【短編小説】 気配
帰宅したら玄関の家の電気が点いていた。
たぶん出て行くときに消し忘れただけなんだけど、僕たちは顔を見あわせた。中から人間の気配がするからだ。
*
僕たちは一歩ずつ家の中へと歩を進めていった。坂本龍一の連載「ぼくはあと何回、満月を見るだろう」の最終回を思いだす。長らく帰っていなかった家は主人を迎えると喜ぶ、と書いてあった。しかし、僕たちがいないあいだに主人が入れ替われば、家は僕たちを迎え入れることを拒絶するだろう。
漠然とだが、僕たちは歓迎されていないような気がした。まるで他人が愛用する物に触れたときに感じるよそよそしさ、無機質さがそこにはあった。
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