失踪トロピカル

死亡フラグが立ちました!
というタイトルから軽妙さが伝わる小説で知った作家、七尾与史さん。
昔からテンポよく進む文体が好きで、彼の作品もその一つだった。
ピクトグラムが特徴的な表紙はコミカルな内容を期待させてくれた。

そして、今回書きたい失踪トロピカル。
同じ作者の、同じようにピクトグラムが表紙にいる。死亡フラグ〜はシリーズ物で、2作読んだところだった。シリーズとは違うけれど、同じようにコミカルなお話だろうと信じて購入した。

結果から言うと大いに裏切られた。

大いに。何もコミカルではない。シリアスだなんて話でもない。グロテスク。グロテスクスリラー。

物語はタイを舞台に、カップルがとある事件に巻き込まれていくもの。秘密集団が実行するそれは到底人間の所業ではない。

目も当てられない作業を進めていく描写がまさにスリラーと称するに相応しい。見たことも無いその様が浮かび、背筋がゾワゾワした。
しかし、シリーズを2作読みたくなるほど、文体が好みなのだ。もう読みたくない、これ以上この仕打ちを知りたくないと恐怖に震える反面、物語の結末が気になって仕方ない。
結局1度目の読了は学生ながら夜中の3時頃だった気がする。

読了して、物語が終わってくれた安堵と共にハッピーエンドではなかったことを恨んだ。
誰も報われない、誰も救われない。加えるなら次の事件の香りを漂わせて終わってしまう。タイ側からすればとんだ風評被害だな、と思わせる小説。

好みの小説というのはストーリーよりも文体によるところが大きい気がする。もしストーリーがより重要なら私は途中で読むのをやめたと思う。
しかしながら、学生時分に読み、詳細こそ忘れていたもののトラウマ作品なことは強烈に覚えているくせに1週間ほど前に読み返してしまった。

そしてまた、二度と読むまい、と誓った。

さて、未来の自分に恨まれる前に売り払ってしまおう。

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