
大学の伏魔殿?日米の研究室について語る!!
こんにちは、海外で現役ポスドク(生命科学系)をしておりますポス山毒太郎と申します。このnoteはあくまで毒太郎の体験を元に、偏見に基づいた感想を語っていく場です。ですのでほとんど統計値などは出てきませんので悪しからず。
筆者は日本では学部生の頃、修士博士課程の頃、ポスドクの頃と3つの研究室を渡り歩いています。米国では1つ目の研究室でポスドクをしているだけですので語るには経験不足ですが、今記事では日本の研究室の構造を解説しつつ、米国との比較について語っていきたいと思います。
大学院生やポスドク、教員の方々には釈迦に説法かもしれませんが、あるあるネタもあるので、ぜひご一読いただければと思います。
そもそも研究室って?
研究室の構造を語る前にそもそも研究室とはなんでしょうか?
筆者が思うに、大学の研究室は中小企業のようなものです。すなわち日本の大学には様々な小さい会社が入っており、それぞれ別々の仕事をしています。会社と同様、研究室には社長に値する教授から部長、課長、係長などの教職員(詳しくは後述)、さらに平社員(ポスドク)まで階層が分かれています。
では早速ですが研究室のメンバーを羅列したいと思います。
教授
准教授
講師
助教
秘書
技官(テクニシャン)
ポスドク
大学院生(修士、博士)
大学生
それでは上からそれぞれ簡単に紹介していきたいと思います。
教授
研究室のただ一人の長、いわば一国一城の主です。研究者、特に若手研究者は全員ここを目指しているはずです。
自分で研究資金を獲得して、自分で研究プロジェクトを考え、論文作成のトータルを管理する、プレッシャーもあるでしょうがその分一番自由に振る舞えることのできる、まさに「研究者」です。
たまに実験する教授もいますが、ほとんどは実験せず監督業に専念します。研究室における社長であり、神です。誰も逆らえません。
筆者が学部生の時の直属の上司はこう言いました。
「ラボの誰に嫌われても、教授に好かれていればラボで生きていける。ただしラボの誰に好かれていても、教授に嫌われたら生きてはいけない。」と。
恐ろしいですが名言だと思います。
准教授
昔は「助教授」と言われていました。研究室のナンバー2です。ここで研究者キャリアを終了する人もたくさんいますが、正直ここまで上がれたら十分でしょう。教授の右腕のような存在です。
が、結局は教授の考えたプロジェクトをやるというのが現実です。その中で自分のオリジナリティを出すこともできますが、教授には逆らえません。規模の大きい研究室や教授が大御所の場合、教授があまり研究室にいない場合もあるので、実質准教授が研究室を仕切っていることも多々あります。
講師
あんまり特筆するところはありません。准教授がいない場合はナンバー2です。准教授と助教の間です。准教授、助教にも言えますが教授と学生の間に挟まれて、結構ストレスが溜まっていそうなポストです。
助教
昔は助手と言われていました。「助教授」と名前が似ているので、白い巨塔などを見ていた方は、助教は偉いと思うかもしれません。しかし助教は教員の中では一番下です。
ただし博士課程を卒業してアカデミアに残る場合は、助教かポスドクが一般的な最初の選択肢なので、助教になったら一応の勝ち組です。
ここまでが教員です。
これらの亜種で独立准教授、独立講師、独立助教というのがあってこの方々は、"研究の上"では教授とほぼ同意です。
「独立」という単語が非常に重要で、これが冠するだけで研究室のトップという意味を持ちます。また米国の研究室の時に述べますが、このように研究室のトップ達はまとめてプリンシパルインベスティゲーターもしくはピーアイ(Principal Investigator, P.I.)と呼びます。
形式上教授の下にいますが、自分で研究資金を獲得して、自分の一存で研究プロジェクトを進めることができます。若手の優秀な研究者が就きますが、最初の契約は永年雇用ではなく更新制でその間にいい業績を出すことができれば永年雇用に切り替わることが多いです。最近は雇い止め問題で界隈を賑わせてますね。
