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スペイン・バレンシアを襲った秋の豪雨「DANA」①

日本でもすでに報道され、ネット上では衝撃的、もしくは感動的な動画をご覧になった方もいるかと思います。

現地時間10月29日(火)、バレンシア州をはじめ、アンダルシア州などスペイン各地で「DANA(ダナ)」という豪雨に見舞われ、いくつもの街が洪水の被害を受けました。

DANAはその後も度々スペイン各地を襲い、11月に入ってからもカタルーニャ州や再びアンダルシア州などで洪水の被害に見舞われました。

これらの水害により、スペイン国内での死者は220人以上にのぼりました。
そのうちのほとんどが、最もひどかった10月29日のバレンシア州での犠牲者で、バレンシア州では現在もまだ、数十人の行方不明者がいると伝えられています。

スペイン、いやヨーロッパでも未曽有の大災害となった今回のDANA。
なぜここまでの痛ましい災害となったのか、今回は、日本の皆さんにもぜひ知っていただきたく、書いていきたいと思います。


DANAとは

今回の災害について、現地スペインの報道や人々のSNSを見ると、「DANA(ダナ)」という言葉を目にします。

DANAとは、スペイン語の「Depresión Aislada en Niveles Altos」の頭文字を取った略語で、Depresión Aislada en Niveles Altos(デプレシオン・アイスラダ・エン・ニベレス・アルトス)とは、高レベルの単独性低気圧という意味です。

DANAは大気上層にある低気圧なのですが、西風の帯状循環気流から完全に切り離されて単独で発生します。
通常、北半球では高高度で形成される帯状の気流の南側に孤立して現れ、何日も大気循環から切り離されたまま不規則な軌道を描き、東から西へ逆行することもあります。
特に夏の終わりから秋にかけて、バレンシア州をはじめとする地中海沿岸地域では海面水温が高く、雲が発生しやすくなるため、DANAには要注意と言われています。

毎年秋になると降るこうした雨のことを、スペイン語で「gota fría(ゴタ・フリア)」とも呼びます。
gotaは「しずく」、fríaは「冷たい」という意味なのですが、このgota fríaが降ると、スペインの人々は、本格的な秋の訪れを感じます。

DANAとgota fríaは、同じ気象現象です。
人々の間では昔からgota fríaという言葉が使われてきましたが、最近は専門家を筆頭にDANAという名称が使われるようになってきました。

スペインで初めて発生した線状降水帯

日本でもここ数年でよく聞くようになった気象用語「線状降水帯」。
雨量や風の凄まじさを、皆さんもよくご存知かと思います。

今回スペインを襲ったDANAは、まさに線状降水帯でした。

10月29日以前から、スペイン上空には寒気を伴った低気圧が「寒冷渦」として渦を巻いて数日間停滞していました。
そこに暖かい地中海から湿った空気が送り込まれ、ちょうど地中海沿岸部であるバレンシア上空で次々と雨雲が発生していた状況でした。

今回のDANAは、この雨雲が強く発達し線状降水帯が発生したものと考えられています。
スペインでは、線状降水帯は今回初めて発生した気象現象と言われており、バレンシア州の内陸の町、今回被害が大きかった地域の1つであるChivaなどでは、たった8時間で約1年分の雨量が降りました。

被災地

今回のDANAにより、バレンシア州の他にもアンダルシア州、カタルーニャ州などスペインの各地で災害が発生しました。
その中でも最も被害が大きく、220人を超える犠牲者が出ているのがバレンシア州です。

泥水で茶色の街と化したバレンシア南部の街と川/出典:Imagen aérea de Valencia tras la DANA. Foto MAXAR.(elEconomista.es)

当noteでは、私の在住地であるバレンシア州を取り上げていきます。

バレンシア州でDANAの被害を受けた自治体

バレンシア州で被災した自治体マップ/出典:Municipios afectados por la DANA en la provincia de Valencia(elEconomista.es)

報道によれば、今回のDANAで78の自治体が被災したとされています。
これは、バレンシア州総自治体の約27%に及びます。

私が住むバレンシア市内では、主に南部のFaitanar、La Torre、Forn d'Alcedo、Castellar-Oliveral、Pinedo、 El Saler、El Perelló、El Palmarの一部の地区が被害を受けました。

バレンシア市以外の自治体で被害を受けたのは、以下のとおりです。(アルファベット順)

  • Alaquàs

  • Albal

  • Albalat de la Ribera

  • Alborache

  • Alcàsser

  • (l') Alcúdia

  • Aldaia

  • Alfafar

  • Alfarb

  • Algemesí

  • Alginet

  • Almussafes

  • Alzira

  • Benetússer

  • Benicull de Xúquer

  • Benifaió

  • Beniparrell

  • Bétera

  • Bugarra

  • Buñol

  • Calles

  • Camporrobles

  • Carlet

  • Catadau

  • Catarroja

  • Caudete de las Fuentes

  • Corbera

  • Cullera

  • Chera

  • Cheste

  • Chiva

  • Dos Aguas

  • Favara

  • Fortaleny

  • Fuenterrobles

  • Gestalgar

  • Godelleta

  • Guadassuar

  • Llíria

  • Loriguilla (sólo núcleo urbano junto a la A-3)

