しよう」という趣旨で展開されているのが " 『おかえりモネ』と人生哲学 " という一連のシリーズ記事だ。
今回も第10週・「気象予報は誰のため?」の特集記事で、その第10週の完結編となる第3部になる (第2部はこちらから)。
それで今回の記事は、特に第10週の後半部となる49~50話を取り上げた記事となっている。またこの記事内容と関連が深い、他の週のエピソードについても取り上げた構成となっている。
今回の記事は筆者の分析・考察、そして感想が中心に展開される。また『DTDA』という筆者が提唱する手法 ( 詳しくはこちら ) を用いて、そこから浮き彫りになった『映像力学』などを含めた制作手法・要素から表現されている世界観を分析・考察することで、この作品の深層に迫っていきたいと思う。
○舞い降りてきた " ひらめき " と幼馴染が送ってくれた情報に背中を押されて・・・ 百音は未来へと邁進する
朝の報道番組・『あさキラッ』の今日の放送で、メインのネタを " 黄砂 " から仙台の強風へと切り替えたいと申し入れる、朝岡覚(演・西島秀俊氏)を筆頭とした気象予報士たち。しかし、社会部気象班デスクの高村沙都子(演・高岡早紀氏)は変更の許可を出さなかった。
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そうなると、仙台の強風に関しては " 気象報道 " としては、まだ正式には表に出せない情報となってしまった。しかし、気象予報士の彼らにとっては " その危険 " が迫っていることを予見できている。
『そんな時、私たちはどうやって伝える? 』
と朝岡から、問いかけられた若手の気象予報士たち。
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" 報道 " としてではなく、" 生活情報 " としてふんわりと、しかし確実に仙台の人々に強風が吹くことを知らせたい・・・。この課題に対して、若手の気象予報士たちはアイデアを出し合って奮闘するが、なかなか良いものが浮かんでこない。
『あさキラッ』の放送開始が5分前と迫る中、主人公の永浦百音(モネ 演・清原果耶氏)は " あるアイデア " をひらめく。
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この百音のひらめきが・・・ 気象報道という世界に " 新しい風 " を吹き込ませ、またまたブレークスルーを巻き起こしていくのだ。この " あるアイデア " がひらめいたと同時に、百音のスマートフォンに " とある情報 " が飛び込んでくる。
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この " とある情報 " に、若手の気象予報士たちは驚きを隠せない。中継キャスターの神野マリアンナ莉子(演・今田美桜氏)は、スタジオに行ってこの情報を朝岡に伝えるようにと百音を急かす。
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さて、このシーンも・・・ このシリーズ記事をお読みの方々には、あえて語る必要もないのかもしれないが、念のために『映像力学』的な視点で捉えてみようと思う( 詳しくはこちら )。
まず、若手の気象予報士たちが、百音のスマートフォンに届いた情報を見入るカットは正面から捉えている。
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そして、機転が働いた神野は、この " とある情報 " はすぐに朝岡に伝えるべきだと百音に伝えたカットが、これになるわけだ。
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この時に、神野と百音が下手方向に向いているカットに切り替わるわけだ。『映像力学』的には、下手側の先には彼女たちの " 未来 " があるということになるため、送られてきた " この情報 " によって、神野と百音は " 未来へと導かれる " ということを映像で表現している。
さらに神野に指示されて、百音はスタジオへと向かうわけだが、この方向も " 上手側から下手側へ " と突っ走っていく。
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[ 私が追い求めていたものが・・・ この " 気象報道 " という世界にはある ]
送られてきた " この情報 " と神野に背中を押されて・・・ 百音は " 自分の追い求めていた未来へと突き進んでいく " ということも映像で表現するシーンだろうと思う。
○そして " 伝える側の闘い " が始まって・・・ 機が熟していく
午前6時となり、『あさキラッ』の放送が予定通り開始される。
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いつもよりも緊張の面持ちで、立ち位置にスタンバイする朝岡の表情が、" これからの伝える側の闘い " がその意味を言い表していると感じられる。
