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" 時代の空気感 " に呼応して・・・ " 優しく救われるようなドラマ " を作り上げていく [第10週・1部]
若き実力派俳優・清原果耶氏の代表作である 連続テレビ小説・『おかえりモネ(2021年)』 。 その作品の筆者の感想と『映像力学』の視点から分析・考察し、「人としての生き方を研究しよう」という趣旨で展開されているのが " 『おかえりモネ』と人生哲学 " という一連のシリーズ記事だ。
ようやくというか、とうとう東京編へ突入していく・・・ ということで、今回は、第10週・「気象予報は誰のため?」の特集記事を展開する。この特集記事は3~4部構成を予定しており、今回はその1部ということになる。ちなみに、第9週・5部の記事をお読みになりたい方は下のリンクからどうぞ。
それで今回の記事は、特に第10週の前半部となる46~48話(前半)を取り上げた記事となっている。またこの第10週の前半部と関連が深い、他の週のエピソードについても取り上げた構成となっている。
この記事を執筆するのにあたっては、『DTDA』という筆者が提唱する手法 ( 詳しくはこちら ) を用いて、そこから浮き彫りになった『映像力学』などを含めた制作手法・要素から表現されている世界観を分析・考察していく。さらに筆者の感想を交えながら、この作品の深層に迫っていきたいと思う。
○『映像力学』を使って、彼女が感じ取っている " 東京という街 " の印象をサブリミナル的に表現する
気象予報に関わる仕事を求めて宮城を後にし、上京した主人公・永浦百音(モネ 演・清原果耶氏)。今日から新たな第一歩が始まるということで、期待と興奮、そして少々の緊張の面持ちで、東京の街を闊歩する。
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新生活を始めるにあたって心機一転ということで、劇伴(サウンドトラック)も一新された。特に象徴的であるのは『空の物語 (feat. 坂本美雨)』という楽曲だろう。
1980年代の " ニューエイジ・ミュージック " のムーブメントの一翼を担った、『ウィンダム・ヒル』レーベルのGeorge Winston氏が奏でるようなピアノの響きが印象的だ。旋律はスタイリッシュでアーバンな雰囲気なのだが、和声はそこはかとなくオーガニックな雰囲気を醸し出す。そして、坂本美雨氏の歌唱が加わることでそれらを優しく包み込み、絶妙なバランスに調和させることに成功している。
これまで自然に慣れ親しんできた主人公・百音が、 " 東京という街と調和していく " ということを響きとして表現しているのだろうか。
さて、東京編のスタートということで、視聴者に新しい舞台設定や状況設定を効果的に、且つ効率的に伝えなければならないということもあってか、この第10週は『映像力学』の基本に忠実に制作されているところが印象的だ。
それで『映像力学』というものは、視聴者の潜在意識に働きかける、いわゆる "サブリミナル効果" というものを狙っている。主人公がいつも一定の方向に進んだり、いつも上手側の立ち位置にいるのに、あるシーンやカットだけは逆方向に進む、あるいは下手側の立ち位置にいると、視聴者は何となく " 不自然さや違和感 " を感じると思う。
この視聴者が感じる " 不自然さや違和感 "が、時には登場人物が逆境に追い込まれているように見えたり、ネガティブな心理状況に陥っているように潜在的に感じていたりする。これを逆手に利用して、制作側は登場人物の置かれている状況や心理的な状態を、俳優のセリフや演技に織り交ぜながら表現することで、その世界観を構築していく手法なのだ。
したがって、理論体系を一切知らなくても、スクリーンやモニターからはそこはかとなく『映像力学』的な要素を感じ取っているわけだ。要するに、これらの知識が無くても作品は十分に楽しめるが、知識があれば作品が伝えたい " テーマの深層 " がより感じられるようになると思う。
それで『おかえりモネ』は日本のTVドラマの基本となっている " 上手側から下手側へ " の進行 (時間軸の進む方向) を採用している。ということは " 未来 " は下手側にあることになり、主人公・百音が " 上手側から下手側へ " へと向かって移動する場合、" 未来へと向かって進んでいる " ということを映像で表現していることを意味する。そうなると百音が新しいものと出会う時、その新しいものは必然的に下手側から出現・登場することになる。
また、『おかえりモネ』で採用されている進行が " 上手側から下手側へ " となると、 主人公・百音の定位置は基本的に上手側となる( もう少し詳しい理論体系を知りたい方は、こちらをどうぞ )。
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そうなってくると主人公・百音の定位置が上手側ということは、同時に上手側は百音のとっての " ホーム的な場所 " という意味にもなり、下手側は彼女にとっての " アウェー的な場所 " という意味にもなるわけだ。
もっと言えば、百音が上手側から下手側へ 移動するということは " ホームからアウェーへと移動する " ということを映像で表現できる。逆に言えば、百音が下手側から上手側へ 移動するということは、" アウェーからホームへと移動する " ということも映像で表現できることになる。
したがって、主人公・百音が故郷・亀島へと帰省するシーンでは、" アウェーからホームへと移動する (過去へと戻る) " という意味を付与するために、彼女が " 下手側から上手側へ 移動する " という映像を多用しているのはそのためだ。
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では、東京での生活が始まる第46話で、主人公・百音の進行に注目してみよう。まず百音が東京に着いて、都内観光をしてから居住することになるシェアハウス・『汐見湯』に向かうまでの彼女の進行方向は、ほぼ " 上手側から下手側へ " と固定されている。
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次に百音が翌日に面接試験を受験する、気象情報会社・『Weather Experts』の社屋に下見へと出向いた際も、彼女の進行方向はほぼ " 上手側から下手側へ " と固定されている。
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さらに、Weather Experts社の報道気象班のスタッフがインフルエンザの集団感染によって人員不足に陥っていた際に、百音が急遽駆り出されて在京キー局・『JAPAN UNITED TELEVISION』に出向く時も、彼女の進行方向は、ほぼ " 上手側から下手側へ " と固定されているわけだ。
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ということは、東京という街や『Weather Experts』、そして『JAPAN UNITED TELEVISION』は、百音にとっては新鮮で刺激的な場所ということや、挑戦の場所といった " アウェー的な場所である " ということを、徹底して映像として表現していることがわかると思う。
このように、『映像力学』の基本に忠実に、そして徹底して映像として表現することで、サブリミナル的に " 百音の今の状況 " というものを効果的に、且つ効率的に視聴者に訴えかけているのだろう。
○刺激的な東京という街の中で・・・ 彼女が唯一ホッとできる場所・・・ それが『汐見湯』だ
さて、百音の東京での居住先となる、シェアハウス・『汐見湯』。急遽の上京ということで下見をする時間も無く、祖父・龍己の伝手で決めた物件だそうだ。立地は築地という設定で、祖父が漁師ということもあって耳馴染みがある地名と、『Weather Experts』まで徒歩15分ということで決めたらしい。確かに・・・ 宮城から上京して、いきなり電車やバス通勤は辛いだろうし。賢明な選択だろう。
それで百音が『汐見湯』に初めて向かうシーンでは、皆さんはどのようにお感じになりましたか? 何か気づくことがありませんでしたか?
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このシリーズをお読みの方々は、既にお気づきかもしれないが・・・ この『汐見湯』に向かう道程のカットでは、百音は当然 " 上手側から下手側へ " と進行する。
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しかし『汐見湯』に着くと、百音の進行方向は、ほぼ " 下手側から上手側へ " と固定されているのだ。
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初めて来た場所なのに " 下手側から上手側へ " の進行を使っているということは、当然・・・
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