" その強い眼差し " から「遠く離れていても・・・私のことを、ずっと見守ってくれていたんだ」という言葉が聞こえてくる [第11週・3部]
若き実力派俳優・清原果耶氏の代表作である 連続テレビ小説・『おかえりモネ(2021年)』 。 その筆者の感想と新しい視点から分析・考察し、「人としての生き方を研究しよう」という趣旨の " 『おかえりモネ』と人生哲学 " という一連のシリーズ記事。
今回は第11週・「相手を知れば怖くない」の特集記事の最終回の3部ということになる。ちなみに、第11週・2部の記事をお読みになりたい方は、このリンクからどうぞ。
それで今回の記事は、基本的には第11週・55話を集中的に取り上げた記事となっている。またこの記事内容と関連が深い、他の週のエピソードについても取り上げた構成となっている。
また今回の記事は東京編でも非常に重要な舞台となっている、『汐見湯』のコインランドリーのシーンを、特に重点的に分析・考察している。この分析には、筆者が提唱する『DTDA』という手法 ( 詳しくはこちら ) を用いて、そこから浮き彫りになった、制作手法・要素から表現されている世界観を分析・考察することで、この作品の深層に迫っていきたい。
ちなみに今回は、『映像力学』を用いた分析・考察の要素は少ないものになっている。
○ " 4ヶ月間のすれ違い " を " メタフィクション的 " なアプローチで、自己批評する
朝の報道番組・『あさキラッ』で、中継コーナーのトピックスを任された主人公の永浦百音(モネ 演・清原果耶氏)。海で育ち、山で働いた自身の経験も踏まえた内容で、当初は視聴者にも好評を得ていた。
しかし " アンダーパスでの水没事故 " がキッカケとなって、百音は『水の事故の注意喚起シリーズ』にのめり込み、執着してしまう。結果的に報道気象班の中でも対立を生み、浮いた存在に。さらに視聴者からも苦情が届いてしまう。そのことについて、気象キャスターである朝岡覚(演・西島秀俊氏)は、百音に一考してほしいと諭した。
思考的にも、精神的にも行き詰ってしまった百音。『汐見湯』のコインランドリーで衣服の洗濯をする待ち時間の間に、誰かに電話をして " その話 " を聞いてもらいたかった。しかし平日の日中ということもあって、電話をしあぐねていた。青年医師である菅波光太朗(演・坂口健太郎氏)の電話帳のページを開くも・・・ 彼が今、じっくりと話を聞ける状況なのかが分らない。
すると " 百音の心の声 " のようなものが語りかけてくる。
最初は、百音自身の心の声だと思っていたが・・・ どうにも " 聞き覚えのある男 " の声。百音は、驚いて声が聞こえてきた方向に思わず振り返ると・・・
なんと・・・ 菅波が立っていた。しかし彼の開口一番はこれだった。
菅波の想像の斜め上を行く反応に、唖然とする百音。さらに彼は早口でまくし立てるように語る。
さてこの菅波のセリフは、皆さんはどのように感じられましたか? このセリフを額面上で捉えれば、ロジカルで天邪鬼な " 菅波光太朗 " という人物像を表現するために、その機能を持たせたセリフであることは言うまでもない。
しかし筆者は・・・ もう一つの意味と機能を持たせているように感じられてしょうがないのだ。そう・・・ このセリフは、脚本を担当した安達奈緒子氏自身の、自己弁解と自己批評といった " メタフィクション的 " な機能を持たせたセリフのように聞こえてくるのだ。
このようなアプローチは、漫画の世界でもよく用いられている。例を挙げれば、『タッチ』などを筆頭に80年代を席巻した、あだち充氏などが有名なところだろうか。
あだち充氏は、自らの作品の中に " 原作者 " として登場し、あだち充氏自らがストーリー展開の補足や矛盾点、自己弁解や自己批評というもの語らせていくといった作風だった。そういったことから鑑みると、
『 ならば " 4ヶ月 " という空白は? 説明がつかない 』
『 普通、もっと早く会うでしょ? 』
『4ヶ月間、微妙に擦れ違っていたってことですか? 意図せず。いや、それはいろいろと、確率的に納得が・・・ 』
といったセリフは、安達奈緒子氏自身の言葉であり、それを菅波という人物を媒介させて代弁しているようにも感じられるのだ。要するに、
[ このような設定で " 4ヶ月間も擦れ違う " というのは不自然すぎる・・・ 分ってます・・・ 分ってますよ。しかし、作品をドラマチックにするためには、この " 4ヶ月間のすれ違い " が必須の要素なんです ]
といったようなニュアンスのことを菅波のセリフを通して、安達氏は我々視聴者に語りかけているのではなかろうか。
そして、この " 擦れ違い " というものは、作品をよりドラマティックに際立たせるためには絶好のスパイスであり、この作品の中ではこれまでも、いたる所に用いられ、また今後のストーリー展開の中でもふんだんに用いられていく。では、なぜ " 4ヶ月間のすれ違い " というものが必須なのか?
