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描く人 と 描かない人 の 狭間の景色 映画『ルックバック』

学年新聞で4コマ漫画を連載している小学4年生の藤野。
クラスメートから絶賛され、自分の画力に絶対の自信を持つ藤野だったが、ある日の学年新聞に初めて掲載された不登校の同級生・京本の4コマ漫画を目にし、その画力の高さに驚愕する。
以来、脇目も振らず、ひたすら漫画を描き続けた藤野だったが、一向に縮まらない京本との画力差に打ちひしがれ、漫画を描くことを諦めてしまう。

しかし、小学校卒業の日、教師に頼まれて京本に卒業証書を届けに行った藤野は、そこで初めて対面した京本から「ずっとファンだった」と告げられる。

漫画を描くことを諦めるきっかけとなった京本と、今度は一緒に漫画を描き始めた藤野。
二人の少女をつないだのは、漫画へのひたむきな思いだった。
しかしある日、すべてを打ち砕く事件が起きる…。

https://lookback-anime.com/


原作を読んだ時よりも動いている2人に愛らしさを感じた。

この映画は描く人の景色描かない人の景色その狭間の人の景色が見えた映画だった。

わたしは描かない人というよりも描けない人だけれど、我が家には描く人がいる。

藤野と京本に近いものをリアルに側で見てきた。
小学生特有の残酷な発言も含めて、別な角度から追体験したような気分だった。

この映画では藤野と京本の親御さんはほぼ登場しない。京本に至っては一度もなかった。

藤野が2年間交友関係を断ち昼夜問わず絵に没頭する姿に、親御さんはこれが小学生の健全な姿なのだろうかと不安で心配になったこともあるのではないだろうか。

藤野の姉が

母さんたちさー
言わないだけで
あんたのこと 心配してんだからね
ずっと部屋 籠ってるし
テストは全然ダメだし

と言うセリフがある。

そこには親御さんが娘を否定せずに最後まで居場所を作ってあげていた愛情が感じられた。

黙って見守っていたからこそ姉がたまらず声をかけたのだと。

そして藤野が京本に卒業証書を届けるシーン。

廊下に並ぶ大量のスケッチブックは、積み重ねてきた時間の違いを表していた。

わたしにはこのシーンも京本の親御さんの愛情を感じずにはいられなかった。

学校へ行けなくなってしまった我が子を見ているのは想像以上に辛い。

あのスケッチブックが積み重なる廊下は、京本の親御さんが我が子の軌跡を残し、彼女の居場所を認めてあげていた証だと思った。

中学生になった2人のシーンも、藤野が学校に行っている間に京本は藤野家で絵を描いている。

それは藤野家と京本家の親御さんの理解が合ってこそのシーンだと思う。

親になってわかった黙って見守ることの大切さと、心配ゆえの難しさ。

行けなかった時間に情熱を注げるものがあって、そこに集中できたことは必ず財産になることを知っている。

小さい頃は好きなキャラクターの絵の上にトレーシングペーパーを重ね、ひたすらトレスすることから始めた。

トレスなしで見て描けるようになるまでに時間はかからなかった。

毎日洗顔や歯磨きをするように、絵を描くことが日々のルーティーンに組み込まれていった。

リビングで描く人の側を通りすぎるとき、家族が口々に

「また描いてるの?」

と思わず言ってしまうぐらい、いつも同じ姿がそこにあった。

友達と遊ぶ方が楽しい時期も、ゲームの方が楽しい時期もあったけれど、結局最後は描くことに戻ってきた。

ルーティーンは大人になるまで続き、誰も「また描いてるの?」とは言わなくなった。

忘れられない狭間の景色がある。

友達にどうしたら絵がうまく描けるようになるのか?と問われて「努力」だと答えていたと学校の先生から聞いた。

その言い方が冷たかったと。

先生はこう続けた。

泳げない人がどうしたらうまく泳げるようになる?と聞いて、努力だと返されたようなものだと。

努力だと答えたことには背景がある。

何年にもわたっていろんな人から同じ質問をされ続け、まずは模写を勧めてみた。

けれど未だかつてそれを始めた人はいないと知っていたから。

藤野と京本のように、10代で互いを高め合える存在に出逢えたことは本当に奇跡なのだと思う。

その時の言い方が悪かったというのは良くわかる。けれどあの時、とても悔しかったことを思い出す。

「してますよ、努力」

そうわたしが言った時、先生が心底驚いた顔をされた。

その瞬間、あぁ…これが描かない人の景色なのだなと感じた。

帰ってからも先生の例え話がどうにもしっくりこなくて、どうしたら伝わるだろうかと考えた。

そして間接的ではあるがこう伝えてもらった。

先生の例えでいうならば、
アスリートに向かって練習方法はどうでもいいから、手っ取り早く上手く泳げるようになるにはどうしたらいい?

と、聞いているようなものなんですと。

それ以来、その先生はわたしに近づいて来なくなった。

それでもいい。

見ている景色が違うのだから。



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