逆に特任准教授、特任講師、特任助教という職もあって、これらはそれぞれ准教授、講師、助教と比べて、ランクは下で特任助教はポスドクと同義と言っても過言ではないでしょう。助教などよりクビが切りやすいのでしょうか?正直彼らの存在意義はイマイチわかりません。
大学での教職員の序列は上記の通りですが、理研などの研究所ではグループリーダーや、特別研究員などまた違った呼び方があります。筆者は詳しくないので語りません。
次に大学教職員以外の説明をします。
ポスドク
ポスドク側の意見(闇)に関しては、筆者の以下の記事をご覧ください。
ここでは研究室での役割について語ります。
研究室の戦闘員です。これも大学によってルールが違いますが、研究室では雇っていい教員(助教以上)の数は決まっています。彼らの給料は大学から出るからです。ポスドクにも大学から給料が出る場合がありますが、基本的には大学教員が獲得した研究資金から給料を払うことが多いので、彼ら彼女らは贅沢品、嗜好品です。
年に500万円かけてポスドクを雇うか、その500万円で試薬や機械を買うかは教授次第です。
というかポスドクも機械です。ええ、データを出す機械です。
研究室にとっては嗜好品ですので、研究室の資金次第でクビになりやすいですが、ポスドクのミッションは研究をするのみです。学生の世話や、書類仕事はあまりしなくていいので、若手としては純粋に研究にみに没頭できる最後の期間と言ってもいいでしょう。
秘書
秘書さんもいわば嗜好品で、ある程度大きいサイズの研究室にしかいません。研究室のお金を計算したり、教授の予定を管理したり、仕事は多様です。特に研究資金の終わりの期間である3月はめちゃくちゃ忙しそうにしていました。
ただし彼女ら(ほとんど女性なのであえて彼女らと呼びます。)もポスドクと同様契約期間が決まっている場合が多いです(大学によるかも?)。5年同じ職場で働いたら、無期転換(永年雇用に変更)できる法律のため5年程度でクビになります。
ただしポスドクのように研究内容にこだわりがないので、同じ大学の別の研究室に転職することもままあります。このことを利用して5年以上同じ研究室で雇い続ける裏技があるらしいです。現在出来るかわかりませんが、一定期間だけ別のラボで雇ってもらって、また元のラボに戻るという技です。
仲が良かった秘書さんが、本当はこの裏技で雇い続けられるのに、教授に飽きられてクビになると筆者に愚痴っていました。これは性的な意味ではなく、単純に存在に飽きたという意味です。だいぶ女性蔑視ですが、勿論教授の腹の中は分からないし、表面上はそんなこと言うわけがありません。
ちなみのその秘書さんは研究室を辞めるとなった途端、学科中の男どもからアプローチを受けていました笑。秘書さんは理系出身でない場合が多いので、研究室では珍しい存在で基本モテます。もしくは仕事がバリバリできるおばちゃんである場合が多いです。これも偏見ですか?
また秘書さんは研究の内容は分からないものの、得ている研究資金等は把握しているので、ちゃんと誰が伸びそうかとか客観的に評価していると思います。ですので、秘書さんに選んでもらった研究者は成功するというジンクスが筆者の中では勝手にあります。
技官(テクニシャン)
技官は「ぎかん」、テクニシャン、もしくはテクと呼びます。彼ら彼女ら(正直女性が多いです。)は、基本的には教職員に言われた実験のみを行います。行うことは多様でチップ詰めから、マウスの世話、簡単な実験と多様です。研究室の運営にとっても重要な存在です。自分のプロジェクトを持っていないことが多いです。
ただしたまにスーパーテクニシャンと言われる存在がいて、彼女らは自分でプロジェクトはないものの、そんじょそこらのポスドクより膨大な実験量を緻密に行います。人にもよりますが、土日も実験をするテクニシャンもいます。
たまたまスーパーテクニシャンを手に入れた教員や学生が、彼女に膨大な量の実験を行わせて、大量の業績を出しPIになった例を知っています。ちなみにそのテクニシャンはその教員に好意を抱いていたそうですが、実りませんでした。その教員はテクニシャンの好意を知っていて、めちゃくちゃ実験をさせてたので、筆者は少し可哀想に思っていました。
んー下世話!