  • Llaurí

  • Llocnou de la Corona

  • Llombai

  • Macastre

  • Manises

  • Manuel

  • Massanassa

  • Mislata

  • Montserrat

  • Montroi

  • Paiporta

  • Paterna

  • Pedralba

  • Picanya

  • Picassent

  • Pobla Llarga

  • Polinyà de Xúquer

  • Quart de Poblet

  • Rafelguaraf

  • Real

  • Requena

  • Riba-roja de Túria

  • Riola

  • Sedaví

  • Senyera

  • Siete Aguas

  • Silla

  • Sinarcas

  • Sollana

  • Sot de Chera

  • Sueca

  • Tavernes de la Valldigna

  • Torrent

  • Turís

  • Utiel

  • Vilamarxant

  • Xirivella

  • Yátova

Zona ceroとなったPaiportaの状況

Paiportaは、今回の災害で「Zona cero」と言われています。

ゼロのゾーン。
つまり最も甚大な被害を受けた地域で、当時はバレンシア市内と同様、特段の豪雨が降っていたわけでもなかったにも関わらず、氾濫した川の水によってわずか数分で1.5m、最高時高さ3mまで達した濁流は、街を丸ごと飲み込みました。

スペインのPiso(ピソ:マンション)は、建物の1階部分はテナントになっているのが一般的です。
スーパー、パン屋、文房具屋、郵便局、理髪店、スポーツジム、飲食店などなど、建物1階で経営していたあらゆる商店、施設、オフィスが水に浸かり、流されました。

Paiportaをはじめ、バレンシア南部の地域では、渓谷からの水を地中海沿いのアルブフェラ湖に流れ込む水路があります。
バレンシア州は、そもそも地中海気候の温暖な地域で雨がそれほど降らないため、1年の大半はこれらの水路にはほとんど水が流れていません。
しかし、内陸の渓谷や市町村からの川の水を一手に引き受けているため、今回のように雨が多く降ると、水路の流量が一気に増します。

Paiporta、Picanya、Sedaví、Alfafar、Massanassa、Catarrojaといった、最も被害が大きかった地域では、水路の鉄砲水が許容量を超えたことで川や水路が氾濫し、洪水が起こりました。

災害発生後の各交通機関と現在の状況

今回の災害により、バレンシア市内と各地を結ぶいくつもの主要道路、高速道路、鉄道、地下鉄、Tranvía(トラム:路面電車)が、複数の箇所で壊滅的な打撃を受けました。

流された大量の車と瓦礫で寸断された線路:出典:Efectos de la DANA en el municipio de Alfafar(rtve)

Picanyaでは、水路の氾濫によって橋が1つ崩壊し流されました。
バレンシア西部、南西部(いずれも内陸方面)の道路、路線はほぼ壊滅状態。
さらに沿岸部では、南部のAlicanteに向かう高速道路を含む道路、路線も遮断され、バレンシア州では実に40以上の車道と、鉄道、地下鉄が機能不全となり、一時、州全体が陸の孤島と化しました。

バレンシア郊外から市内を繋ぐ人々の足、地下鉄(metro)と路面電車(Tranvía)のセントラルオフィスは、バレンシア郊外のXirivellaにあり、列車の運行、ネットワーク全体の設備、地下鉄のセキュリティ設備、これらすべてを制御・管理している指令室は、このオフィスの1階にありました。

今回のDANAでXirivellaも深刻な被害を受け、セントラルオフィスは浸水。
これにより、水害がほぼなかったバレンシア市内を走る地下鉄と路面電車も含め、全線が運航停止となりました。

11月23日時点、現在は復旧が進み、一部の道路、鉄道(高速鉄道を含む)、数線の路面電車は運行を再開しています。
地下鉄は現在も全線運休状態で、12月上旬の全線復旧をめざしているところです。

11月23日時点の地下鉄と路面電車の復旧状況と臨時バス運行案内マップ/出典:FGV

次回につづく

普段は気候も比較的穏やかなバレンシア。
まさかこんな未曽有の大惨事が起きるとは、私自身はおろか、このバレンシアに住む誰もが想像もしていなかったでしょう。

そしてそれはきっと、スペインの気象庁も政府も、バレンシア州政府も…だったのだと思います。

次回は、災害後のバレンシアの様子、そしてなぜバレンシア州がここまでの大惨事となってしまったのかについてお話ししようと思います。

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