ワタクシ流☆絵解き館その120 ぬくもりのある描線―中村不折の旅の絵
中村 不折・なかむら ふせつ 1866年(慶応2年)― 1943年(昭和18年)は、多才な画力を持つ絵描きだ。明治後期から昭和戦前期に亘る長い歳月、洋画家・書家として活躍し、仕事は多岐に渡るが、堅牢な油彩画とは趣のガラリと変わる洒脱な挿絵も描き、その仕事が今、筆者には最も興味がわく。今回は、不折の挿絵に描かれた風景の中を歩いてみよう。
先ずは、不折のプロフィールがわりに、油彩の風景画の方を掲げる。官展の審査官も勤めた写実の力量が、並々ならぬのがわかってもらえるだろう。
ここから、スケッチ調のモノクロの絵。ただし、これらの絵は、短文を添えた紀行画集として出版されたもので、手遊びではなく独立した作品だ。現地写生に基づいている。現在の付近の様子を絵の下に写真で並べてみた。
明治時代生まれの、洋画黎明期に画技を磨いた画家には、一方で厚い写実の力を持ちながら、もう一方では、挿絵の仕事に余技とは言えない力量と味わいを見せる例がいくつもある。
その一例として、中村不折と同時代人で、官展を中心にやはり昭和時代まで長く活躍した中澤弘光の作品を以下に掲げる。
再び、不折の絵に戻る。
現在では、建物も道路の様子もすっかり変わり、どのポイントと確定するのがむつかしい場所の眺望を以下に並べる。
カラー印刷技術は高くなく、価格が高価にもなるため、多色刷りの画集にはならなかったと思われるが、不折の絵は、モノクロならではの味わいを、輪郭線の太さのバリエーションと柔らかさで醸し出している。
不折が当代の人気画家であり得た理由が、この画集からよくわかる。
令和4年3月 瀬戸風 凪