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そして気象情報コーナーが始まって、事前の打ち合わせ通りにメインのネタてある " 黄砂 " を中心として展開されていく。
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そして神野の中継コーナーに、予定通りの " 2分 " という持ち時間が回ってくることに。神野は百音とアイコンタクトして、予定通りに百音の " あるアイデア " を実行することを決断する。それに『分りました』と目で応える百音。
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報道気象班のスタッフルームで、仙台の風の状況に注視する内田衛(演・清水尋也氏)と気象庁担当の社会部記者の沢渡公平(演・玉置玲央氏)。とうとう仙台の風速が、気象庁が暴風警報を発出する25m/sを超える。
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急いで沢渡は気象庁に裏取りに向かい、内田は仙台が風速25m/sを超えたことをスタジオの朝岡に伝えようと走る。
○たとえリスクを負ったとしても・・・ " 確実に伝えたい " と願う、二人のその思い
機が熟して、神野と百音はとうとう " あるアイデア " を実行する。若手の気象予報士たちに、完全に中継内容を任せていたこともあって、思ってもみなかった展開に、朝岡も驚きの表情を隠せない。
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登場してきたのは、Weather Experts社のマスコットキャラクタである「コサメちゃん」と「傘イルカくん」だった。このマスコットキャラクタをパペットにして " 神野のお友達 " という形で登場させることが、百音がひらめいた " あるアイデア " だったのだ。
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そして、このパペットに語らせることで、" 報道 " としてではなく、" 生活情報 " としてふんわりと、しかし確実に仙台の人々に強風が吹くことを知らせることを狙ったわけだ。神野はパペットが語ったことを聴き取って、このように代弁する。
『神野 : 今日はこの後、北日本で風が強くなるかもしれないの? そうすると、スギ花粉がたくさん飛ぶね。』
『神野 : ん? 今日は風が、かなり強く吹くかもしれない? それはどこで? 仙台市の・・・ 山沿いのほう! それって、奥羽山脈が関係しているの? うんうん、やっぱりそうなんだ。』
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この直後のカットが非常に印象的だ。高村デスクの「ちょっと・・・ どうなってるの?」という、心の声が聞こえてきそうな表情は当然ながら、彼女の上手側の奥に陣取る、プログラムディレクター (NHKの報道部門では違う役職名なのか、クレジットでは確認できず) らしき人物の所作が・・・ その状況を的確に表現していると思う。
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神野が『仙台市の・・・ 山沿いのほう! 』と語ると高村デスクと同様に、プログラムディレクター役の俳優 (もしかすると、カメオ出演者だろうか) が驚き、そしてある意味、あきれたような所作をしながら俯くのだ。
その理由は番組の事前の打ち合わせで、朝岡が今日のメインのネタを " 黄砂 " から、東北での強風へと変更したいと申し入れをした時に、このプログラムディレクターも当然ながら同席していたわけだ。
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この朝岡のメインのネタ変更の申し入れの際に、それが認められなかったことをプログラムディレクターは当然把握している。ということは、高村デスクやプログラムディレクターはこの中継内容を知らされず、社会部気象班、特に気象予報士たちの独断専行で行われたことを窺わせるようなカットになっているわけだ。
このプログラムディレクター役の演技は非常に秀逸で、「おいおい、こっちは知らされてないぞ。やりやがったな・・・」という心の声が聞こえてきそうな所作となっていて、このシーンの重要な隠し味にもなっている。
この高村デスクやプログラムディレクターに、その内容が知らされていなかったということは非常に問題であり、事と次第によっては責任問題・・・朝岡の進退問題に留まらず、最悪は高村デスクの首が飛んでもおかしくはない。それぐらいリスキーなことを、神野と百音はやってしまったとも言えるだろう。
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