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一人居酒屋はこんな風に(新高円寺・四文屋)
はじめて一人で居酒屋に行ったのは23歳のときだったと思う。
牛丼屋もカラオケも旅行も一人で行けるけれど、居酒屋は一人で乗り込むには何となく勇気が必要で、ズルズルとデビューが遅れていたのである。
その日は夏のはじめの蒸し暑い日で、同棲していた彼が帰省か何かで留守にしていて、狭いワンルームの部屋でぽつねんと過ごしていた。動画を見るのにも飽きてスマホを閉じると、なんだか異様なほど静かで、明るくてざわざわした場所が妙に恋しい。
そこで、ギリギリ外に出れるTシャツに着替えて、私はルック商店街にあるやきとんのお店・四文屋に向かったのだった。
![](https://assets.st-note.com/img/1702817162002-KsnkKNufSk.png)
1回目を乗り越えればあとは気楽なもので、私は一人飲みにすっかりハマり、以来ひとりご飯の選択肢に居酒屋がランクインするようになった。
四文屋は小ぶりな銀色の皿に、小ぶりな串が載ってくるのがありがたい。
女子一人で飲むには、量が少なめなお店が嬉しいのだ。
1杯目のビールを飲みながら、最初に頼んだ長芋の浅漬けをつまみ、串が焼けるのを待っていると、気持ちがゆるゆるとほどけていくのを感じる。
(ちなみに、長芋の浅漬け・レバごま塩・ししとう串を初手に頼むのが私の鉄板コース。特にレバごま塩串は絶対はずせない美味しさなのである)
座る位置は絶対カウンターがいい。
テーブルだと向かいのテーブルの人と目が合ってしまうし、遠くから「すみません!」と大きな声で店員さんを呼ぶのもなんだか気恥ずかしい。1人ならカウンターがある店一択である。
そして、ほんのりちょうどよく顔見知りの店主さんがいるとなお良い。
新高円寺店の店主のワニさん(仮名)は、おそらく日本以外の国にルーツがあるのだと思うのだけど、プロ中のプロの居酒屋店主さんで、彼が威勢よく呼び込んだり、てきぱきと串を焼いたり、ビールを出したりするのを眺めているだけで元気が出てくる。
ワニさんに「いらっしゃい!今日はひとり?お好きな席ドウゾ~」と迎えられると、ホームに帰ってきた感じがして心底安心する。
一方で、飲んでる間は特におしゃべりするわけではない、この絶妙な距離感。プロだなぁ。
シメの焼きおにぎりとスープまで平らげてお店を出ると、家にいたときの妙な孤独感だったり、誰に言うほどでもないモヤモヤした気持ちがすっかり消えている。
そうか、人は安心して一人になりたくて、一人で飲みに行くのかもしれないなぁと思う。赤提灯とお店の明かりは、1つひとつが誰かの心のシェルターである。
だとすれば、この街全体が巨大なシェルターなのかもしれないな。大都会トウキョウに浮かぶ、飛行船アサガヤ・コウエンジ。
なーんてね。なんて考えながら、青梅街道を歩く。さぁて次はどこへ行こうかな。