映画『春の香り』プロダクションノート♯11. (文芸社:小林拓)
私がこの映画と同タイトルの原案書籍『春の香り』を意識して手にとったのは、本の刊行から遅れること4か月、2022年12月半ばのことでした。
TTGlobalの堀さんとのあいだで映画化のお話が出ており……という作者・坂野さんご夫妻からの連絡がきっかけだったかと記憶しています。年明けすぐにプロデューサーの堀さんとも電話でき、その後は氏の情熱に衝き動かされるままに、本作の映画化に向けてサポートしてきました。
エンタメの王道である「映画」なので、もちろん商業的な成功を目指すことが求められますが、それを目指しつつも版元の立場である私の役割は、原作者である坂野さんご夫妻の心情に寄り添うことでした。そのためにまず私はスマホの写真アプリを開き、春香さんの命日である2020年12月20日に、自分がいったい何をしていたかを振り返ることにしました。
開いたそこには、凍った池の氷を木の枝でつついて遊ぶ、とりとめもない私の家族の風景が映っていました。枝で氷を割り、手元にたぐり寄せては、顔の前にもちあげて氷越しの笑顔をレンズに向けてみたり、足元に落として割ってみたり……。写真や映像だけでなく、記憶にも残っている平和な思い出です。私が何気なく家族と戯れていたあの長閑な午後、坂野家の皆さんは、家族のなかで最年少の春香さんを見送る時間を過ごしていたのです。その事実が急に身に迫ってきて、胸が強くしめつけられました。
そうして私は、春香さんをはじめとする、本のなかで知る“作中の坂野家の方々”と私が、その日同じ世界に生き、同じ時間を過ごしていたことを実感しました。その実感を保ったまま、私は私なりに、映画製作に向けて心を注ごうと腹を据えた瞬間でした。現実と映画が「別もの」であるからこそ、それが必要なのだろうと──。
映画『春の香り』は、ご自身も白血病の娘さんの闘病を支えた実体験をもつプロデューサーの堀さん、経験豊富な丹野監督、そのおふたりとの関係も深い脚本のカマチさん、そしてキャストの美咲姫さんや佐藤新さんという優れた陣営に恵まれ、奇跡のような作品としてこの世に産み落とされようとしています。自身もクリエイターだった春香さんがご存命なら、どんな感想を述べられるのでしょう。
勝手なことをいえば、この映画のストーリーは、10代の春香さんがきっと夢みたことだろうと、制作者たちが全身全霊で想像し、それをフィクションの上で具現化した春香さんご本人へのプレゼントになるのでしょう。そしてそのフィクションと並走する現実、堀さんとの出会いからはじまる映画製作に向けたこの数年間のできごともまた、春香さん亡きあとの坂野家の方々にとっての、大きな贈りものになっただろうか、そうであればいいなと、さらには、これから迎える公開後の展開のすべても──と、祈りを込めて、いまは3月7日の劇場公開を待っているところです。
映画『春の香り』プロダクションノート 第十一話 終
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この映画『春の香り』公式Noteでは、映画『春の香り』に関わった方々の普段あまり語られない映画が完成するまでの成り立ちや、映画の細部に宿る物語を、これから映画をお楽しみいただく皆様に向けて、つまびらかにしていく目的で執筆しています。
映画に関わったスタッフを中心にそれぞれの目線で語られる映画『春の香り』今後、続々と更新していきますので、ぜひお楽しみにお待ちください!
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