自分の妹(テクニシャン)にめちゃくちゃ実験させて業績を積んだという逸話を残した有名教授もいます。若手時代に自分の手に加え、もう1人分の手を持つと他の研究者より圧倒的なアドバンテージとなります。
夫婦で同分野の研究の場合はこれに近く、共働き研究者の大きなメリットと言えるでしょう。筆者は残念ながら違いますが。。。
大学院生
詳しくはこちらの記事をご覧ください。
上で紹介した記事でも述べましたが修士課程、博士課程ともに「無料の手」です。
特に修士課程を卒業後に就職する予定の人たちは、2年目から就活もあるので最初の1年くらいしかまともに実験できません。ですので研究室の賑やかし要員と言ってもいいでしょう。彼ら彼女らが一杯いる研究室は研究科や大学の研究室対抗野球大会で強い可能性が高いです。
ただし小さい研究室では、博士課程学生、ポスドクがいないので、立派な戦闘員です。
博士課程はほとんどの場合、卒業に論文を一報発表しないといけないので、扱いはまた変わってきます。彼ら彼女ら自身も最大限の努力はしていると思いますが、彼ら彼女らを卒業させるための教員の努力も見てあげてほしいです。
大学生(学部生)
こちらも修士課程学生と同様に賑やかし要員です。就活する人も多くいるので、「無料の手」にすらならないケースも多いです。修士、博士課程に進む気がないなら、最後の学生生活を楽しんでください。申し訳ありませんが教員もあまり期待していません。
ただし修士博士課程に進む場合、修士課程より外部から入ってくる学生に対してこの1年間は大きなアドバンテージとなります。ですので研究室選びはしっかり行いましょう。
筆者はこの1年は大きいと思っていて、学部生から修士課程にかけて論文を一本まとめ、学振DCを取得するのはゴールデンコースです。筆者のようなSラン大学への学歴ロンダ組では出来ないので、生え抜き生のアドバンテージをとことん活かしましょう。
学振に関してはこちらの記事をどうぞ!
では続けて、米国のポジションについて話していきましょう。
アメリカのアカデミックポジション
PI
ポスドク
秘書
技官(ラボマネジャーも含む)
大学院生
以上です。
もちろんPIにもAssistant ProfessorやAssociate Professor、ポスドクにも、Research AssociateやSenior Research Scientistなどの上級職や、筆者もよくわかってないInstructorなどありますが、ポスドクはポスドクだと思います。
「教員少なっ!!」と思うでしょうか?
助教を翻訳すると「アシスタントプロフェッサー」となりますが、彼らは日本の助教というよりかは、上で説明しました独立助教なのでPIです。
ですので、巷で話題の成田悠輔先生は米国イエール大学のアシスタントプロフェッサーとのことですので、PIであり、日本の助教とは比べらないスーパーエリートです。
米国では基本的にPI以外は全員ポスドクです。日本では、30代後半くらいでポスドクから少なくとも助教になってないと危機感を覚えますが、米国では40歳を超えたポスドクもままいます。
では逆に日本の助教、講師、准教授はアメリカではどういう評価を受けるでしょうか?
残念ながらポスドクです。
知り合いから聞いた話ですが、ある日本の研究室にはとても優秀な准教授の先生がいます。彼はCNS(Nature, Cell ,Science)の筆頭著者の論文を複数所持している凄まじい先生です。そのラボに米国人が留学に来てこう言ったようです。
「なんであんな優秀な人がポスドクジョブをしているんだ?」
と。
そうです、日本の准教授といえど、米国ではポスドクジョブです。
勿論研究室によって色々なルールがあるので一概には言えませんが、日本の研究室は教授からポスドクまで階層があるのに対して、米国は基本的にPIとポスドクです。
正直米国の研究室事情は私の経験が少ないのであまり語れません。もし米国で就活するほどの業績ができたらまた語りたいと思います。
日本と米国のどちらが優れているかは分かりません。一長一短だと思います。日本の階層システムは古き良き年功序列システムで、その中で学生時代を育ってきた筆者としては心地よく思います。ただしやはり流動性は低いように感じます。
それに比べて米国のPI or ポスドクは極端ですが、若手にとっても常にチャンスがある点は良いと思います。
ただし、、、
基本的に筆者は留学を勧めていますが、その反面40歳を超えて燻っているポスドクもたくさんいるのも現実です。
日本においても若い研究者がPIになりやすい環境作りはとても大事なことと思います。
もしこの記事を読んだ偉い人がいましたら、ぜひ独立助教などのポストを増やすよう国に言ってやってください。そうすると筆者が日本に少しだけ帰りやすくなりますのでお願いします。
筆者の記事は偉い人に見つかると良くないんだったわ、、、。
現場からポス山でしたー!!
この記事が参考になった、もしくはいいなと思ったらぜひ”いいね”(スキともいう)よろしくお願いします。皆さんが思っている以上に”いいね”は筆者のモチベになってます!!フォローもしてくれたら、、、嬉しいなぁ(チラッ)。Xでも”いいね”してくれるとさらに嬉しいです!
この記事に出てきたリンクと関連記事まとめ
最後まで読んでいただきましてありがとうございました。本記事で出てきたリンクと関連記事を下にまとめましたので、興味がありましたらクリックいただければと思います。