うれしいブーメラン
「あれから、自分が考えたことを時々書いているんです」
中国からの留学生が日本語の授業前に話しかけてきた(わたしは、日本語教師をしている)。
「あれから」というのは、数週間前に立ち話をした時のことだ。
なかなか観察眼に優れた人で、「日本語を勉強し始めたばかりのときは、みな『上手ですね』ってほめてくれたのに、今はほめられないんですよね」とか、「日本人の新入生の英語のレベルが(2年前より)上がっていると思う」とか、「日本の大学生が日本人らしくなくなっている。なんか言うことがはっきりしてますよね」とか、日本の大学生活での気づきを話してくれる。
そのたびに、わたしは思ったことを言ったり言わなかったりしている。
日本人学生が変化していることもあるかもしれないけれど、もしかすると留学生が以前は気づかなかっただけかもしれない。
その留学生自身の日本語力も入学当初とは雲泥の差だから、その分見えるようになったこともあるかなと思う。あと、間違いなく、さまざまな経験を積んで大人になっているというのもあるだろう。
その人の話を聞いてそんなことを思いながら、ふと思いつきで言ってみた。
「そうやって考えていることをノートに書いてみたらどう?いつもおもしろいことを考えているから。たくさん集まったら、本ができるかもよ(笑)」
「ノート」と言ったとき頭の中でちらっと「note」に変換されたが、このときは言わなかった。ちょっと、恥ずかしかったんだな。
それで、冒頭の話に戻る。
正直、本当に書き始めるとは思っていなかったので驚いた。あいさつというか社交辞令というか、その程度に受け取っているかと思っていた。わたし自身、そんなところがあるから余計かもしれない。
「書いてみるとおもしろいんですよ。自分はすごく客観的に物事を考えていると思っていたんですけど、書いて読み返してみると、すごく主観的だということがわかったんです」
日本語で書くというだけでもすごいと思うけれど、書いて、読み返して、フィードバックまでしている。
そう、書くことによって自分のいいところだけでなく、甘い部分とか適当な部分とか汚い部分とかも見えてくる。
きちんと考えているつもりだったのに、論理が破綻しているとか。何が言いたいかがわからない、ということがわかったりとか。
わたしも、noteを書くようになってそれを知った。
思いがけない、うれしいブーメラン。
「しばらく続けるつもり」と言うので、わたしも負けじと書いていこうと思う。(勝ち負けではないのだけれど)。