百音が上京して4ヶ月が経過し、東京という街にも慣れ、新しい職場と仕事にも少し慣れてきた頃。大体こういったタイミングで " 最初の壁 " にぶち当たって、行き詰まりの状態になりそうな頃合いとも言える。そこで " 同志 " のような存在が登場し、その状態を打開してくれるというのが、ドラマツルギーとしては絶好のタイミングと言えよう。
そして百音にとって " 同志 " のような存在は・・・ 登米時代から、やはり菅波なのだ。百音が " 最初の壁 " にぶち当たり、行き詰まりの状態で菅波が登場する。これほどドラマチックな展開は、他にはないだろう。
当然、百音の表情も一気に明るくなるわけだ。
○百音が使う洗濯機の " 回転方向 " と菅波が " コインランドリーに登場する "タイミングの法則性を。
さて、この東京編では『汐見湯』のコインランドリーが、今後のストーリー展開を進めていく上でも、非常に重要な舞台となってくる。したがってこの場所は、細部に至るまで目を配らなくては、制作者側の意図を汲み取ることは出来ないだろう。そういったこともあって今回の記事では、かなりマニアックなところまで取り上げることにする。
それでコインランドリーには、昔懐かしい洗濯機が設置されている。
この筐体からすると、スウェーデンの『Electrolux』製の1990年代の業務用のものであることが判別できる。
それでこの作品の中では、洗濯機に残り時間を表示するための " 赤色の電光表示 " がある。これはメーカー純正のものではなく、演出の都合上、美術部のスタッフが手作りで追加して取り付けたそうだ (『おかえりモネ メモリアルブック(ステラMOOK)』より )。
ということは、この洗濯機は撮りたいシーンや演出意図によって、注水や排水、洗濯、脱水、ドラムの回転方向などを自由自在にコントロールできるようにも、カスタマイズしていた可能性も相当高いと考えられる。
この洗濯機の動作が、自由自在にコントロールできる可能性が高いということで、筆者が最も注目しているのは、百音が使用する洗濯機のドラムの回転方向と " 菅波が登場するタイミングの法則性 " についてだ。もし作品が手元にある方々は、ぜひとも映像を確認してほしい。
まずこの洗濯機のドラムの回転方向は、時計回りの正転だけではなく、反時計回りの逆転もある。
それで第54話では、百音が洗濯物を入れ、料金を投入して洗濯をスタートさせると、まずはドラムは反時計回りの逆転から動き出す。
この『汐見湯』のコインランドリーには、『Electrolux』製の水色の洗濯機が3台と乾燥機(白色の筐体)が1台設置されているわけだ。
さらにサンヨー製の縦置きの洗濯機も2台確認できる(筐体の雰囲気から、おそらく「ASW-45C」と思われる)。
ちなみに『汐見湯』のコインランドリーの " 1・2番機 " の洗濯機には、10kgという表記が入っているため、その型式は「W100MP」と思われ、" 3番機 " の洗濯機には16kgという表記があるので、「W160MP」だと思われる。いずれにしても各放送回を観れば、百音も菅波も『Electrolux』製の洗濯機を好んで使っていることが分ると思う。
それで話を戻して、第54話で百音が洗濯物を入れているカットを確認すると、背面には出入り口と白色の乾燥機が確認できる。
ということは、この時に百音が使っている洗濯機は " 3番機 " ということになると思う。
それで、菅波が登場するカットの " 3番機 " の洗濯機のドラムの回転方向を確認しようと思っても・・・
菅波が登場するカットでは・・・ 百音が使用している " 3番機 " の洗濯機はカメラの背面(画角からも外れている)にあるため、残念ながらドラムの回転方向が確認できない(苦笑)。
実は筆者は、コインランドリーに菅波が登場するタイミングは、百音が使用している洗濯機のドラムが「必ず " 反時計回りの逆転の方向 " に回転しているタイミングと合わせているのではないか」と考えている。この第54話で菅波が登場するタイミングは、百音が洗濯を始めたばかりで、その時のドラムの回転方向は " 反時計回りの逆転の方向 " だった。時間的なものも考えて、" まだ回転方向は変わっていない " というタイミングの状況設定と考えて良いと思う。
それで、菅波が登場するタイミングが、百音が使用している洗濯機のドラムが " 反時計回りの逆転の方向という法則性 " であるというその証拠として、第52話での百音と菅波が擦れ違うシーン (6:08~) も観てほしい。『あさキラッ』の中継コーナーのトピックスを任された百音は、その企画のネタをコインランドリーで洗濯をしながら考えている。
最初のカットは、百音が使用している " 2番機 " の洗濯機のドラムは、時計回りの正転で回転している。
それで、百音が企画のネタをひらめいてスマートフォンを取りに戻ろうとすると、ドラムが反時計回りの逆転の方向に回り出して・・・ そのタイミングで菅波がやってくるのだ。
そして百音が使用している " 2番機 " の洗濯機のドラムが、再び時計回りの正転で回転し始めると・・・ 菅波は立ち去り、百音が戻ってくる。
さらに、百音と菅波がコインランドリーで最初にニアミスする、第10週・50話にも注目してほしい。洗濯しながら百音が眠ってしまうシーン (12:46~) だ。
このカットではカメラがドラムの中に入っているので、回転方向は時計回りの正転に見えるが、" 百音方向から見ると反時計回りの逆転 " で回転していることになる。そこに・・・
このドラムが反時計回りの逆転で回転しているタイミングで、やはり菅波がコインランドリーにやってきているのだ。
しかし菅波が立ち去る際のカットを確認すると・・・ 百音が使用している " 2番機 " の洗濯機のドラムは " 時計回りの正転の回転に変わっている " のだ。
洗濯機のドラムが " 時計回りの正転の回転 " になると、菅波はこの場に居られず、立ち去らなければならない・・・ そこはかとなくウルトラマンの " カラータイマー " のような気がしなくもないが(苦笑)。いずれにしても筆者は、このような法則性が、この『汐見湯』のコインランドリーという空間を支配しているように思えてならないのだ。
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